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>ホーム>ニュース >トピックス >LHC加速器の安全性 >LHCの安全性について
last update:08/09/17  
LHCの安全性について(The safety of the LHCの和訳)
 
 
Large Hadron Collider(LHC)は、粒子加速器として世界最高のエネルギーを実現することができる装置ですが、自然界ではそれよりもはるかに高いエネルギーの宇宙線による衝突現象が毎日起こっています。そのような高いエネルギーでの粒子衝突の安全性は長年検討されてきました。LHC安全査定グループ(LSAG)は、新しい実験事実と理論的な理解を考慮しつつ、かつて独立した科学者から構成されたLHC安全研究グループによる2003年の報告を分析したうえで更新しました。
 
LSAGは、LHCで行う粒子衝突実験に危険性はなく、かつ心配する理由は存在しない、という結論に達しました。これは2003年の報告書の結論を再確認するものであり、さらに深い分析をくわえての結論です。LHCで発生するであろう現象は、自然界では地球や他の天体で誕生以来長い間にわたって、宇宙線によって繰り返し起こっていることです。このLSAGの報告は、CERNの運営母体である理事会が諮問する外部の科学者グループからなるCERN科学政策委員会によって再検討されたのち支持されました。
 
以下はLSAG報告書の主要な議論のまとめです。さらに興味がある人は直接その報告書を読んでください。また報告書が引用している科学技術文献も参考となるでしょう。
 
宇宙線
 
LHCなどの粒子加速器を用いる実験では、宇宙線によって起こっている自然現象をよく制御された研究室環境の下で再現することで、詳しく研究を行います。宇宙線は宇宙で作られた粒子であり、その中にはLHCよりはるかに高いエネルギーにまで加速されているものもあります。それらの宇宙線が地球の大気圏に到達する際のエネルギーと頻度は、これまで約70年にわたって測定されてきました。測定結果から、LHCのエネルギーに相当する衝突は、過去の何十億年もの間にLHC実験を100万回繰り返すほどの規模で起きていたことがわかりました。それでもこの惑星は消滅することなく依然として存在しています。天文学者たちの観測では、地球より大きな天体が全宇宙には莫大な数あることが知られていますが、その全てにおいてもこのような宇宙線による衝突が起こっています。宇宙全体で合計すると、LHCの実験に相当する衝突が1秒当たり10兆回以上起こっています。それにも関らず星と銀河は存在することを天文学者は観測してきており、これはLHC規模の高エネルギー衝突が何らかの危険な結果をもたらすのではないかという心配とは矛盾します。
 
微小なブラックホール
 
我々の太陽より非常に大きなある種の星は、その一生の終わりに崩壊してブラックホールを作ります。そこでは非常に大量の物質がごくわずかな空間に集中します。LHCでの陽子対の衝突で生成される粒子が微小なブラックホールを作る可能性が議論されていますが、ブラックホールを作るための一つひとつの陽子のエネルギーは、飛んでいる蚊が持つエネルギー程度です。天体によって作られるブラックホールは、LHCで生ずると考えられているブラックホールよりもはるかに重いものです。
 
アインシュタインの相対性理論に記述されている重力の理論は非常によく確立しており、それによると微小なブラックホールがLHCで作られる可能性はありません。いくつかの野心的な理論ではLHCによって極小のブラックホールが作られることを予言していますが、それらの理論のすべてが、そのブラックホールはたちどころに崩壊すると予言しています。つまりそれらのブラックホールは、目に見える影響を引き起こすほど長く存在して周囲の物質を引き集められません。
 
安定した微小なブラックホールの存在は理論的には期待されませんが、万一それらが生成されるとした場合、宇宙線でもこれまでに作られて来たはずなので、以下のような理由で無害であることを示すことができます。
 
宇宙線が地球などの天体と衝突して新しい粒子ができる場合と違って、LHC衝突で作られる新しい粒子は、よりゆっくり動いています。安定したブラックホールは電気的に中性の場合と帯電している場合が考えられますが、もし帯電していれば、宇宙線でできたものであろうがLHCで作られたものであろうが地球を横断する間に普通の物質と相互に作用して停止してしまいます。これは地球が現在も依然として存在している、という事実と矛盾します。つまり、仮にブラックホールが安定であったとしても、宇宙線やLHCでは作ることができないということを示しています。
 
もしブラックホールが中性で電荷を帯びていなければ、地球に対しての相互作用は非常に弱いので、宇宙線によって作られた場合は無害に地球を通り抜けて宇宙に行きます。ところがLHCによって作られた場合は、地球に残る可能性が考えられます。しかしこの場合でも、宇宙には地球より非常に大きくて、より密度の高い天体があります。中性子星や白色矮星などの天体と宇宙線の衝突でブラックホールが生じたとしたら、その星の中に留まります。そのような密度の高い天体が今も存在しているという事実から、LHCではいかなる危険なブラックホールも作れないということを示しています。
 
ストレンジレット(Strangelets)
 
ストレンジレットとは、アップクオーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークをほぼ等しい数含んでいる仮想の微小な「ストレンジ(奇妙な)物質」のかたまりの名前です。大部分の理論によると、ストレンジレットは10億分の1 秒以内に普通の物質に変わります。しかしストレンジレットは普通の物質と合体してストレンジ物質に変えることができるのではないか、という疑問があります。この疑問はアメリカ合衆国で2000年に重イオン核コライダーRHICが稼働する前に最初に浮上しました。その懸念はその時の調査で必要がないことが示されました。RHICはこれまで8年間運転しましたが、ストレンジレットは見つかっていません。
 
LHCも時にはRHICのように重いイオン核のビームで運転します。LHCのビームエネルギーはRHICのそれより高いエネルギーですが、ストレンジレットが形成される可能性はむしろ低くなります。お湯の中では氷を作ることができないことと同じように、ストレンジ物質が高い温度で結びつき合うのはより困難なのです。その上クォークは、RHICと比較してより薄まっており、ストレンジ物質を集めることはより困難です。したがってLHCでは、ストレンジレットの形成はRHICでよりも起こりそうもありません。ストレンジレットは発生しないという議論は、RHICの実験によって確認されています。
 
真空泡
 
この宇宙は最も安定した点にいるのではなく、LHCに起因する擾乱のためにより安定した、真空泡と呼ばれる状態に陥る可能性がある、という野心的な憶測が存在します。ですが、仮にLHCでそれが可能なら宇宙線衝突でも可能です。そのような真空泡は宇宙のどこにも見当たらないので、LHCによって作られることはありません。
 
磁気モノポール(磁気単極)
 
磁気モノポールとは、NかSの単極の磁荷をもつ仮想的な粒子です。それらが存在するならば、磁気モノポールによって陽子の崩壊を起こすことが可能になる、という仮説があります。ですがそれらの理論では、そのようなモノポールは十分重くてLHCでは作ることができないとされます。もしもモノポールがLHCで発生できるほど軽いならば、地球の大気に衝突する宇宙線がすでに作っているでしょうし、地球はそれらを非常に効果的に止めて維持しているはずです。地球や他の天体が継続して存在している事実が、LHCで発生できるほど軽くかつ陽子を食べるような危険な磁気モノポールの可能性を否定しています。
 
より詳しいレポートについて
 
加速器による高エネルギー粒子衝突の安全性に関する調査は、LHCの実験に直接関わっていない欧米の研究者によって進められました。分析結果はさらにこの分野の専門家たちによってよく検討され、加速器での粒子衝突は安全であるとの結論を得ました。CERNはLHC実験とは独立の素粒子物理学者から成るグループを設置して、LHCでの衝突に関しての安全性を監視しています。これらの詳しいレポートは以下のサイトで参照してください。
 
安定なブラックホール生成の危険に関してのコメント(英語)
  http://arxiv.org/PS_cache/arxiv/pdf/0808/0808.4087v1.pdf
米国物理学会の素粒子部門理事会の声(英語)
  http://www.aps.org/units/dpf/governance/reports/upload/lhc_saftey_statement.pdf
LSAGレポートの要旨
  http://environmental-impact.web.cern.ch/environmental-impact/
            Objects/LHCSafety/LSAGSummaryReport2008-jp.pdf

LSAGレポートの要旨(英語)
  http://environmental-impact.web.cern.ch/environmental-impact/
            Objects/LHCSafety/LSAGSummaryReport2008-en.pdf

LSAGレポート本体(2008)(英語)
  http://cern.ch/lsag/LSAG-Report.pdf
2003年の専門家によるレポート(英語)
  http://doc.cern.ch/yellowrep/2003/2003-001/p1.pdf
1999年の米国での専門家によるレポート(英語)
  http://doc.cern.ch/archive/electronic/hep-ph/9910/9910333.pdf
John Ellis 氏による、CERNコロキウムでの発表(英語)
  http://indico.cern.ch/conferenceDisplay.py?confId=39099
Michelangelo Mangano氏による、CERN理論セミナーでの発表(英語)
  http://indico.cern.ch/conferenceDisplay.py?confId=36839
 
 

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