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COMET実験の主検出器CDCをKEK富士実験棟に搬入
2015年4月7日
2015年3月27日、COMET実験の主検出器であるCDC検出器が、建設のため富士実験棟のクリーンルームに搬入されました。
COMET実験は、ミューオン稀崩壊現象の一つである「ミューオン – 電子転換過程」の探索を行う実験で、KEKや大阪大学、九州大学などの国内の大学・研究機関に加え、イギリス、中国、ロシアなど世界10カ国以上が参加する国際共同実験です。 KEK東海キャンパスの大強度陽子加速器施設J-PARCにて実験を行う予定であり、ミューオン稀崩壊の世界最高感度での分岐比測定が期待されています。
今回搬入された検出器は円筒状のワイヤードリフトチェンバー(Cylindrical Drift Chamber)で「CDC検出器」と呼ばれています。 電子の運動量を測定する装置で、COMET Phase-I でミューオン – 電子転換過程を探索するための心臓部となる検出器と言えます。 これまで、大阪大学を中心としたCOMET CDCグループ内で、検出器の開発やシュミレーション、試作機による動作試験が行われてきました。
現在はまだ、エンドプレートと外筒CFRP(強化炭素繊維プラスチック)を結合した外側だけの状態ですが、これから数十ミクロンという細さのワイヤーを一本ずつ丁寧に張る作業が始まります。 最終的にCDC検出器の内部に2万本のワイヤーを張り終えるのには約半年かかります。 その後、内筒CFRPをインストールし、ガス漏れ試験や宇宙線を使った動作試験等を行いながら、本実験へ向けての準備を進めて行きます。
まだまだ先は長いように思えますが、COMET CDC検出器の建設が佳境に入り、段々とPhase-Iの全貌が見えてきました。 世界最強の大強度ミューオンを使って、世界最高感度でのミューオン – 電子転換過程を探索するCOMET実験の続報をお待ちください。
COMET CDC検出器搬入の様子
用語解説
ミューオン – 電子転換過程
ミューオン稀崩壊の一つである「ミューオン – 電子転換過程」は、標準模型の枠内では起こりえない荷電レプトン数非保存の過程です。 この過程の観測は、標準模型を超えた新しい物理モデルが背景にあることを示す直接的な証明となります。 また、観測できない場合も、分岐比を測定することで新しい物理モデルへの制限を与えることができます。
COMET実験
ミューオン稀崩壊現象の一つである「ミューオン – 電子転換過程」の探索を行います。 KEKや大阪大学、九州大学などの国内の大学・研究機関に加え、イギリス、中国、ロシアなど世界10カ国以上が参加する国際共同実験です。 これまでのミューオン – 電子転換過程の分岐比測定に比べ、感度を1万倍向上させ、世界最高感度での探索を目指します。
実験は、時期的・予算的に「Phase-I」と「Phase-II」の二段階に分けたアプローチを計画しています。 現在、COMET Phase-Iのため、J-PARCやKEKでミューオンビームラインやソレノイド磁石、それらを設置する建屋などの建設が進んでいます。
COMET Phase-Iでは、J-PARCの大強度陽子ビームをパイオン生成標的に照射し、大量のパイオンを作ります。 パイオンは、捕獲ソレノイド磁石によって効率的に収集され、90度に湾曲した移送ソレノイド中を移動しながら、そのほとんどが負ミューオンに崩壊します。 この負ミューオンをアルミニウム製の静止標的に入射させると、アルミニウム原子の電子がひとつミューオンに置き換わった「ミューオン原子」となります。 ミューオン原子中のミューオンは、標準模型の枠内では、軌道上でニュートリノ2つと電子に崩壊するか、原子核に捕獲されニュートリノを放出します。 一方で、ミューオン – 電子転換過程が起こると、「105MeV/cの決まった運動量の電子」が1つ放出されます。 放出される電子の運動量を観測することで、ミューオン – 電子転換過程を探索することができるのです。
CDC検出器
多数の細いワイヤーが張り巡らされた円筒状の検出器です。 円筒の内部はガスで充満され、電子などの荷電粒子が通過するとその飛跡が測定できるようになっています。 この飛跡の回転運動の半径div調べることで、通過した荷電粒子の持っていた運動量を求めることができます。