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   image 加速器の性能を上げる   2002.06.27
 
〜 受賞者に聞く研究開発 〜

KEK加速器研究施設の小磯 晴代 助教授が第7回(2002年度)日本女性科学者の会奨励賞を6月16日に受賞しました。受賞の理由や小磯 助教授の略歴については、この賞についての紹介も含め、KEKホームページの「お知らせ」をご覧ください。 今日は、小磯 晴代 助教授をKEKB加速器の現場に訪ね、受賞した研究課題についていくつかの質問をしてみました。

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Q:研究課題は「超高輝度ビーム衝突加速器のためのビーム光学」と大変難しい言葉で表されています。小磯さんは物理学を研究してこられたという事ですが、受賞された課題のビーム光学とはどんな物理学なのですか? 一般には、物理学というと力学や電磁気学、光学などを思い浮かべますが・・

A:ビーム光学では粒子の運動を扱いますから、勿論力学はとても重要な役割を果たします。さらに、加速器中のビームは電気を持った粒子の集合で、そこに働く力は電気や磁気の力ですから電磁気学も重要です。このビームを曲げたり、細く束ねたりするには四極電磁石などの磁石が使われていますが、これは光を曲げたり集めたりするレンズのような働きをしますから、電気を帯びた粒子ビームと電磁石に働く物理法則は光学にもなります。勿論、電子や陽電子の光速に近い現象を研究しますから、量子力学や相対論といわれる物理学も使います。ビーム光学というと馴染みのない物理学のように思えますが、皆さんすでにご存知の基礎的な物理学を使って研究を進めています。


Q:小磯さんの研究課題は、Bファクトリーと呼ばれているKEKB加速器の設計と開発に大きく貢献したといわれています。これまでBファクトリーを使って、粒子と反粒子が同じ状態に崩壊する際に予測される性質の違い(CP対称性の破れ)を探すBELLE実験について何度もこのページで紹介してきました。その際、KEKB加速器が実験開始以来、着実にルミノシティを上げてきたことがいつも強調されていました。ルミノシティは日本語で輝度ですから、研究課題の超高輝度ビームはルミノシティの非常に高いビームということですね。このルミノシティという言葉の意味がなかなか分かりにくいのですが?

A:KEKB加速器は加速した電子と陽電子をできるだけ数多く衝突反応させることが重要です。この反応の中からB中間子と反B中間子のペアが生まれるわけですから、衝突の機会を増やすようにしなければなりません。衝突により単位時間に反応する数を決める要因としては二つ考えることができます。ひとつは出会ったときの反応のし易さです。これは衝突する粒子が出会ったとき、そこで持つ標的としての広がりで示すことができるので反応断面積と呼んでいます。こちらは自然界が決めていることであり、人間が決めることの出来ない量です。もう一つは出会いの機会を増やす粒子群の集合状態です。加速器の中で衝突する粒子群は群れを意味する英語でバンチと言いますが、KEKB加速器中を回りながら蓄積され、衝突に向かって整えられる電子と陽電子のバンチは千個以上にも達します。電子と陽電子の衝突反応は、このバンチ同士がすれ違う間に生じます。このとき出来るだけ電子と陽電子が出会う機会を増すには、バンチ中の電子や陽電子の集合状態を工夫し、例えば密集させて狭い場所を通してやればよいのです。ですから加速器の設計を通してバンチ中の電子、陽電子の集合を制御すると衝突反応を増やすことが出来るのです。ルミノシティは、加速器の性能のひとつで人間が工夫をこらすことで向上できる可能性があります。


Q:KEKB加速器でとられているルミノシティを上げる工夫を教えてください。

A:図2はKEKB加速器での衝突するバンチの様子です。陽電子と電子のバンチが赤と青に色分けされていますが、この電子のバンチには470億個の電子が、陽電子のバンチには700億の陽電子が含まれ、全体としては0.1ミリと髪の毛ほどの幅で、その厚さは0.003ミリと幅に比べ30分の1ほどの薄いシート状の断面に集められ、長さ7ミリ(幅に比べて70倍)という線状に伸びた密集体系に組み込まれています。できるだけ密着させた方が衝突し易くなります。こうした集合状態で電子と陽電子のバンチは衝突点に突入して行くよう工夫されています。実際にバンチの中の電子と陽電子が目指す反応を起こすのは、それでも現在1秒に高々8個ほどにしかなりません。バンチ中の電子と陽電子はほとんどが反応せずにすり抜け、さらにKEKBの3キロコースを10億回以上も回りながら、次の出会いを目指して走り続けます。バンチが斜めに交差してすり抜けているのは衝突後のビームとビームの間で安定したビームの走行を妨げる影響が出来るだけ残らないように工夫したからです。いずれにしてもルミノシティを上げ、電子と陽電子の衝突反応が起こりやすい状況を作り出すのが如何に大変な作業であることがお分かりになったでしょう。電子と陽電子のバンチがこのような特殊な密集体系をとるのはKEKB加速器の衝突点の近くだけです。そのためにはKEKB全体でビームの制御を巧み行うために必要な電磁石の設計や開発が必要でした。KEKB加速器研究者の中で私も一員として周りの研究者や技術者など多くの人々の協力を得てよい仕事をすることが出来ました。大勢の人々の協力が必要なプロジェクトが持つ良さでしょうか、これまで職場では特に女性であることで困った経験はありません。

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KEKB加速器のルミノシティは、既にお知らせしたように実験開始以来上昇を続け、現在米国のスタンフォード線形加速器センター(SLAC)と競い合いながら世界最高ルミノシティを更新中です。陽電子ビームから出る光が加速器の壁面から作り出す電子の影響を防ぐためにソレノイドコイルを加速器の管の周りに全員で巻いて行ったことなど、KEKB加速器のルミノシティを上げるために開発された数々の工夫について、小磯さんの話はさらに熱を帯びて続きました。こうした話題についてはまたの機会にご紹介しましょう。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEKBのwebページ
http://www-acc.kek.jp/WWW-ACC-exp/KEKB/KEKB-home.html

→関連記事 :
  小磯晴代助教授日本女性科学者の会奨励賞受賞

 
 
[写真1]
小磯 晴代 助教授
拡大写真(33KB)
 
[写真2]
空からみたKEK。電子と陽電子を入射ライナックから発生、加速し、周長 3kmのKEKB加速器(円形部分の地下約12mのトンネル内)に入射蓄積し、筑波の衝突点で電子と陽電子を衝突させる。
拡大写真(47KB)
 
[図1]
拡大図(14KB)
 
[図2]
写真は、KEKB加速器の衝突点付近の様子、衝突点を囲んでBELLE測定器が設置されている。
拡大図(43KB)
 
[写真3]
KEKB加速器のトンネル内の様子。KEKB加速器は、2リングからなる電子・陽電子衝突型加速器です。
拡大図(34KB)
 
[図3]
KEKB加速器とPEP-II加速器(米国SLAC)のルミノシティの変遷
拡大図(25KB)
 
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