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J-PARCハドロン実験施設へのビームパワーが50kWを超える
2018年2月19日
日本原子力研究開発機構(JAEA)とKEKが共同運営する東海村のJ-PARCは、メインリング加速器(MR)からハドロン実験施設へ取り出す陽子ビームの増強を進めていますが、このほど待望の50kW超となる運転が始まりました。ハドロン実験施設では、100kWを超える世界最強強度の陽子ビームで素粒子原子核実験を行うことを目標としており、その中間点である50kWを超えることが一つのマイルストーンでした。
J-PARCでは、大強度の陽子ビームを利用し、ハドロン実験施設やニュートリノ実験施設での素粒子原子核実験や、物質・生命科学実験施設での物質構造解析など多くの実験を行なっています。ハドロンとは、強い力に関係する粒子の総称で、バリオン(重粒子)とメソン(中間子)に区別されています。これらはクォークという素粒子が強い力で結びついたもので、陽子や中性子などクォーク3つを含むものがバリオン、一つのクォークと一つの反クォークで構成されるのがメソンである、と説明づけられています。
ハドロン実験施設の実験ホールは、J-PARCの最下流にある体育館のような外観の建物(南北の幅が58メートル、東西の奥行きが56メートル)で、MRで30GeV(3百億電子ボルト)のエネルギーまで加速した陽子ビームを、5.2秒に一度、2秒間かけてゆっくり取り出し、金の標的に衝突させ、K中間子やπ中間子などを生成しています。これらのハドロンを利用して多種多様な実験を行うことで、原子核の中で働く”強い力”の性質や、強い力で質量が生まれる仕組み、さらに物質が優勢の宇宙の起源である”CP対称性の破れ”などを探求しています。
陽子ビームのパワーは、エネルギーの大きさと単位時間あたりに流れる陽子の電荷量を掛け算して求められます。パワーが大きいほど単位時間あたりに生成されるハドロンの数が多いため、事象数が少なく統計量の必要な測定には高いパワーのビームが有効となります。
ハドロン実験施設では2009年1月にMRからビームを初めて取り出し、2011年の東日本大震災による被災とその後の復旧、2013年の事故とその再発防止のための改修を経て、2015年4月に24kWで運転を再開し、その後も徐々にビーム強度を上げてきました。そして、2018年1月31日に50kWを超える運転を初めて達成したということです。
時間をかけて陽子ビームを取り出すタイプの加速器施設では、米国のブルックヘブン国立研究所(BNL)のAGSが1995〜97年に67kWで運転されており、KEK素粒子原子核研究所の小松原健教授は「高い強度のビームになれば、標的から生じる二次粒子の数が増え、実験の統計量を増やせるメリットがあります。今後は加速器からの取り出しビームの増強とともに大強度対応の標的の開発を続け、100kWを目指したいと考えています」と話しています。