2011年8月1日
東京工業大学
トヨタ自動車株式会社
高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
○世界最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体を発見
○超イオン伝導体の三次元骨格構造中の超イオン伝導経路を解明
○超イオン伝導体は不燃性・高安全性を有する全固体セラミックス電池へ応用可能
東京工業大学大学院総合理工学研究科・物質電子化学専攻の菅野了次教授、平山雅章講師、トヨタ自動車株式会社、高エネルギー加速器研究機構の研究グループは、このたび世界最高のリチウムイオン伝導率を示す超イオン伝導体(用語1)を発見しました。この超イオン伝導体(Li10GeP2S12)のリチウムイオン伝導率は室温(27 ℃)で12 mS cm-1を示し、従来のリチウムイオン伝導体Li3N(6 mS cm-1)の2倍の伝導率であるとともに、既存のリチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液(用語2)のイオン伝導率をも凌駕する値である。また、その結晶構造を大強度陽子加速器施設J-PARC(用語3)に設置された超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPDで解明し、三次元骨格構造中の超イオン伝導経路(用語4)を明らかにした。この発見は電気自動車やハイブリッド自動車、スマートグリッドの成否の鍵を握るデバイスとして熾烈な開発競争が繰り広げられている次世代の高エネルギー密度電池に、不燃性・高安全性を有する全固体セラミックス電池(用語5)が有力な候補であることを示し、蓄電池開発に新たな指針をもたらすものである。
本研究の成果は、英国の科学誌「Nature Materials」の2011年7月31日号(現地時間)に掲載される予定である。
本研究では、超イオン伝導体である新しい硫化物材料Li10GeP2S12を発見し、室温(27 ℃)で12 mS cm-1の極めて高いリチウムイオン伝導率を示すこと、5 V以上の分解電圧を持つこと(図1)、全固体電池の電解質材料として動作することを明らかにした。特に、低温においては有機電解液をはるかに凌駕するイオン伝導率を持つ特徴がある(図2)。また、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置された超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD(BL08)の高分解能バンクを利用した精密中性子構造解析で、Li10GeP2S12がこれまでにない三次元骨格構造を持つ物質であり(図3)、その骨格構造内にリチウムが鎖状に連続して存在し、本材料の高いリチウム伝導性を実現していることを明らかにした。
電気自動車やプラグインハイブリッド自動車、スマートグリッドが社会に浸透するための鍵を握るデバイスが、電気を蓄える電池である。その容量・コスト・安全性のいずれの面でも、現在のリチウムイオン電池を越える次世代の電池の開発が喫緊の課題となっている。次世代の蓄電池開発の鍵を握るのが、電解質である。現在のリチウムイオン電池には電解質として可燃性有機電解液が用いられているため、使用には安全装置が必須となる。電池がさらに高容量と高出力を達成し、かつ安全で信頼性に優れた長寿命なデバイスになるためには、電池をすべてセラミックスで構成するのが理想であり、セラミックス電池は究極の安定性に優れた電池と位置づけられている。しかし、その実現を阻むものは固体電解質の特性であり、これまでの固体電解質のイオン伝導率は0.1mから1mScm-1程度で、有機電解液に比べ一桁以上低いイオン伝導率であった。
本研究グループは、超イオン伝導体として高いイオン伝導率の期待できる硫化物系で物質探索を行い、新規物質開拓の過程で非常にイオン伝導率の高い表記の超イオン伝導体を発見した。その結晶構造を、大強度陽子加速器施設J-PARCに設置された超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD(BL08)による中性子回折測定によって決定した。また、リチウムイオン電池の正極材料として広く利用されているLiCoO2を用いた電池が優れた特性を示すことも明らかにし実用材料としての応用可能であることを示した。
本研究で見出された固体電解質材料は、リチウム電池の全固体化に向けた応用が可能であり、全固体化に伴う安全性の向上によって電池の大容量化が可能になる。さらに、超小型化セラミックス電池の実現も期待される。今回の発明により、「次世代電池は全固体へ(用語6)」の歩みがさらに加速される。現在のリチウムイオン電池の全固体化によって、さらに安全性と安定性に優れ、かつ長寿命な電池を開発することができ、電池のさらなる高容量化に貢献できる。本研究グループにおいても、より「安全性/安定性/長寿命」をめざした電池系の開発を進めている。また、現在の容量をはるかに超える次世代型の蓄電池の開発(革新電池(用語7))においても、「安全性/安定性/長寿命」の課題を解決することが最大の課題であり可燃性電解質を不燃性・難燃性電解質に置き換えることが重要である。有機電解液並み、もしくはそれ以上のイオン伝導性を持つ不燃性の無機固体電解質の開発に成功したことから、大型・高容量蓄電池の実現に大いに貢献できる。我々の研究グループでは、今回の発見した物質を、さらに伝導性や安定性を向上させて、高エネルギー型電池を目指した研究を進める予定である。