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KEK公開講座2017にCMB研究グループの2研究者 ユーモア交え約180人に夢語る
2017年12月11日
KEKの研究成果や加速器科学について一般の方々に広く紹介する「KEK公開講座2017〜宇宙のはじまりを観測するすごい実験」が12月9日、KEKつくばキャンバスで開かれました。今年度2回目となる今回は、素粒子原子核研究所のCMB(宇宙マイクロ波背景放射)研究グループの長谷川雅也・硏究機関講師と、田島治・京都大学大学院理学研究科准教授の二人が、研究本館小林ホールに集まった約180人に、ユーモアを交えて日頃の取り組みを報告しました。
まず、最初に登壇した長谷川講師が「宇宙のはじまりを見る」と題して講演。長谷川講師は「宇宙のはじまりは、いわゆるビッグバン(熱い宇宙)ではありません」と前置きしたうえで、「量子重力が支配するふわっとしたはじまりがあり、その直後にすごい加速度的な膨張、つまりインフレーションが起きたという説が有力です」と説明しました。
その宇宙のはじまりの調べ方として、「はるか遠くを見れば、より昔の宇宙を見ることになります」と解説し、ビッグバン直後の生まれたての宇宙の姿(宇宙誕生から38万年後)として、ミリ波であるCMBが50年ほど前に偶然発見された経緯を紹介。CMBの温度が全天のどこを見ても3ケルビンとほぼ一定であることから、「宇宙の一様性問題、平坦性問題を解決する手段の一つとして、日本の佐藤勝彦博士らが、ビッグバンの前にインフレーションがあったという仮説を導き出しました」と説明しました。
さらに、「インフレーション仮説と矛盾する観測結果はないけれど、決定的な証拠はまだ見つかっていません。量子重力が支配するふわっとしたものからもミクロな重力波が出ており、それがインフレーションで引き延ばされたものが原始重力波です。それがCMBに渦巻きのような特徴的な偏光パターン(Bモード偏光)を残すことが理論的に予測されており、それが見つかればインフレーションの証拠になります」と発言し、南米チリの高地で実施中のポーラーベア実験と、カナリア諸島で行う予定のグランドバード実験の根拠を説明しました。
続いて、田島准教授が登壇し、「ビッグバン残光を測る技術と応用」と題して講演。ビッグバン残光であるCMB、その偏光パターンを精度よく観測するための技術と工夫を紹介しました。ノイズを減らすための「冷やす」、大気による揺らぎを抑制するための「回す」、冷却の大敵となる赤外線を遮断するための「断熱する」という、「三拍子揃った観測機器が不可欠です」として、自ら特許を出願した発泡スチロール製の断熱材などについて解説しました。
さらに、こうした測定方法の工夫が他の分野にも役立てられる例として、ゲリラ豪雨の予兆である局地的な水蒸気の上昇を観測する装置「クモデス」を紹介しました。「同様に、大気中の水蒸気分布を測れば、GPSなどを使った測地精度の向上も期待でき、それを地震予測や火山活動監視へ応用する可能性もあります」と語りました。
また、「応用の応用」の取り組みとして、宇宙の4分の1を占めるダークマター(暗黒物質)を探索する実験も紹介しました。クモデスの上にアルミ板を置き、超軽量のダークマターが作りだすミリ波を見つけようとするユニークな試みです。田島准教授は「ビックバンの残光を見る技術は大変すごいもので、これまで見えなかったものを色々見ることができるという意味で、まさに測る産業革命となる技術なのです」と結びました。
各講演の後には会場からは多くの質問が寄せられていました。
長谷川講師に対しては、「宇宙が一点から始まったのか。それはどこか」「原始重力波の作るBモード偏向はいくつあるのか」「Bモード偏光はなぜ渦巻きの形になるのか」「インフレーションは量子力学を超える理論からも導き出されたのか。超弦理論も関係あるのか」「原始重力波起源のBモードが見つかれば、佐藤博士はノーベル賞を取れるのか」。田島准教授に対しても、「クモデスを使ったダークマター探索に大変ワクワクした。ダークマターは他の銀河にも多いのか」「ダークマター探索の結果が出るまでに何年かかるのか」「クモデスの値段はいくらか」「ダークマターは均一に分布しているのか、どこかに集中しているところがあるのか」「GPSの精度向上が地震の予測に使えるとはどういうことか」「ダークエネルギーはどこにあるのか」など多くの質問が寄せられました。