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last update:04/08/20  

国際委員会が将来のリニアコライダー加速器に用いる基本技術を決定
 
北京(中国)-- 将来加速器国際委員会(The International Committee for Future Accelerators -- ICFA)は、北京で開催中の素粒子物理学国際会議中の会合で、国際協力による将来建設が提案されている新加速器の基幹技術に関して、国際技術推奨委員会(International Technology Recommendation Panel - ITRP)の勧告を本日(8月20日)了承した。
 
ITRPは、カリフォルニア工科大学のバリー・バリッシュ氏を議長とし、12人の委員で構成されているが、その報告のなかで、0.5−1TeVエネルギー領域の新しい電子・陽電子線形衝突型加速器(リニア・コライダー)を国際協力によって設計開発するに際して、常温で運転するX-バンド加速管ではなく、絶対温度2度で運転する超伝導加速構造に基づく方式を基幹技術として採用すべきことが勧告された。
 
バリッシュ氏は以下のように語った:「『常温』と通称されるX バンド技術も、『低温』と通称される超伝導技術も、いずれもリニア・コライダーでの採用に耐えるものである。双方の技術とも、有能な研究者と技術者の長年にわたる開発に裏づけられており、それぞれの利点がある。しかし、今後、世界で両方の技術の開発を続けるのは、予算・時間の点で負担が大きすぎる。我々は第一回委員会会合を2004年1月にもち、二つの技術の比較評価作業を行ってきた。いずれの技術も完成度は高い。技術選択の決断によって今まで開発に参加してきた研究所に対して大きな影響をもたらすこともわかっている。したがって、この決定は容易なものではなかった。調査評価の結論として、我々は超伝導技術に基づいたリニア・コライダー設計を勧告する」
 
ITRPメンバーであるイギリス、ラザフォード・アプルトン研究所のジョージ・カルマス氏は超伝導技術について以下のように語った:「超伝導方式では、Lバンド(1.3GHz)の周波数の加速技術に基づく線形加速器を二つ設置し、電子と陽電子を対向して加速して衝突型加速器とする。この加速器の大きな特徴は、純ニオブの加速空洞を用いるところにある。この加速空洞は運転中は低温環境におかれ、加速空洞の電気抵抗はほとんど0と言ってよいくらい小さい超伝導状態に達する。超伝導状態では、クライストロン電力源からの電子及び陽電子ビームへのエネルギーの伝達は極めて高効率になる。リニア・コライダーは全長40km に達し、その真ん中に電子・陽電子が衝突する実験エリアが設けられることになる」
 
ITRP に対してこの技術選択検討を諮問したのは、ICFAの下部機関である国際リニアコライダー運営委員会(International Linear Collider Steering Committee, ILCSC)である。ILCSC議長でコーネル大学の物理学者であるモーリー・ティグナー氏は、勧告を受け取るにあたり、ITRPの努力に謝意を表して次のように語った:「10年前、このような高エネルギーリニア・コライダーは夢でしかなかった ---- 革命的な道具を用いて我々の宇宙の魅力的で根源的な問いに答えるという夢。その後、電子・陽電子をかつて無い高エネルギーに加速し得るものとして、国際コミュニティは2つの異なった基幹技術を創り出した --- 超伝導加速空洞と常伝導高周波ディスクである。ITRPの決断は困難ではあったが、必要なものである。これによって、世界中の素粒子物理学者達がひとつの基幹技術のもとに結集し、超伝導リニア・コライダーに向けて持てる資源を集中することになる」
 
将来加速器国際委員会(ICFA)委員長のジョナサン・ドルファン氏は、委員会を代表してITRPに謝意を表明し、次のように述べた:「ITRPはヨーロッパ、アジア、アメリカで審議を重ね、世界中の素粒子物理研究所、加速器専門家、素粒子物理学者の報告と意見を聞いてきた。この作業は、世界の物理コミュニティがひとつの基幹技術のもとに結集してリニア・コライダーの最終設計に向かわなければならない、という歴史的認識に応えるものである。リニア・コライダーが建設されるまでには、建設場所の選定、国際的な資金調達の枠組み作りなど、未解決な課題がまだ多数ある。しかし、ITRP の勧告によって次の段階に向かう確固たる基礎が固まったと言える」
 
世界の素粒子物理学コミュニティは、電子・陽電子リニア・コライダーを次世代の高エネルギー加速器とすることを支持している。2007年には、現在 CERN(スイス、ジュネーブ)で建設中の大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider :LHC)が運転を開始する。陽子-陽子の円型加速器型であるLHCでは、今だかつてなかった高エネルギーでの加速器運転が行なわれる。物理学者達は、このLHCと国際協力による衝突型の線形加速器が、暗黒物質、余剰次元の存在、物質、エネルギー、空間、時間、などの根源的性質など、21世紀の課題に取り組むものになると考えている。
 
CERNの所長であるロベール・エイマー氏は国際協力によるリニア・コライダーに向けての進展について次のようにコメントした:「電子・陽電子リニア・コライダーは、LHCでなされるであろう諸発見を補う論理的ステップである。基幹技術の選択決定は、国際TeVリニア・コライダー設計の効率的な開発を促す重要な一歩であり、CERNもこの結果必要とされる開発に参加したい」
 
日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の前機構長であり、またITRP委員の一人である菅原寛孝氏はリニア・コライダーの学問的位置づけについて語る:「高エネルギー物理学には、陽子加速器と電子加速器が相補的役割を果たしてきた長い歴史があるが、リニア・コライダーとLHC を同時期に運転することで、科学的成果を最大限に得る特筆すべき状況を作り出すことができる。リニア・コライダーでの画期的な物理は、ヒッグス粒子の詳細な研究から始まる。しかしこれは始まりに過ぎない。これまで憶測でしかなかった「超対称粒子」を発見できる可能性は大きく、これを通して宇宙の謎のひとつと言われてきた暗黒物質の理解に迫ることもできよう。これまでその姿をみせなかった余剰次元(4次元以上の時空次元)の存在も証明できるかも知れない」
 
大学や素粒子研究を遂行する研究所の科学者や技術者は「常温」と「低温」の二つの基幹技術について、近年研究開発を行ってきた。超伝導技術に関連する多くの仕事は、ハンブルグにあるドイツ電子シンクロトロン研究所(DESYと略称)を中心とするTESLAグループによってなされてきた。「常温」技術については、SLAC(カリフォルニア)とKEK(つくば、日本)が技術開発の中心的役割を果たしてきた。
 
KEK 機構長の戸塚洋二氏は「この決断はリニア・コライダー計画推進の上での重要な一ステップである。日本の高エネルギー物理コミュニティはこの決断を歓迎し、真に世界規模の協力に基づくこのプロジェクトに参加していきたい」と語る。
 
SLAC 所長ジョナサン・ドルファン氏は、科学的発見が優先事項であることを強調しつつ以下のように語った:「ITRPは二つの実現可能な二つの技術を提示された。われわれSLACの研究者はこの決断に基づき、国際的な協力のもとで努力したい」
 
DESY所長のアルブレヒト・ワーグナー氏はこのことに寄せて次のように語った:「この決断によって、素粒子物理学者は未来へ向けての大きな一歩を踏み出した。国境を越えた素粒子物理学のコミュニティは、最終的な建設地の選択とは無関係に、いずれも可能な二つの基幹技術のうち一つを選択し得たことを誇りとするものである」
 
北京の中国科学院高能物理研究所所長の陳和生氏は、決定を歓迎して以下のように述べた:「アジアの素粒子物理学者は、リニア・コライダーが21世紀の高エネルギー物理の発展を担う次世代加速器であると確信し、この国際計画に貢献をしたいと考えている」
 
フェルミ国立加速器研究所研究所は「常温」「低温」両方の基幹技術について研究を進めてきたがその所長マイケル・ウィザレル氏は以下のように語った:「この決断を得、素粒子物理学者は今、国際協力によるリニア・コライダーの統合設計作業を始める。同時に、この加速器の真に国際的な協力による実現のために、ヨーロッパ、アジア、アメリカの科学研究を支える政府機関間の協力体制がつくられる必要がある。リニア・コライダーが実現するまでには今後も幾多のステップがあるだろうが、今日の加速器基幹技術決定の発表で、重要な一致点を見出すことができた。」

将来加速器国際委員会(ICFA)      

 
 
--国際技術推奨委員会結論要約--
/ja/news/topics/2004/ITRPexecutivesummary.html
 
--ICFA関連リンク--
http://www.interactions.org/linearcollider/
http://www.fnal.gov/directorate/icfa/International_ILCSC.html
http://www.ligo.caltech.edu/~donna/ITRP_Home.htm
 
画像はこちらより:http://www.interactions.org/icfa_announcement/images
 

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