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ミューオン専用加速器実現へ大きな一歩

素核研の大谷将士博士研究員らが中心となり、J-PARC g-2/EDM実験のためのミューオン専用加速器の設計を世界で初めて完成。 その研究成果が、4月25日発行のアメリカ物理学会 Physical Review Accelerators and Beams に掲載されました。

J-PARC g-2/EDM実験においてミューオン専用加速器は欠かすことができない開発要素です。 J-PARCセンターなどとの共同研究である本研究成果は、ミューオン専用加速器実現へ向けて大きな一歩だといえます。

今後は、実機の制作に取り掛かり、すでに準備の整っているIH-DTL上流の加速器RFQと今年度予定されている新設ミューオンビームラインにて、実証試験を行う予定です。

 


以下で、ミューオン加速器と今回の設計のポイントに関して簡単に解説します。

ミューオン専用加速器とその他の加速器

加速器とは荷電粒子を、電気の力でほぼ光速に加速する実験装置のことです。 その歴史は1930年代にはじまり、以降、素粒子・原子核物理学の発展と歩みをともにしてきました。

現在、世界各地の素粒子実験施設で、電子や陽子などの粒子の加速はすでに行われており、最近では重イオンを加速させる医療用加速器も開発されています。 しかし、素粒子のひとつであるミューオンの加速はいまだ実現できていません。

ミューオン加速の難しいところ

ミューオン加速を難しくしている大きな要因は、ミューオンに寿命があることです。 電子や陽子と異なり、ミューオンは約2マイクロ秒で崩壊してしまいます。

ミューオンの寿命の時間内で、すみやかに加速しなければならないため、加速空洞はコンパクトにする必要があり、また、より低コストな技術で作ることも大事になってきます。 そのため、IH-DTLとAPFと呼ばれる技術を組み合わせた形の加速器設計を採用しました。

加速空洞の仕組みとIH-DTL

加速空洞とは粒子を加速するための装置のことです。 IH-DTL (Interdigital H-mode Drift Tube Linac の頭字語) は、その一種で、端的にいうとすみやかな加速ができる加速空洞です。

その加速原理は、1960年代に提案されていました。 しかし、設計には電場分布の3次元シミュレーションが必要であり、コンピュータのマシンパワー不足という理由でこれまで実現できていませんでした。

ビーム収束の必要性とAPF

APF (Alternative Phase Focusing の頭字語) は加速したビームを収束させる方法です。

通常の加速器では、永久磁石や電磁石で作った磁場を使ってビームを収束させています。 しかし、これだと磁場を作るためのパーツが増えるため、加速器が大きくなってしまいます。

APFは、磁場ではなく電場だけを使って収束させる方法なので、パーツ数を減らすことができ、よりコンパクトな設計が可能になりました。

今後の展望

J-PARC g-2/EDM実験にとって、ミューオン専用加速器は欠かすことができない開発要素です。 今後は、実機の制作に取り掛かり、すでに準備の整っているIH-DTL上流の加速器RFQと今年度予定されている新設ミューオンビームラインにて、実証試験を行う予定です。

 

本研究は基盤研究(B) 15H03666の助成を受けたものです。

論文情報

雑誌名
Phys. Rev. Accel. Beams 19, 040101 – Published 25 April 2016
タイトル
Interdigital H-mode drift-tube linac design with alternative phase focusing for muon linac
著者
M. Otani, T. Mibe, M. Yoshida, K. Hasegawa, Y. Kondo, N. Hayashizaki, Y. Iwashita, Y. Iwata, R. Kitamura, and N. Saito
DOI
10.1103/PhysRevAccelBeams.19.040101

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