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Belle測定器とKEKB加速器の一部が国立科学博物館の常設展示に!
2015年8月10日
2015年7月14日(火)、国立科学博物館 地球館(北側)の常設展示の一部がリニューアルオープンしました。
国立科学博物館は2014年9月から地球館常設展示の大規模リニューアルを行ってきました。 「最先端の科学的知見を踏まえた新しい展示を通じて、子供から専門家まで多様な人々が科学の世界を楽しみ、科博や科学との「対話」を育むことが出来る場を創出する」という展示コンセプトの下、3階に「親と子のたんけんひろば コンパス」、2階に「科学技術で地球を探る」、1階に「地球史ナビゲーター」、地下1階に「恐竜の謎を探る」、そして地下3階に「自然のしくみを探る」のコーナーを新設。
地下3階の「自然のしくみを探る」では、日本人の自然科学系ノーベル賞受賞者を一堂に紹介するとともに、2008年ノーベル物理学賞受賞の小林・益川理論を実証したKEKB加速器・Belle測定器の中心部分が実物展示されています。
以下では、KEKから運び込まれた実物展示の数々を、写真を中心に紹介していきます。 この写真を眺めて少しでも興味が湧いたら、そのまま上野の国立科学博物館までGO! 思い立ったが吉日です。
「日本の科学者」
「日本の科学者」コーナーには日本の科学を築いた科学者のパネルが展示されています。 湯川秀樹博士をはじめとする自然科学系のノーベル賞受賞者のパネル展示もあります。
地下3階までのエスカレータを降りてすぐの入り口から入ると湯川秀樹博士をはじめとするノーベル賞受賞者のパネルがお出迎えしてくれます。 これらのパネルをじっくり見るだけでも小一時間はかかってしまいそうです。 奥には「CDC検出器」が顔を覗かせています。
湯川秀樹博士が中間子論を学会発表したときの講演原稿(複製)。 達筆すぎて読むのが難しいですが、英語交じりで書かれているのが分かります。 拾い読みをすると「(1930年代当時)パウリ(W. Pauli)が提唱したニュートリノ仮説を使っても、核子(陽子と中性子)がなぜ原子核の中で束縛されているのかは説明できない」ということが書いてあります。
小柴昌俊博士が超新星爆発からのニュートリノを発見した検出器「カミオカンデ」の設計図(複製)です。 最近の設計図はCAD(コンピュータを使った製図支援ソフト)で描くことが多いため、手書きというのにまず驚きです。 この設計図はすごく精巧に「複製」してあるそうで、紙の質感やインクの色、折り目や日に焼けた感じなども再現しているそうです。
加速器を使って実験を行っている間は24時間休まずにデータ取得を行います。 そのため、研究者は3交代制(1人1日8時間)でシフトを組み、データがきちんと取れているかの監視を行います。 ログブックには、シフト担当の名前、日付、毎時間の点検項目と結果、加速器や測定器でトラブルが生じた時の状況や処置などを記録していきます。
素粒子の世界を探る – KEKB加速器とBelle測定器 –
このセクションにはKEKで1999年から2010年まで行われていたBelle実験で使われていた装置の実物が展示されています。
入り口から入って20歩ほど進むと、青いフロアシートの上に加速器の一部やら検出器やらがずらーっと並んでいます。 手前に見える展示から順番に紹介していきましょう。
KEKB加速器で電子と陽電子を周回させ、Belle測定器で衝突する様子を表した展示。 KEKB加速器は約3kmの周長を持つ円形加速器です。 電子(青色LED)は時計回り、陽電子(赤色LED)は反時計回りに加速器内を周回し、Belle測定器(写真奥の青色に点灯している部分)で衝突します
Belle測定器で衝突した様子。 ほぼ光速に加速された電子と陽電子はBelle測定器の中心で衝突をし、エネルギーの塊へと変化します。 そのエネルギーの塊からB中間子と反B中間子がペアで生成され、さらにそこから様々な粒子に崩壊します。 その崩壊した粒子を余さずに捉えるのがBelle測定器の役割です。 現在Belle測定器は、Belle II測定器へとアップグレード中です。 Belle II実験がどんな実験なのかは、 KEKチャンネルのYouTube動画 をご覧ください。
KEKB加速器
加速器は粒子を加速するための空洞部分と、粒子の軌道を制御するための電磁石から構成されています。 電磁石には、電子(や陽電子)の軌道を曲げるための「偏向電磁石」や、メガネのレンズのように収束・拡散させる「四極電磁石」など数々な種類があり、これらを正確に制御することで電子と陽電子を衝突させることができます。
クラブ空洞。 電子と陽電子のビームの塊を効率よく衝突させるための装置です。 2007年にKEKB加速器グループが世界で初めて実用化し、海外の研究者からも注目を浴びました。 その期待に応えるように、当時すでに世界一だった衝突性能をさらに一歩押し上げました。
スキュー四極電磁石。 今回は展示場所の床の耐荷重制限から、もっとも小型の部類である電磁石を展示することになりました。 「小型」ですが約500kgもあります。 周りにあるピンク色の部分が鉄芯、黄色の部分が磁場を発生させるためのコイルです。 4つあるので「四極」電磁石という名前が付いています。 またスキュー(skew)には「斜め、傾いている」という意味があります。 これは通常の四極電磁石に比べて電磁石の取り付け位置が45度傾いているためです。
中央飛跡検出器 (CDC検出器)
粒子の飛跡を測定するための検出器です。 実際にはこれを超伝導電磁石で形成される磁場の中に設置して使います。 磁場の中に置くことで、電荷を持った粒子は曲線を描くようになります。 この時の曲率の大きさから、粒子の運動量を求めることができます。
直径 1.76 m、長さ 2.4 mの円筒形をしています。 検出器の内部には長さ方向に4万2千本の細いワイヤーが張られています。 実験中は内部をヘリウムとメタンの混合ガスで満たしていました。 電荷を持った粒子が、この混合ガスを電離させたときに生じる電子を陽極ワイヤーに導き、ガス増幅してから電気信号として検出します。 横に取り付けた窓から検出器の内部が覗けるようになっています (今回の展示のために取り付けました)。
検出器内部の様子はとても綺麗なのですが、うまく写真に撮ることができませんでした。 みなさん、ぜひ自分の目で確かめて下さい! 内覧会に来ていた野依博士と天野教授も覗いていかれました。
端面には信号を読み出すためのエレクトロニクスボードがぎっしりと並んでいます。 反対側の端面には、検出器に高電圧をかけるためのケーブルがぎっしりと並んでいます。 こちらも必見です。
内部CDC検出器
上で説明したCDC検出器の一番径の小さい部分に1998年から2003年まで組み込まれていた検出器です。 基本的な構造は同じです。
先に紹介したCDC検出器と比べるとだいぶ小型でかわいいサイズです。 長さ方向には640本のワイヤーが張られ、円筒方向にはフレキシブルアルミ基板でできた 読み出し用の陰電極が約1800枚配置されています。 こうして、粒子がどの位置を通過したのかが分かるようになっています。
高電圧をかける側の電極。 細かいピンが綺麗に並んでいるのが分かります。
信号を読み出す側の電極。 こちらもワイヤーが綺麗に張られているのが分かります。 前述の大きな方のCDC検出器も含め、このワイヤーを張るのは全て手作業で行われました。
シリコン崩壊点検出器 (SVD検出器)
粒子が崩壊した位置を精密に測定するための検出器です。 Belle測定器の最内層に設置されていました。
手前に置かれているのが単体のSVD検出器。 「シリコンストリップ」と呼ばれるミクロン単位の縦縞電極がついた半導体センサーが付いているため、粒子が通過した位置をミクロン単位で測定できます。 それを4層重ねて使うことで粒子の飛跡を捉えることができます。 さらに、その飛跡をに逆に辿ることで崩壊した位置を求めることができます。
信号読み出しのためのケーブル。 検出器全体の見た目は小さいのですが、センサーが20万個もあるためケーブルも大量になります。 ケーブルをきれいに配線することは実験成功の隠れた秘訣です。
私のオススメ
最後に私のオススメポイントを3点紹介しておきます。
クラブ空洞の窓から反対の壁を覗きこんだ様子です。 電子(もしくは陽電子)になった気分で、この中を通り抜けていく様を想像してみてください。
SVD検出器のセンサー冷却用の配管。 こういうのが見れるのも実物の醍醐味です。
実物展示が大きいため、気が付きにくいかもしれませんが、床全体に敷かれた青いフロアシートは、実は図面になっています。 メカメカしさが表現されていておしゃれな演出だと思います。