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堺井義秀教授らが第7回折戸周治賞を受賞

素核研の堺井義秀教授と名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構の飯嶋徹教授が第7回折戸周治賞を受賞しました。 「B中間子系における小林・益川行列の精密測定」の研究において、両氏は実験グループの中で指導的な役割を担って研究を推進し、これらの測定に成功。 その多大な成果と貢献が高く評価されました。

 

Belle実験による小林・益川行列の精密測定の研究において、堺井氏は、一連のCP対称性の破れ研究の中で要となるB中間子識別のチームをリードした後、さらにCP対称性の破れの測定全体のまとめ役としてグループの成果に貢献。 飯嶋氏は荷電B中間子がタウレプトンとニュートリノに壊れる極めて稀な崩壊を検出し、第3世代と第1世代が混ざり合う確率の大きさを測定しました。

現在、KEKでは、この後継であるBelle II実験と呼ばれるさ らに大きな国際共同実験を進めており、間もなく開始予定です。 両氏はそこでも引き続き指導的役割を果たし、今も中心的貢献を続けています。

今回の受賞に関して、堺井氏は「Belle実験による多くの測定により、標準理論のパラメータとの整合性を精度よく確認できた意義は大きく、今後のBelleII実験による新物理探索へとつながる成果である」とグループ全体の成果であることを強調していました。

平成基礎科学財団は「基礎科学に関する理解の増進を図るとともに、基礎科学に関する研究・教育活動を奨励し、もってわが国の基礎科学の振興に寄与すること」を目的として2003年に設立され、「折戸周治賞」は基礎科学である衝突型加速器による素粒子研究あるいはそのための加速器研究において実験または理論の優れた研究業績を挙げた研究者に対して顕彰されます。


受賞理由についての簡単な解説です。

CP対称性の破れとBファクトリー実験

CP対称性の破れの大きさは、粒子と反粒子の違いを表す指標であり、中性K中間子の崩壊の研究ではじめて発見された。この現象を説明するため、小林・益川両博士は、 3世代(=6種類)のクォークを想定した小林・益川模型を提唱し、クォークの質量状態と弱い相互作用の固有状態を結ぶクォーク混合行列の成分にCP対称性を破る原因があるとした。

アップ、ダウン、ストレンジの3種類のクォークしか見つかっていなかった当時の予言であることもさながら、小林・益川模型で予言された残りの3種類のクォーク(チャーム、ボトム、トップ)は順次発見された。

小林・益川模型によってCP対称性の破れについて更なる新しい研究の道が切り拓かれると、特に第3世代のボトムクォークを含むB中間子の崩壊におけるCP対称性の破れが理論的に検討されはじめた。

そして、その検証を目的とするBファクトリー実験が提唱、建設され、中性B中間子の崩壊がCP対称性を破る典型的なモードであるJ/ψKS崩壊の測定でCP対称性の破れが確認された。 この結果は小林・益川模型の予想と整合し、模型の正しさを証明するものであった。

Belle実験とクォーク混合行列の精密測定

小林・益川模型のクォーク混合行列全体を確定するには、さらに多くの崩壊モードを観測し、全行列要素を精密に測定する必要がある。 B中間子の崩壊モードには、CP対称性を破る崩壊モードが上記の典型的な崩壊モードの他にもいくつかあり、それらを含めて出来るだけ多くの崩壊過程を精密に観測した上で、行列全体の整合性を確認しなくてはならない。

クォーク混合行列はユニタリー行列という性質を持つため、その行列成分はユニタリー三角形と呼ばれる三角形に置き換えて表現できる。 つまり、クォーク混合行列の精密測定とは、このユニタリー三角形の形をきちんと調べることである。 三角形には3つの辺と3つの内角があるが、CP対称性の破れが生じるB中間子崩壊のすべてのモードの測定は三角形のそれぞれの内角を測定すること、セミレプトニック壊崩と呼ばれるB中間子がレプトンとニュートリノを含んだ崩壊をするモードの測定やB中間子混合の測定は三角形の各辺の長さを測定することに相当する。

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