2011年3月2日
京都大学の北川宏教授および大坪主弥研究員らの研究グループは、フラスコで簡単に合成できるナノチューブの作製に世界で初めて成功しました。このナノチューブは金属とハロゲン(塩素や臭素など)からできた一次元鎖を四本繋げる事でできています。個々のパーツである一次元鎖は何百種類ものバリエーションを作れることが昔から知られていますが、研究グループはこれを横方向に繋げる事でさらに新しい構造を作るという発想で研究を進めました。5年ほど前に二本の鎖を繋げた梯子型の構造ができ、そして今回、四本を繋げたチューブ状の構造(図の青い四角形の部分)がついにできあがりました。
図1
画像提供:大阪大学 若林裕助
ナノチューブの構造
研究グループの若林裕助准教授(大阪大学)は、これまでに鎖型、梯子型など色々な金属-ハロゲン鎖に入っている金属がどれだけ電子を持っているかを、X線を使って明らかにしてきました。金属にとって電子の数(価数)の違いは鉄の赤さびと黒さびのように、大きく性質を変える重要なものです。今回はこの新型ナノチューブをKEKフォトンファクトリーBL-4CにおいてX線回折法で測定したところ、金属の持つ電子が多いもの(二価)と少ないもの(四価)がチューブの長さ方向に交互に並んでいることが分かりました。さらに、意外なことにその並び方は、チューブを構成する四本の鎖の間でバラバラになっている事が分かりました。
図1は、チューブを長さ方向から見下ろした構造が描かれています。明らかになった価数の並び方は、当初強い関係が想定されていたチューブ内(青い四角)での電子の多い少ない(価数)は関係が無く、逆に黄色い四角で囲んだ四本の鎖の間でのみ強い関係がある、というものでした。黄色の四角の方が小さい事を考えると、4本の近接した鎖の間で静電エネルギーを損しないように配置されやすい、と解釈できます。また、この結果は、4種類の微妙に異なるチューブが存在する事も意味しています。
図2
価数の並び方
このようなナノチューブはナノサイズの入れ物として応用が盛んに研究されています。今回見えたナノチューブのわずかな違いは、チューブの中に何か物を入れる時などにも大きな効果を持つ可能性があります。
この成果は、英国科学誌「Nature Materials」のオンライン版に平成23年2月27日18時(英国ロンドン時間)に掲載されました。