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last update:04/07/01  
  プレス・リリース 〜 04-05 〜 For immediate release:2004年7月1日
 
 
大規模タンパク質結晶化システムの開発
 
高エネルギー加速器研究機構 
 
(概 要)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所・構造生物学研究センター(センター長若槻壮市)は、日京テクノス株式会社(代表取締役社長根岸清)の協力のもと、X線によるタンパク質結晶構造解析のために1日に24万種類の結晶化条件の探索が可能な世界最高の結晶化条件探索速度を有する大規模タンパク質結晶化システムを開発した(図1,2)。
 
本システムの開発によりKEK放射光科学研究施設における構造生物研究のための基盤設備の整備と高度化が進み、構造生物学研究の推進に更に大きく貢献できるものと期待される。
 
(開発の経緯)
X線によるタンパク質の結晶構造解析は、タンパク質の発現、精製、結晶化、X線回折実験、データ処理という手順で行われているが、その大部分はいまだに人の手によるところが多く、世界各国で高度化プロジェクトが進められている。
 
高分解能のX線回折実験データを得るためには、大量の結晶化条件の探索を行い良質のタンパク質結晶を得る必要がある。数百から数千種類もの結晶化条件でタンパク質の結晶化を手作業で試みるには、膨大な時間と労力を要し、高輝度放射光を用いて非常に短時間で回折データが得られるようになった現在、結晶化が構造解析迅速化の妨げになっているといっても過言ではない。
 
より多くのタンパク質の構造解析を可能にするためには、それぞれの手順の自動化はもちろんのこと、今後、結晶化が特に困難なタンパク質複合体や膜タンパク質の研究へと重点が移行していくことから、より多くの結晶化条件の探索をより迅速に処理することが要求される。
 
これらのことからKEKの構造生物学研究センターでは、結晶構造解析のための基盤設備の高度化を推進し、タンパク質の結晶化については、平成15年から大規模タンパク質結晶化システムの開発に取り組み、タンパク3000プロジェクトの「タンパク質の個別的解析プログラム・翻訳後修飾と輸送(研究代表者若槻壮市教授)」の一環として製作・調整を行ってきた。
 
(装置概略と特徴)
タンパク質の結晶化には蒸気拡散法、オイルバッチ法、ゲル法等が用いられるが、蒸気拡散法が広く用いられている。蒸気拡散法は、結晶を作るためのプレート上のウェル(くぼみ)に結晶化溶液とタンパク質溶液を分注後混合しドロップ(液滴)を作った後、シール等で密閉し、恒温容器(インキュベータ)内で結晶を成長させる方法であり、本システムに取り入れている方式である。
 
今回開発したシステムは、分注が終わった結晶化プレートを自動で恒温容器に格納し、恒温容器内の結晶化プレートを取り出して自動で観察を行い、画像としてデータを保存することが可能な統合システムである。主な特徴は下記のとおりである。
 
  • 世界最高の結晶化条件探索速度を有する大規模結晶化システム
     本システムでは、各サブシステムの高速化を図り、結晶化溶液の分注、タンパク質溶液の分注、混合のために専用に開発した分注器、それらに消耗品を供給するための装置および結晶化プレートの搬送装置を組み合わせた高速な分注システムを開発し、同じく高速化を図った全自動恒温容器、観察システム、搬送ロボットと合わせてシステムを構築した。
     従来、最も速い分注速度を有するとされるシステムは、Syrrx社(米国)の1日あたり14万条件であるが、本システムは、1日に換算すると約24万条件の分注が可能である。これは500条件の分注作業を手作業で1日から2日かかっていたものを自動化することにより、約10分程度(消耗品等の準備を含む)まで短縮したことになる。
     
  • 結晶化の様子をWebで閲覧
     結晶の成長を観察するシステムは、予め決められたスケジュールに従って、自動的に結晶化プレートの各ウェルを撮影し、画像データとしてサーバーに保管する。画像の閲覧は、ウエブブラウザによって行うことができるため、研究者は世界中どこからでも、タンパク質結晶の成長の様子を観察することが可能である(図3)。
     
  • 拡張性の高いシステム
     本システムは、搬送ロボットを軸にして、結晶化システム、恒温容器、観察システムを配置した統合システムとなっている。また、制御ソフトウェアについても各サブシステムを制御するためのソフトウェアはそれぞれが独立しており、スケジューリングを行うメインシステムと通信を行うことにより、システム全体が動作する。従って、各サブシステムの増設、新しいサブシステムの追加等には、ハードウェア、ソフトウェア両方の点で柔軟に対応できるようになっている。
     
(今後の予定)
本システムの運用については、今後、国内外の研究者による共同利用や産学連携制度による活用も視野に入れて検討している。
 
更に本システムの高度化を進め、開発中のタンパク質結晶自動ループ装填システム、結晶自動交換システムとの連携を図り、基盤設備の更なる高度化のためにタンパク質結晶構造解析の結晶化からデータ収集までの一貫した自動化を進めていく予定である。
 
 
 (本件問い合わせ先)
高エネルギー加速器研究機構
物質構造科学研究所 教授/ 構造生物学研究センター長
  若 槻 壮 市
    TEL/FAX:029-879-6178/6079
    E-mail:soichi.wakatsuki@kek.jp
 
 
 

 
 
[図1][図2]
大規模タンパク質結晶化システム外観システム基本構成

 
[図3]
タンパク質結晶化観察システム
(WEBブラウザで結晶の成長の様子が閲覧できる。)

 
参考:大規模タンパク質結晶化システム(PDF 90KB)
 

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