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【Belle II 実験】フェーズIII 用の崩壊点位置検出器 (VXD) の準備が本格化〜東京大Kavli IPMUのクリーンルームでSVD第4層の最後のラダー製作が終了〜
2018年5月29日
国が支援するWPI (世界トップレベル研究拠点プログラム) 拠点の一つ、東京大国際高等研究カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) は5月28日、SuperKEKBプロジェクトのために開発した、シリコンバーテックス検出器 (SVD) の“ラダー(はしご)”と呼ばれる部品19本 (うち3本は予備品) の生産を終了したと発表しました。SVDは、電子・陽電子の衝突で生じるB中間子、反B中間子の崩壊位置を知るため、Belle II 測定器の中心部に設置される崩壊点位置検出器 (VXD) の一部です。3月から始まったPhase II 運転では、VXDの替わりにバックグラウンド測定用のBEAST装置が挿入されており、本番のPhase III 運転前の今秋、両者の入れ替えが予定されています。
Kavli IPMUの樋口岳雄准教授の研究チーム [Kavli IPMU、KEK、東京大学理学系研究科、東京理科大学、東北大学、新潟大学、日本歯科大学、慶北大学 (韓国)、ソウル大学 (韓国)、国立核物理研究所 (イタリア) のスタッフや大学院生が参加] が生産を担当したのは、衝突点のビームバイプを囲むピクセル検出器 (PXD) の上層に設置される四層のSVDのうち、最も外側にあるもので、長さ749ミリ、幅60ミリの金属製の支持体の上に半導体センサー5枚が横に並べられ、その上に電気信号を読み出す集積回路が接着されています。このSVDラダー計16枚を長辺方向に連結して円筒形を作り、衝突点を覆い隠すような構造にしています。
PXDやSVDに使われるシリコンセンサー自体は、専門メーカーに発注しますが、部品までの加工や最終的な組み立てについては、プロジェクトに参画する国内外の各大学や研究所が分担して実施しました。Kavli IPMUは2011年から生産の準備を開始し、研究棟1階にクリーンルームを設置。画像測定器や産業用ロボットなどの機材も揃え、2015年までに製作工程を確立。2016年3月に最初のプロトタイプを完成させ、翌々月から生産工程に入りました。
樋口准教授は「SVDラダーは高価な部品の組み合わせですが、そもそも人の手では高い精度でセンサーを並べることができません。そのため、20以上の治具を開発し、高精度で組み立てる工程を確立しました。期待通りの性能を発揮できると確認してからも、均一な品質の確保に苦労しました」と語ります。
KEKつくばキャンパスでは現在、SVDの残り半分の組み立て作業が大詰めを迎えており、ドイツで製作され、間もなく送られてくるピクセル検出器 (PXD)と合体させることができれば、本番のフェーズ III 運転で使用する崩壊点位置検出器 (VXD) の組み立てが完了することになります。
細心の注意を払い、センサーに集積回路を接着
東京大柏キャンパス内にあるKavli IPMUの研究棟。1階の真新しいクリーンルーム(約50平方メートル)内に、クリーンウェアを着用して入ると、IPMUのスタッフや他大学の大学院生など3人が、最後の1本のSVDラダーの製作に取り組んでいました。
静かな機械音だけが響き、緊張した空気が流れるなか、金属製の作業台の上をのぞくと、五つのセンサーを断熱材で覆ったラダー支持体の上に、集積回路(APV25)を接続したフレッックス基板が置かれており、3人は、カメラで細部を拡大したモニター画像を確認しながら、専用の接着剤を少しずつ塗布する作業を手作業で行っていました。
SVDラダーに設置されたセンサーは、大きさが10×6センチほどですが、表に512本、裏に768本の微細なストリップ(縞状の電極)が形成されており、荷電粒子がこのストリップ近くを通過すると電気信号が出るようになっています。表と裏のストリップは十字を描くように直交しており、表面と裏面の電気信号を同時に読み取ることで、粒子がどこを通過したかを二次元的に判定できる仕組みです。この仕組み自体は新しいものではなく、前身のBelle実験にも使われていましたが、Belle II 実験に伴う測定器のアップグレードに伴い、SVDラダーにも設計上の工夫が施されました。
一つが、電気信号を読み出す集積回路をラダーの両端ではなく、センサーの直上に置くという設計で、”chip on sensor” と呼ばれています。これにより、集積回路までの配線が短くなり、読み取り速度が高速化し、ノイズの抑制にも効果を発揮することがわかっています。
もう一つが、”chip on sensor” となったことにより、必要となった “origami concept” です。表面のストリップはワイヤーボンドによって集積回路とつながっていますが、裏面には集積回路がないため、そのままでは電気信号を読み取れません。そこで、裏面に貼り付けたフレックス基板を折り紙のように折り返し、表面の集積回路に裏面の電気信号が読み取れるように工夫しています。
センサー、フレックス基板、集積回路の三つはワイヤーボンドと呼ばれる微細なワイヤで結ばれますが、それを可能にするのが手作業による確実な接着工程だといいます。KEKにも在籍していたことがある樋口准教授は「ここまで来るには長い時間がかかりましたが、ようやく第四層の16本と予備の3本、合わせて19本を作り終えることができ、ホッとしています」と語りました。
関連リンク
東京大 Kavli IPMUのプレスリリース
プレスリリース関係
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新物理を探る Belle Ⅱ実験
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