ILC とは
ILCの仕組みを約2分のアニメーションでご紹介します。
© 2010 ILC, all right reserved / rendered and authored by Rey. Hori
国際リニアコライダー(ILC)は、49の国と地域の300以上の大学や研究所の科学者やエンジニア2,400人以上が参加する国際的な取り組みです。対面する2つの線形加速器で構成されているILCは、電子とその反粒子である陽電子を加速して衝突させます。 絶対零度に近い温度で運用される超伝導加速器空洞は、加速器の中心にある検出器の中で衝突するまで、加速して粒子にエネルギーを与えます。 本格運用時には、電子と陽電子のビームが1秒間に約7,000回、250ギガ電子ボルト(GeV)の重心系衝突エネルギーで衝突し、大量の新たな粒子が生成されます。 それらの粒子はILCの測定器で捉えられ記録されます。
それぞれのビームには、人間の髪の毛よりもはるかに小さい領域に200億の電子または陽電子が集中しています。 このことにより、粒子の衝突頻度は非常に高くなります。 この高い「ルミノシティ」と、衝突する粒子から起こる非常に正確な相互作用により、ILCは、欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)で最近発見された、ヒッグス粒子などの性質を詳細に測定するための豊富なデータを取得することができます。 また、暗黒物質のような物理学の新しい領域にも光を当てることができます。
ILCは当初重心系エネルギー500ギガ電子ボルトの加速器として設計されていました。 この新たな設計は、加速器の建設コストの削減と、それによるILC早期実現に資するものです。
国際リニアコライダー(ILC)を紹介する動画「The International Linear Collider: worldwide collaboration in the search for new physics」が完成しました。このビデオは、アメリカ物理学会(APS)がWebedgeエデュケーションとのパートナーシップの元に運営する「APS TV」のコンテンツとして作成されたもので、東京大学、岩手県立大学、先端加速器科学技術推進協議会と高エネルギー加速器研究機構が協力しました。
最新動画
ILC の組織
世界各地で行われているILCの加速器及び測定器に関する研究開発活動と計画推進の活動は、リニアコライダーコラボレーション(LCC)が中心となって進めています。 LCCのディレクターは、前LHCプロジェクトマネジャーのリン・エバンス氏が務めています。 LCCの活動は、ICFAの下部組織であるリニアコライダー国際推進委員会(LCB: Linear Collider Board)によって監督されています。 現在LCBは中田達也氏(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)が議長を務めています。 (ウェブページ: International Linear Collider)
国際リニアコライダー(ILC)の国際推進組織であるリニアコライダーコラボレーション (LCC ) の新組織が発足いたしました。新体制の任期は、2017年1月から3年。ディレクターは、引き続きリン・エバンス氏(元LHCプロジェクトマネージャー、ロンドンインペリアルカレッジ教授)。副ディレクターは村山斉氏(カリフォルニア大学バークレー校教授)が続投します。LCCには、遂行される研究領域に対応する3つの下部セクションが設置されており、CLICセクションはスタイナー・スタプネス氏(CERN)が引き続きリードし、ILCセクションは 道園真一郎氏(KEK)が、物理・測定器セクションは ジム・ブラウ氏(米オレゴン大学)が指揮を執ります。
ILC のしくみ
電子 (Electrons)
ILCで加速される電子は、強力なレーザーを金属の標的に当てることでたたき出されます。そのレーザーは、2ナノ秒の間、瞬間的に 繰り返し照射されます。1回の照射で取り出される電子は数億個。それらの電子は電磁場によって「バンチ」と呼ばれるかたまりにされ、250メートルの前段加速器を通過する間に5ギガ電子ボルトのエネルギーにまで加速されます。
陽電子 (Positrons)
陽電子は電子の反物質。地球上では自然に存在しないので、人為的につくらなければなりません。まず、「 アンジュレータ」と呼ばれる磁石の中に、主線形加速器からの電子ビームを通します。すると、電子ビームの軌道が上下左右にローラーコースターのように蛇行します。このときに放射される高エネルギーX 線をチタン合金の標的に当てると、電子と陽電子が生まれます。この陽電子を集め、250メートルの前段加速器を通して5ギガ電子ボルトまで加速します。一方、アンジュレータを通りすぎた電子ビームは引き続き、主線形加速器によって加速されます。
粒子測定器(Detectors)
電子と陽電子のバンチは、ほぼ光速でたがいに衝突します。そこで繰り広げられる壮大な衝突を記録するため、2台の粒子測定器が設置されます。これらの粒子測定器は、巨大なデジタルカメラといえます。このカメラを使って、電子と陽電子から生まれる素粒子のスナップショットを撮影するのです。新たに創りだされる素粒子の貴重な情報をもれなく取り込むため、2台の最先端測定器は相 補的な機能を備えています。2つの測定データをつきあわせて、新しい物理現象の証拠を確かなものにするのです。
主線形加速器(Main Linac)
電子と陽電子は、それぞれ全長12キロメートルの2台の線形加速器で加速され、衝突点に向かいます。線形加速器の本体は、数珠つなぎに連なる多数の超伝導加速空洞です。この加速空洞は冷却容器の中に設置されています。この冷却容器はクライオモジュールと呼ばれ、液体ヘリウムによって運転時には-271℃( 絶対温度2度)まで冷やされ、超伝導状態となります。ここに、外部から電磁エネルギーを送り込んで、必要な加速電場を発生させるのです。最終的に250ギガ電子ボルトまで加速された電子と陽電子のビームは、およそ1000ジュールのエネルギー、平均電力に換算すると10メガワットの電力になります。電子と陽電子の生成から加速までの全過程は、1秒の間に5 回の割合でくりかえされます。
ダンピングリング(Damping Rings)
電子源や陽電子源でつくられるバンチは、そのままでは粒子の密度が低く、多数の素粒子反応を効率よく起こすことができません。そこで、電子用と陽電子用にそれぞれ1台ずつ、周長3.2キロメートルのダンピングリングを導入します。ダンピングリングには「ウィグラー」という電磁石が何台も連なっています。ビームがウィグラーを通過すると、その軌道が左右に揺さぶられてX線を放射します。リングを周回することによってビームがウィグラーをくりかえし通過すると、バンチの粒子密度はしだいに小さくなり、長さは数ミリメートルに、幅は髪の毛よりも細くなります。ダンピングリングの通過時間はわずか0.2秒間。しかし、ビームはその間にリングを約1万周もするのです。
ビーム収束システム(Beam delivery system)
ルミノシティを最大限まで上げるために、衝突点ではきわめて小さなサイズまで粒子ビームを絞り込みます。衝突点でのビームサイズは、厚さ数ナノメートル、幅数百ナノメートル。このサイズにビームの焦点を合わせる装置が「ビーム収束システム」です。2キロメートルの範囲に設置された電磁石群で構成されるビーム収束システムは、敏感な測定器に悪影響を与える、バンチの中心から大きくそれた粒子をとり除いたり、電子と陽電子のビームが最適に衝突するようにビーム軌道などの条件を微調整する機能も備えています
LHC と ILC
5TeVビームが初めて衝突した3月30日に4つのすべてのLHC実験で衝突イベントを観測した。(CERN)
2010年3月30日:現地時間13:06分、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロンコライダー(LHC)が重心系エネルギー7兆電子ボルトでのビーム衝突を達成。はじめてテラ・スケールに直接到達することに成功しました。
LHCは周長27キロメートルのトンネルに建設された円形加速器です。反対方向に回る2つの陽子ビームを加速し正面衝突させます。ただし、陽子はクォークやグルーオンといった素粒子から構成される複合粒子であるため、衝突によって生じる素粒子反応は非常に複雑で、その中から重要な反応を探し出すのは容易ではありません。
一方ILCは電子と陽電子を加速して衝突させる直線加速器です。電子も陽電子も素粒子なので、非常にクリアな素粒子反応を見ることができます。つまり、LHCが未知の領域を上空から俯瞰し、ILCが優れた精度でその俯瞰図にズームインするのです。LHCがどんな新しい眺望を見せてくれるのか。世界中の素粒子物理研究者が、新しい発見を心待ちにしています。
ILC から生まれるさまざまな技術
超高性能の加速器、国際リニアコライダー(l LC) には、数多くの、高度な先端技術が必要とされます。素粒子を高エネルギーに加速するために使われる、超伝導高周波加速空洞の技術。加速された粒子の衝突反応を記録する、優先端の測定器技術。ピムをナノメトルサイズまで絞り込み、やはりナノメートルの精度で制御する技術ーILCのプロジェクト全てが、挑戦的技術の集合体なのです。これらの先端技術を実現し、さらに精度を上げていくために、世界中の研究者たちがR&D に取り組んでいます。同時に、産業界では、これら超ハイテク機器の大量生産の準備が進んでいます。ILCから生まれる技術が、私たちの暮らしに活かされる日は、遠くありません。
医療応用
人頭部のCTスキャン
ガンの早期診断の強力なツールとして、現在注目が集まっているのが「陽電子放出断層撮膨機(PET) J. PETは、反粒子の研究から生まれたもので、臓器内における化学反応の視覚化を実現しました。また、「陽子線療法J は、精密に制御された陽子線を、ガン等の服傷部位にあてる放射線治療法。これまで治療の困難だった部位の治療でも、高い効果を上げています。
現在、このような診断、治療には、大型で高価な機器が必要ですが、ILCの「超伝導高周波加速技術J を応用すると、装位の大幅な小型化や消費電力の削減が可能になります。また、加速器のフィードパック技術を使えば、患者の呼吸に放射線照射を同期させて集中照射し、周辺の正常組織には影響を与えずに治療ができます. さらに、超伝導加速伎術を使って発生させる次世代X線は、生体内反応やタンパク質構造の解明等に役立ち、新薬の開発にも期待がかかります。
コンピューター技術
加速器実験の計算機センター
ILCや、現在稼働中の世界最大の加速器、大型ハドロン・コライダー(LHC)に必要なデータ転送速度は、全世界の通信量に匹敵する程膨大です。このニーズに対応するために、最先端のコンピュータ技術や通信技術、素粒子物理学者が開発したグリッド・コンピューティング・ソフトウェアが重要な役割を果たしています。
これらのコンピューター技術もまた、他分野で活躍しています。欧州の研究所で開発された「MammoGridデータベース」には、約3万件の乳房X線撮影像(マンモグラム)データが保存されており、医院や医師がそれらの情報を共有。患者の有効な治療に役立てられています。す。
未来の「道具」を創る
加速器技術を応用した、貨物コンテナのガンマ線透視画像
科学プロジェクトへの挑戦は、産業プロセスの効率化や、新技術の開発、それに伴う経済の活性化につながります。
ILCでは、微小な粒子ビームを確実にモニタリングし、的確な修正を迅速に行う必要があります。このために開発される機村は、高度な電子集積回路の製造設計に役立つと考えられており、産業プロセスの大幅な改善や、ナノテクノロジー製品の品質向上に弾みをつけることでしょう。
また、電子ピムリソグラフィーは、コンヒ・ユータの小型・軽量化に、加速空洞の研廓技術は、金属工業におけるコスト削減や、より深い素材特性の理解に役立ちます。大量生産される超伝導空洞やその周辺機器の製造に必要とされる高度な専門技術が、超伝導技術全般に応用されることもあるでしょう. ILCの電子源技術は、電子顕微鏡の性能を向上させ、磁気ディスク産業を革新することも期待されています。さらに、測定器の技術を貨物コンテナの検査に応用すれば、内容物の精査が容易になります。素粒子物理の研究成果が、税関で活かされる日も、もうすぐかもしれません.
他分野で活かされるILCの技術
シンクロトロン加速器でのX線散乱によるタンパク質構造の可視化
加速器から生まれる「放射光」はこれまで、様々な科学分野で応用されてきました。例えば、米国の放射光施設ALSでは、鳥インフルエンザのウィルス構造や、ヒト受容体の特性を解明しました。これら放射光の分野にも、ILCの技術が活かされています。
ハイパワーで指向性の強い第4世代の放射光「自由電子レーザー(FEL)」は、リニアコライダーの研究から派生した技術。現在、米国や日本、ドイツで建設が進んでいます。エネルギー回収リニアック(ERL)は、核物理学や物質科学、化学、構造生物学、環境科学など、幅広い分野で大いに応用が期待されている次世代放射光源、ILCの超伝導技術は、ERLの小型化と大幅なコスト削減に役立ちます。
さらにILCの技術は、陽子や原子核の加速にも応用できます。陽子加速器から生成される核破砕中性子源は、生物学分野の研究などにも幅広く貢献しています。また、物質科学分野に応用することにより、医療用インプラント製品の開発、金属の腐食防止、飛行機の軽量化など、さまざまな場面での活躍が期待されています。