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宇宙線望遠鏡(TA)較正のための小型電子線形加速器、米ユタ州で稼働開始

2010年10月1日

9月1日(水)、米国ユタ州で実施されている「テレスコープアレイ(TA)実験」で、東京大学宇宙線研究所とKEKの研究チームが共同で開発した小型電子線形加速器(ELS)による加速ビーム試験が開始され、3日(金)にはビームの空中射出と大気蛍光望遠鏡(FD: Fluorescence Detector)での電子ビームによる空中での発光現象の観測に成功しました。

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図1

FDを用いたUHECRの観測方法の概要図。

TA実験は、極高エネルギーの宇宙線(Ultra-High Energy Cosmic Ray ; UHECR)を観測する実験です。UHECRは、人類が観測している最も高いエネルギー領域の一次宇宙線で、そのエネルギーは1020電子ボルトに達します。TA実験は、UHECRの発生している場所や加速機構、宇宙線粒子の種類等の基本的情報を明らかにすることを目指しており、宇宙線生成の仕組みや起源、また、極高エネルギーでの物理法則の検証が期待されています。

宇宙から降り注ぐUHECRは、大気上層部に入射すると、大気中の原子核と相互作用して多数の粒子を発生します。その粒子が更に原子核と反応を起こして鼠算式に増殖し、1012個もの粒子の束(カスケードシャワー)となって地表に降り注ぎます。TA実験では地上に設置した大気蛍光望遠鏡で、これらの粒子束からの発光現象を捉えて、検出された光量から元々の宇宙線のエネルギーを計算します。しかしこの計算には多くの不定要素があるために、これまでの観測結果からは約20%近くの誤差があると考えられています。

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図2

2010年9月3日現地時間22時に観測された初の電子ビームによる大気蛍光イベント。

TA実験では、ELSで地上から空中に既知のエネルギーの電子ビームを打ち上げ、そこから生じる発光を観測します。TA望遠鏡では、これが地上から立ち昇るカスケードシャワーさながらに観測されますが、打ち上げられる電子ビームのエネルギーが一定であることから、高精度でのエネルギーの較正(チェック、精度確認)が可能となり、大幅な誤差の改善が期待されています。

今後は、望遠鏡による観測が可能な新月の夜に定期的に射出して較正を行うほか、カスケードシャワーを電波望遠鏡で観測する実験などに使われます。