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「国際協力」を実証する 〜 S-1グローバル試験 成功裏に終了 〜

2011年4月28日

国際リニアコライダー(ILC)の心臓部である、超伝導加速空洞の一連の研究開発プログラムは、S0、S1、S2といった名前がついている。昨年から高エネルギー加速器研究機構(KEK)の超伝導RF試験施設(STF)で行われていた「S1グローバル試験」が2月末に無事終了しました。現在実験装置の解体が着々と進められています。

「S1」とは、ILCの技術開発計画の中の「クライオモジュール試験の第一段階」を指しています。「クライオモジュール」は、加速空洞を超伝導状態にするために極低温まで冷却して温度保持をする装置(クライオスタット)に加速空洞などを組込んだシステムのことです。S1グローバル試験は「グローバル」の名の通り国際協力によって進められた試験で、KEKがその拠点となっていました。

この試験のために、世界の研究所から高い性能が確認された合計8台の超伝導加速空洞が集められました。イタリア国立核物理学研究所(INFN)から到着したクライオスタットにはアメリカと欧州から送られた空洞各2台を、KEK製のクライオスタットには日本製の空洞4台を組込んで2台を連結。同時に運転して、ILCの加速勾配設計値である1メートル当たり31.5メガ電子ボルト(31.5MV/m)以上での運転をデモンストレーションすることを目的としていました。また、ILCの研究開発は、設計の自由度を残すことにより、改良のための活力とする「プラグ・コンパチブル」というコンセプトで進められているため、各国の要素を持ち寄って試験をし、細部の異なるシステムが総合して動作できることの立証も目的としていました。

今回の試験では、クライストロン(加速空洞にマイクロ波を送り込む装置)1台を使って8台のうち7台の空洞の同時運転に成功しました(1空洞は故障により離調)。また、平均加速電界として26MV/mでの安定な高電界運転を達成しました。クライオモジュールを構成する各種機器が十分に機能して動作していることが実証されたことになります。

実験を通じて得ることのできた技術実証結果はもちろんのこと、様々な国や地域で製造した技術要素を組み合わせて使うことや、国や文化の違いを乗り越えて細かい部分までコミュニケ−ションをはかることなど、S-1グローバル試験によって、様々な側面でILC国際研究所に向けた重要な予行演習となる貴重な経験が蓄積されました。

今夏、今回の実験に関する報告書が発行される予定となっています。

1年余りに及んだS-1グローバル実験を、海外から到着した装置等とKEKに来訪した研究者で振り返ってみましょう。

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図1

2009年12月

ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)と米フェルミ国立加速器研究所(フェルミ研)から、各2台の超伝導加速空洞が到着しました。また、イタリア国立核物理学研究所(INFN)が製造したクライオモジュールもKEKに到着。

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図2

2010年1月

クライオモジュール組み立て開始。 独DESYと米フェルミ研の技術スタッフで構成される空洞組立チームがKEKを訪れ、超伝導RF試験施設(STF)のクリーンルームで空洞を四連化する組立て作業を完了。

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図3

2010年2月

S-1グローバル用の8台の空洞は、周波数チューナーの性能を比較検討するために、4種類の異なるタイプのチューナーが使われました。米フェルミ研と伊INFNの技術スタッフが来日して、これらのチューナーの取り付けを実施。あわせて、磁気シールド、断熱シートの装着も行いました。

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図4

2010年3月

インプットカプラーとは、高周波を超伝導加速空洞の内部へ導入する装置のこと。S-1グローバルで使ったカプラーは、低温部と室温部の二重の高周波窓を持つもの。低温部カプラーはKEK研究者がクリーンルーム内で取付け、室温部カプラーは独DESYの技術者がKEKを訪れ、組立てを行いました。

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図5

2010年5月

クライオモジュールのSTFへの据え付け完了。クライオモジュールの冷却準備を開始しました。

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図6

2010年6月

6月8日、クライオモジュール冷却を開始。中国科学院高能物理研究所(IHEP)の研究者が訪れて冷却試験に参加し、STFのヘリウム冷却システムおよび冷却方法についての知識を深めました。

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図7

2010年7月

伊INFNの研究者と技術者が来日。周波数チューナーの比較試験を実施しました。

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図8

2010年9月

独DESYの技術者が、空洞の大電力高電界性能試験を行いました。

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図9

2010年10月

米フェルミ研の技術者2名が来日。空洞に最新の制御回路を接続し、ローレンツ離調(LFD)補正と呼ばれる操作の動作検証を行うために、空洞チューナーの試験をおこないました。その後、米フェルミ研の技術者1名がKEKを来訪。クライオモジュールの動的熱測定を実施。さらに、中国IHEPの研究者2名が、高周波制御実験に参加する目的で来日しました。

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図10

2010年11月以降は、KEKの研究者が8台の空洞を同時運転する試験や、KEKが提案している高周波供給システム「分布型大電力高周波システム(DRFS)」の試験などを実施。2月末に全ての試験を終了しました。



 粒子の「加速」とは、スピードの増加とエネルギーの増加、双方を意味する。加速器が一定の距離で粒子のエネルギーをどれだけ増加させられるかを 「加速勾配」と呼び、加速勾配が高ければ高いほど、直線型加速器の長さを短くすることができる。

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