運び屋タンパク質が細胞内で積荷の荷札を確認する現場を結晶として捉え、結晶構造の解析からその機能を解明した研究については先週のニュースで紹介しました。KEKではさらに運び屋タンパク質が、積荷の梱包や送付先への運搬など、運び屋としての役割をどう行っているかについて、それぞれの現場の結晶を作り、構造を調べる研究を進めています。
タンパク質の構造を知るには、X線を利用します。タンパク質の結晶にX線を照射すると、結晶中の原子に散乱されたり、反射したX線が重なりあって、星空のような多数の光のスポットを見ることができます。このスポットのひとつひとつがタンパク質の中のそれぞれの原子の位置の情報を持っているので、これをコンピュータの助けを借りて解析すると、先週お伝えしたような、タンパク質の見事な構造がわかるのです。
タンパク質は非常に多くの原子からできているので、星空のひとつひとつのスポットを独立して観測するには、よく収束した強いX線がなくてはなりません。それには放射光は最適の道具です。KEKでも放射光が運転を始めた20年前からタンパク質の構造を調べる研究が盛んに行なわれ、多くの成果が産まれました。測定装置も改良を重ねて、世界有数の使いやすい、高度な装置となりました。
しかし、運び屋タンパク質のお話でお分かりのように、同じ一つのタンパク質でも周りの環境に応じ、特有な機能を発揮しています。そうした個々の活動現場でのタンパク質の構造を見つけるためには、高度な生化学的な技術が必要になってきます。
KEKでは、2001年度に構造生物学実験棟を新設し、タンパク質の調製から結晶化までを行える実験室を作りました。これによって、タンパク質を「つくる」ことから「はかる」まで系統的な研究を行えるようになりました。
ここには遺伝子操作を行える設備もあります。目的のタンパク質を結晶化するのに十分な量のタンパク質を準備するには、遺伝子操作による大量発現系が不可欠なのです。そうして産まれた成果のひとつが2月21日発行の「Nature」誌に発表された運び屋タンパク質の積荷確認に関係した構造の発見でした。
現在、KEKの構造生物学研究グループでは運び屋タンパク質たちの研究以外にも、糖鎖修飾酵素と呼ばれるタンパク質の研究にも力を入れています。糖鎖は、さまざまな糖が鎖のようにつながったもので、タンパク質に付加されたり外れたりすることによって、タンパク質の機能を調節するという重要な働きをしています。糖鎖を自由にコントロールできるようになれば、将来病気の治療にも役立つことでしょう。
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ
→ 構造生物学グループのホームページ
細胞内の運び屋タンパク質〜積荷の現場を捉えた〜 へ
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タンパク質のX線回折写真 |
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これは放射光を用いてタンパク質の構造を見るための装置です。CCDカメラを用いた検出器で多数の光のスポットの位置や強度を測ることができます。 |
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構造生物学実験棟の生化学実験室内の様子です。ここでタンパク質を大量に調製し、さまざまな条件下で結晶を作ります。 |
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