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KEK-TRIUMF若手向け交流プログラムでカナダの若手研究者が滞在

若手研究者のためのKEK-TRIUMF交流プログラム(KEK-TRIUMF Exchange Program for Early Career Researchers; EPECR)が行われ、カナダの国立素粒子原子核物理研究所、TRIUMFから3名の若手研究者がKEK素核研に滞在しました。本プログラムは、加速器科学やその関連分野を牽引し、KEKとTRIUMF間で新たな共同研究を生み出すような次世代の研究者を育成するため、2018年度から始まった交換研究プログラムです。(TRIUMF ウェブサイトを参照)。

 

2019年度の今回TRIUMFからKEK素核研に派遣されたのは、Chukman Soさん、松宮亮平さん、Gabriel Santucciさんです。

Soさんが滞在した素核研g-2/EDM実験グループでは、「ミューオン」という電荷を持つ素粒子が持つ磁力の大きさを、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)の加速器を用いて精密測定し、実験値の理論値からのずれを求める事で、標準理論を超える新物理の兆候を掴む事を目指しています。Soさんは、スイス・ジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機構(CERN)で反水素にはたらく重力を測定する研究を行なっていますが、その実験には磁場の形を丁寧に設計した特殊な磁石が必要になります。その技術はg-2/EDM実験グループで使用する技術が応用できるため、今回EPECRで、Soさんは実験グループに関連する研究者との交流を通して、精密な磁場を得るための磁石調整の原理やコイルの配置方法を計算する手法を学びました。

松宮さんが滞在している素核研UCN実験グループでは、運動エネルギーの極めて小さな中性子、超冷中性子(UCN:Ultra-Cold Neutron)を用いて中性子電気双極子モーメント(中性子EDM: Electric Dipole Moment)の探索実験を行なっています。中性子は電気的に中性な粒子ですが、非常に小さなスケールで見れば内部に電荷の偏りがあるかもしれません。中性子EDMはこの電荷の偏りから生じます。素核研UCNグループはTUCAN国際共同実験に参加し、中性子EDMを精密に測定することでCP対称性(物質・反物質の対称性)の破れの起源の解明を目指しています。松宮さんは大学院生の頃からUCN源の開発に携わっており、今回もUCN源の開発に必要となる超低温装置の試験と冷凍機内に設置する熱交換器の開発等のため、EPECRに申し込みました。TUCAN国際共同実験のためのUCN源の開発には日本グループが大きな貢献をしており、特にKEKでは最重要要素であるヘリウム3冷凍機の開発を行っています。UCNを効率的に生成するためには生成領域を1.0 K程度の低温に保つ必要があります。大量にUCNを生成するために必要な冷凍能力は10 Wと見積もられており、それを可能にする熱交換器の開発を行っています。

Santucciさんが滞在したT2Kグループでは、J-PARCで生成した大強度のミュー型ニュートリノビームをJ-PARCから295km離れた岐阜県神岡町にある巨大検出器、スーパーカミオカンデに送り、ミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノへ変化する事象(T2K実験グループが2013年に発見)の研究や、ニュートリノ振動におけるCP対称性の破れの探索などを行なっています。J-PARCでは加速した陽子を標的にぶつけることでニュートリノなどの粒子を生成していますが、陽子ビームラインには、ビームの強度や位置・形状を測定する陽子ビームモニター装置というものが設置されています。Santucciさんは、この装置のうち、陽子ビームが標的にぶつかる直前にビームの形状をモニターする「OTRモニター」の研究を、T2K実験やビームラインの専門家と共に行いました。

2019年度のEPECRプログラムは大成功を収めました。参加者や受け入れ担当教員からは、「今後別の機会でもKEKでグループの人達と研究を続けたいです」、「次回はぜひ私たちのグループの若手にもTRIUMFで経験を積んで欲しいです」といった前向きな声が寄せられ、EPECR を通じてKEKとTRIUMFの若手研究者の研究・技術的な交流が続くことを願っていました。

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