KEKのような大小様々な加速器を使った、素粒子・原子核物理学から、物質・生命科学までの広い領域にわたる加速器科学の総合的な研究をすすめている施設は世界にも数えるほどしかありません。それだけにこうした研究機関には世界のいろいろな国々からの研究者が参加して研究開発がすすめられています。KEKにも、日本国内の大学、IHEP(中国)、PAL(韓国)、BINP(ロシア)、CERN(ヨーロッパ)、DESY(ドイツ)、SLAC(アメリカ)など、いくつもの研究機関から研究者が参加して基礎研究を進めている分野があります。それはこれからの新しい研究目標に役立てたい高性能の加速器技術の研究開発です。今日は、この研究にアメリカのスタンフォード加速器研究センター(SLAC)から参加しているマーク・ロスさんを訊ね、研究に参加した理由、研究内容について話してもらいました。
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Q:ロスさんはこれまでどんな研究をしてきたのですか?
A:アメリカのカリフォルニアにあるSLACで20年にわたり仕事をしてきました。専門は加速器の中の電子や陽電子のビームを制御する技術です。現在、SLACで参加しているのはリニアコライダー(衝突型の線形加速器)開発プロジェクトです。この加速器は高エネルギーの電子と陽電子のビームを衝突させ、物質の謎の解明をさらに進めるものです。経済性を考慮すると、この装置は高エネルギーのビームを衝突させる前に小さくしておくことが重要です。
Q:いつからKEKの研究へも参加したのですか?
A:初めてKEKへ来たのは10年ほど前です。ちょうどその頃、こちらで、リニアコライダーに必要な技術の研究が始まったばかりでした。それ以来、研究所の仲間と共に2週間、あるいは3週間単位でKEKに滞在し研究するようになりました。小さな装置をアメリカで作りこちらへ持ってきたりしています。
Q:何故、KEKの研究施設に興味を持ち、何度も来るようになったのですか?
A:10年から15年ほど前に、高エネルギー分野の専門家たちの間で、次世代の加速器であるリニアコライダーを実現するために必要などの部分の研究開発を、世界の大きな加速器を持つどの研究所が受け持つかが論じられました。それ以来SLACでは試作の線形加速器をつくり、効率よく高エネルギーを生み出す非常に小さくてコンパクトな線形加速器システムの開発を進めてきました。KEKでは加速された粒子ビームを制御し、小さく絞り込む技術を試作のダンピング・リングを使って研究開発しています。ここにある先端加速器試験装置(ATF)は世界でも唯一のリニアコライダーで使えるビーム技術の研究施設です。衝突点までにビームの広がりを小さくすることはビームのルミノシティ(衝突の可能性を示す性質)を上げるためにも重要な技術です。私はビームに関する制御技術が専門ですから、KEKでの研究に参加しているのです。
Q:線形加速器の技術ではスタンフォード線形加速器センターはとても有名です。何故わざわざKEKまで来るのですか?
A:リニアコライダーを実現するには、建設コストを抑えるためにもコンパクトで小さく、しかも効率よく高エネルギーに加速できる線形加速器が必要です。このためリニアコライダー実現を目指す世界のほとんどの加速器研究所では、いかに効率よく高エネルギーに加速できる線形加速器をつくるかという点での開発研究を進めています。しかし、リニアコライダーを実現するにはビームのルミノシティを上げるためビームの広がりを小さくする技術も大変重要です。この二つの技術的課題を満たさなければリニアコライダーは実現しません。ビーム技術の課題に挑戦するKEKの試験装置は世界でも大変ユニークなものです。KEKには大変細いビームを作り出す試作機があります。私がKEKに何度も来る理由は私の研究がここで出来るからです。
Q:ドイツのDESY研究所のTESLA計画と呼ばれるリニアコライダー計画があります。それについてはどう考えていますか?
A:DESYには昨年の12月初めに訪問しました。TESLAの計画にも興味深いものがいくつもあります。また、どのリニアコライダー計画の技術にも共通するものがあり、互いに技術開発の成果を共有してるものもあります。大出力のマイクロ波を使うシステムなどはそうです。しかし、TESLAで試作した線形加速器にはダンピングリングがありませんから、ビームの広がりは200ミクロンもあり、10ミクロンの細いビームを研究することはとても無理です。TESLAの試作機は、コンパクトな装置ですが、小さいビームを研究するにはむいていません。
Q:ロスさんの今後の目標は?
A:リニアコライダーの技術研究開発は初めから非常に緊密な国際協力のもとに進められてきました。どんなリニアコライダーもビームの広がりを小さくし制御する技術がなければ実現しません。コンパクトで効率的で出来るだけ小さくまとめたリニアコライダーを実現するため色々な技術開発が進められています。国際協力がなければ不可能です。ここにある試験装置は世界に例の無いユニークなものです。私は毎年自分の研究時間の20%はKEKでの研究に当てています。私の研究所から毎年数人がここへやってきますし、多い人では年間4度もここにやってきます。ここで扱われているようなビームの課題が解決しなければ経済的なリニアコライダーは実現しません。次世代のリニアコライダーは先端技術を集め建設費用も大きくなります。どこかに一つでもできればよいとも思っています。それは日本でも、アメリカでもかまいません。
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未来の加速器を生み出すため研究者たちは国際共同で取り組んでいます。KEKの一角にある研究現場では世界の国々から来た研究者たちの熱気が漂っていました。
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リニアコライダー計画に燃えた北京会議(1)