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加速器研究施設アーカイブ 2014/4/21

pdf 高エネルギー物理学研究所振動測定とその解析 (4.8MB)

 

解説

1971年のKEK発足直後、つくばは日本での有感地震回数日本一の指摘を受けて、大いに驚いた、と言うのは陽子シンクロトロン(PS)の750kV前段加速器の建設を担当していたからである。リニアックへの入射には、現在はRFQが使用されているが、当時は大気型のコッククロフト高圧発生装置が主流で、これにイオン源用電源、水素ボンベ、制御装置、電源用発電機を搭載したハイボルテージ・ターミナルを併設した。いずれも高さ5mの構造物で、地震の影響を受けやすい。

 

KEKの建屋は、清水建設(株)が建設していたので、建屋の地震対策を尋ねたところ、
 卓越振動
 建屋の共振周波数
 構造物の共振周波数
を一致させないのが原則であると指摘された。ここで卓越振動と言うのは、その場所での土地固有の微小振動で、地面は一般に固い地盤の上に柔らかい層があるので、いわば片持ち梁の固有振動のようなものと説明された。そして頻繁に自動車が近くを走ると測定出来ないとのことであったが、当時はまだ東大通りは未完成で、KEK関係以外の車は殆んど利用していなかった。そこで清水建設(株)はKEKの全建設工事を一時中断して、卓越振動を測定した。

コッククロフト高圧発生装置とハイボルテージ・ターミナルは、すでに素研準備研究(素粒子研究所準備研究、この計画の規模が1/4に縮小されてKEKが発足した。)の段階で、田無の東大核研(東京大学原子核研究所、後にKEKと合併)で建設され、つくばへ移設されたものなので、それらの共振周波数も測定してもらった。シンクロトロンのビーム強度を増強するには、前段加速器の強度を向上させねばならず、強度は空間電荷制限により決められていたので、加速管の加速ギャップを出来るだけ狭くしようとする結果、加速管の放電は不可避であった。放電によりハイボルテージ・ターミナルの電位は大幅に低下するため、コッククロフト高圧発生装置が壊れないように両者を3mの高抵抗で接続した。ところがこの抵抗により両者が連成振動を起こして、振動エネルギーが交互に集中し、いずれかが破壊する可能性が指摘されて、機械的な接続を取り止めた。

清水建設(株)は、茨城県での地震のデータを持っていたので、それでコッククロフト高圧発生装置とハイボルテージ・ターミナルのシミュレ-ションを実施したところ、無事である事が確認された。しかし北海道での地震では壊れるとのことであったけれども、PS稼働中にこのような大地震は起こらない事を期待して運転した。PSシャットダウン後も前段加速器は単独で使用され、後に建設された偏極陽子用前段加速器と共に、東日本大震災でも無傷であった。

〜 元PS入射器担当 福本貞義氏記 〜

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