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三部勉准教授らが平成27年度西川賞を受賞
2016年3月18日
素核研の三部勉准教授と理化学研究所の石田勝彦副主任研究員が共同で平成27年度西川賞を受賞。 両氏が中心となって推進してきた「極冷ミューオンビーム実現のためのミューオニウム標的開発」の功績が評価されました。 この技術はミューオン g-2/EDM 実験の基幹技術開発のひとつであり、ミューオニウム生成量の大幅な増大は実験実現の大きなマイルストーンです。
西川賞は公益財団法人高エネルギー加速器科学研究奨励会によって顕彰され、加速器ならびに加速器利用に関る実験装置の研究において、独創性に優れ、かつ論文発表され、国際的にも評価の高い業績をあげた、原則として50才以下の研究者・技術者に授与されます。
授賞式典は2月15日 (月) にアルカディア市ヶ谷にて行われました。
受賞理由についての簡単な解説です。
ミューオン g-2/EDM 実験
素粒子のひとつであるミューオン(ミュオン、ミュー粒子とも呼ぶ)の基本的性質である異常磁気モーメントの精密測定と電気双極子モーメントの発見を目指す実験。 東海キャンパスの大強度陽子加速器J-PARCを用いる実験で、現在、実現に向けた準備が進んでいる。
実験実現のためには、以下のような研究開発課題がある。
- 超低速ミューオンの大量生成
- 超低速ミューオンの加速
- 加速したミューオンの測定器への螺旋状入射
- 小型電磁石で均一磁場を発生する方法およびそのモニタリング
- 測定器のレート耐性
今回の技術開発は、1番目の「超低速ミューオンの大量生成」に直結し、実験の統計量が必要な高精度測定には欠かせない要素である。
磁気モーメント
素粒子はスピンという地球の自転に似た物理的性質を持つ。 磁場の影響を受けるとスピンは回転し、その回転軸が磁場の軸の周りに円を描くような運動(歳差運動)をする。 その影響の受けやすさを表す定数を「磁気モーメント」と呼ぶ。 磁気モーメントの大きさは、標準理論により極めて精密な理論値を計算することができる。
ミューオン異常磁気モーメント
磁気モーメントは量子ループ効果により、すべての素粒子相互作用による量子補正を受ける。 その量子補正の大きさを異常磁気モーメントと呼びg-2と表記する。 異常磁気モーメントの値は標準理論から極めて精密に計算ができるため、「未知の物理現象」が介在するならばその効果は理論値からのずれとして顕著に表れると考えることができる。 そのため、異常磁気モーメントの精密測定によって標準理論を超える「新しい物理現象」が発見できると期待されている。
ミューオンの異常磁気モーメントの大きさは、米国ブルックヘブン国立研究所のE821実験グループが最も高精度な実験値を2006年に発表している。 しかし、この実験値が、精密に計算できるはずの理論値と有意に異なるという不一致が生じている。 J-PARCでは超低速ミューオンを再加速することによってエミッタンスが極めて小さい極冷ミューオンビームを用いることにより、従来とは全く異なる方法でミューオンの異常磁気モーメントを精密測定する実験を計画している。
ミューオニウムとその生成方法
ミューオニウムは電子とミューオンの束縛状態にある粒子のことで、 ちょうど水素原子の陽子がミューオンに置き換わったような状態の粒子である。
ミューオニウムはミューオンビームをシリカエアロゲル標的に打ち込むことで生成するが、これまでの手法ではその収量が約0.5%にまで減ることが分かっていた。 これは高精度測定を行う上での大きなボトルネックであった。 しかし今回、シリカエアロゲルにレーザー加工を施し、規則的に深い穴をあけることで収量が大幅に増大することを発見した。
ミューオニウムからミューオンを生成する方法
上記の手法で生成されたミューオニウムはほぼ静止した状態にある。 このミューオニウムにレーザーを照射して電子を剥ぎ取ることで正ミューオンにし、それを加速することで実験に必要な超低速ミューオンビームを創りだす。