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ミュオンによる半導体研究

◙ 半導体ソフトエラー評価技術の確立

▞ 安心、安全な社会

共同実験チームのメンバー

近年注目されている電子機器の不具合の原因の一つにソフトエラーと呼ばれる現象があります。電子機器が放射線(宇宙線)に曝された際に生じる一過性の誤動作や故障のことで、宇宙線とメモリ素子との相互作用により、メモリ情報(論理)が反転するシングルイベントアップセット(SEU)現象に起因すると考えられています。

宇宙線とは、宇宙空間を高エネルギーで飛び交っている極めて小さな粒子のことで、半導体デバイスの微細化・低消費電力化が進むにつれ、放射線耐性は低下しており、従来懸念されてきた宇宙線中性子ばかりでなく、宇宙線ミュオンによるソフトエラー発生の可能性も指摘されています。地上に絶え間なく降り注いでいる「中性子」や「ミュオン」が、電子機器の頭脳にあたる半導体にぶつかるとどうなるのか?内部で特殊な電気的な反応が起こり、半導体に記録されたデータが部分的に乱されてしまいます。
宇宙線が偶然、半導体にぶつかり、それによって誤作動が起きるソフトエラーの確率は非常に小さなものですが、コンピューターや半導体を搭載した電子機器が、洪水のようにあふれている現代社会においては、宇宙線はもはや無視できないリスクとなっています。宇宙線によるソフトエラーが、想像もつかないような大きな被害をもたらすおそれがあるからです。

 

参考図: 負ミュオンが半導体メモリデバイスに入射し、   
負ミュオン捕獲反応で発生した二次イオン(陽子やヘリウム等)
により電荷が付与されて、ビット情報反転が生じる現象の模式図
(九州大学、大阪大学、KEK、J-PARCセンター、JAEA
のプレスリリースより)

以前から、研究者の間では電子機器が誤作動する原因として「宇宙線」が指摘されてきましたが、いつどこで起こるのか、どれくらいの影響があるのか、よく分かっていませんでした。 そこで、宇宙線により引き起こされるソフトエラーの頻度を確かめる実験が試みられてきましたが、より手軽な手法で対策を見つけ出そうと、J-PARC内のミュオン実験装置MUSEにて実験を行っています。九州大学の渡辺幸信教授のグループ、大阪大学の橋本昌宜教授のグループ、KEK、J-PARCセンター、日本原子力研究開発機構(JAEA) が連携して、半導体デバイスに対する正および負ミュオン照射試験を行った結果、正ミュオンに比べて負ミュオンの方がメモリ情報のビット反転の発生確率が高くなることがわかりました。

ソフトエラーが初めて実験的にも明らかになったことで、対策の重要性を実感するとともに、IoTの普及に伴い幅広い分野でのソフトエラー対策は避けて通れないテーマとなりつつあります。
今後は、さらに試験データを蓄積し、シミュレーション手法の精度を高めたソフトエラー発生率の評価技術の確立を目指します。

なお、この分野にかかる研究で、
JST 16H03906(基盤研究B :A半導体デバイスのミューオン誘起ソフトエラー率評価のための技術基盤構築)
OPERA(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム :半導体デバイスのミューオン誘起ソフトエラー率評価のための技術基盤構築) の助成も受けています。

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◙ ミュオニウムを用いた半導体電気伝導性の起源の解明

▞ 半導体科学への貢献

半導体とは、電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質のことです。
パソコン、携帯電話などの情報機器から家電製品まで、半導体を使いこなす技術の上にますます深く依存するようになっている現代生活においては、半導体は欠かせないものとなりました。
また、このような用途とは別に、発光素子の材料としての半導体も、今や我々の生活には欠かせないものになりました。より高速で、より低電力で、あるいはより過酷な条件下でも使えるものを、といった半導体材料の開発とその物性制御は最先端の研究課題となっています。 半導体の物性制御で一番重要なのはその伝導性の制御ですが、よく知られているように半導体の伝導性は非常にわずかの不純物で敏感に変わるため、そのような不純物原子の半導体結晶中における電子状態の理解は半導体物理の主要なテーマの一つになっています。 現在最も応用が期待されている半導体材料である酸化亜鉛(ZnO)は伝導性の制御が困難で、その原因は長年の謎でしたが、最近の実験で水素がその原因であることが明らかとなりました。
半導体は規則正しい結晶構造をしていますが、その中に不純物を混ぜた時に、半導体中の電子がどのようなエネルギー準位を持つか、どのような電気的性質を持つようになるか、これを理論的に予測することは極めて困難です。半導体の素材の研究は、経験と数多くの実験結果に頼らざるを得ないこともあり、今後μSR実験の果たす役割が大きくなるものと思われます。
物質中にミュオンを照射することで、その崩壊の様子から物質中での水素原子の振る舞いを自由にシミュレートすることができる、μSR実験は半導体の性質を系統的に理解するための重要なツールの一つになり得るもので、半導体科学への貢献のためにも、さらなる謎の解明に取り組んでまいります。

Shimomura, Kadono et al., Phys. Rev. Lett. 92 (2004) 135505.

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