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KEK素核研理論センターの宋 勤涛さんが第3回SOKENDAI賞を受賞
2019年11月8日
総合研究大学院大学(総研大) 高エネルギー加速器科学研究科 素粒子原子核専攻 理論センター所属(当時)の宋 勤涛(ソン・キンタオ)さんが第3回SOKENDAI賞を受賞し、2019年9月27日、学位記授与式後に授賞式が執り行なわれました。SOKENDAI賞は、総合研究大学院大学の理念と目的に照らして、特段に顕彰するに相応しい研究活動を行い、その成果を優れた学位論文にまとめて課程を修了し、学位を取得した修了生を表彰する賞として平成30年度に創設されました(引用 総合研究大学院大学webサイト: https://www.soken.ac.jp/news/6383/ )。
宋さんが受賞した博士論文は「パイ中間子と重陽子の構造関数」というタイトルで、パイ中間子(注1)と重陽子(注2)を扱った3つの理論研究がまとめられています。
1つ目の研究は、パイ中間子の一般化パートン分布振幅(GDA)(注3)と重力形状因子に関するものです。パイ中間子などのハドロンは素粒子の仲間であるクォークが複数個結合してできた粒子です。ハドロンの内部には、クォークやグルーオンというクォーク同士を結びつける「強い力」を媒介する粒子の分布に偏りがあり、質量や圧力の分布も均一ではないと考えられています。そこで宋さんは、KEKつくばキャンパスのKEKB加速器を用いたBelle実験から得られたデータを用いて、パイ中間子のGDAと、パイ中間子内部の質量と圧力の分布を示す重力形状因子を世界で初めて求めました。宋さんはさらに、得られた重力形状因子からパイ中間子内部の質量・圧力の分布と平均半径を求めました。実験データから質量分布などを求めたのは、この研究が世界で初めてです。2019年3月からは、KEKB加速器とBelle測定器をアップグレードしたBelle II実験で物理解析のためのデータ取得が開始されましたので、今後のGDA研究の発展が期待されます。
2つ目の研究成果として、宋さんは陽子・重陽子の衝突からミューオンが生じる「Drell-Yan過程」における、スピン(注4)非対称性の理論予測をしました。重陽子には、陽子にはないスピン1粒子に特有な構造が存在しますが、宋さんは、この新たな性質がDrell-Yan過程で研究できることを示しました。この研究成果は、アメリカにあるフェルミ国立加速器研究所における、陽子と重陽子を用いたDrell-Yan過程の実験で使用される予定です。
3点目は、重陽子のグルーオントランスバーシティの研究です。トランスバーシティとは、スピンの偏極方向を揃えた重陽子内のグルーオン分布のことです。重陽子のグルーオントランスバーシティは非常に小さいため未だ観測されていませんが、もしこれが観測されれば重陽子の新たな性質が分かるため、これからの重陽子研究にとって重要な物理量です。宋さんの研究では、陽子と重陽子の反応から重陽子のグルーオントランスバーシティを観測する可能性を提案しました。
受賞に際し、宋さんは「SOKENDAI賞を頂けて光栄です。4年前に総研大に入学して熊野 俊三 教授(KEK理論センター)の下で高エネルギーハドロン物理学の研究を始めましたが、多方面に渡る素粒子物理、原子核物理、宇宙論の優秀な研究者や学生に囲まれた環境で最新の物理学に触れることができました。理論センターや総研大で研究した経験はかけがえのない財産となりました。どれだけ忙しくとも議論に付き合って下さった熊野教授や、橋本 省二 教授(同上)を始めとする博士論文の審査員の皆様、総研大、文科省の奨学金、そして私の家族の支援に感謝します。」と受賞の喜びと各方面からの支援への感謝の声を聞かせてくれました。
用語解説
注1:パイ中間子
最も軽い中間子。クォーク模型によれば、クォークと反クォークが結合した粒子。
注2:重陽子
陽子と中性子それぞれ1個ずつで構成される原子核。
注3:GDA
クォークとその反粒子である反クォークからハドロンとその反ハドロンのペアを作り出す割合を示す物理量。
注4:スピン
素粒子や原子核にはまるで自転しているかのような性質があり、この性質をスピンと呼びます。