2011年4月22日
文部科学省による平成23年度科学技術分野の文部科学大臣表彰が4月11日付けで公表され、KEK物質構造科学研究所の若槻壮市教授が科学技術賞(研究部門)を受賞しました。また、KEKフォトンファクトリーを利用した研究により、名古屋工業大学大学院工学研究科の柿本健一准教授が科学技術賞(研究部門)を、東京大学放射光連携研究機構の深井周也准教授が若手科学者賞をそれぞれ受賞しました。
この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として定められています。
若槻教授はこれまで、細胞内の「運び屋」タンパク質GGAなど、およびその複合体の立体構造から、タンパク質小胞輸送の分子メカニズムを明らかにしてきました。人間を含む真核生物の細胞の中では、膜で囲まれた細胞小器官という小さな器官が、生命を維持するための必要な仕事を分業しています。これらの細胞小器官の間では絶えずタンパク質や脂質といった生体物質が移動していますが、それらが正しく運ばれる一連のしくみを解明しました。
もう1つの大きな成果は免疫反応のスイッチを入れるDNA転写因子であるNF-κBが関与するシグナル伝達系のしくみを明らかにしたことです。このスイッチを入れるしくみには、細胞内で広く「目印」として使われるポリユビキチンが関わっていますが、これまでに知られていたものとは構造の異なる「直鎖状」ポリユビキチンであることが構造解析により明らかになり、注目を集めました。NF-κBは多くのがん細胞でスイッチオンの状態になり続けていることが知られており、この成果は抗がん剤などの創薬ターゲットとしても期待されています。
また、このような研究を進める上で必要な高性能X線結晶構造解析用ビームラインを併せて開発・建設してきました。これらのビームラインは現在フォトンファクトリーに5本あり、その全てが全国の大学等の研究者による共同利用実験や、企業等の研究者による共同研究に提供されています。これらのビームラインからは日々成果が創出されており、科学技術の振興に大きく寄与したことが評されました。
フォトンファクトリーは共同利用機関として、世界中の研究者に活用されています。柿本准教授は、鉛を使わない圧電セラミックス材料を開発し、その物性評価にはフォトンファクトリーでの粉末X線回折とX線吸収分光が大きな役割を果たしました。また、深井准教授は、細胞内物質輸送に関わるシグナリングや目印の認識・制御メカニズムを、フォトンファクトリーを用いたタンパク質複合体の立体構造から解明したことが高く評価されています。
受賞者と受賞業績
【科学技術賞(研究部門)】
若槻壮市教授(KEK物質構造科学研究所)
業績名「X線結晶構造解析高度化による蛋白質輸送と翻訳後修飾の研究」
柿本健一准教授(名古屋工業大学)
業績名「ニオブ系無鉛圧電セラミックスの研究」
【若手科学者賞】
深井周也准教授(東京大学)
業績名「X線結晶構造解析による細胞シグナリング複合体の研究」