真空管は今も加速器で活躍中
あなたは真空管をご覧になったことがありますか? 昔はラジオやオーディオのアンプに必ず使われていた真空管も半導体が使われると姿を消して行きました。日常生活で、真空管一族の生き残りとして、一番おなじみなのはテレビ受像機のブラウン管かもしれません。ところが加速器の現場では真空管一族が未だに大活躍しています。今日はその活躍現場で半導体利用が進められている最近の技術開発を紹介しましょう。
加速器現場で大活躍しているのはクライストロンと言われるマイクロ波を増幅する真空管です。KEKでは、放射光研究施設やKEKBの加速器に電子や陽電子を送り込む大型の線形加速器が活躍しています。そこではクライストロンで発生したマイクロ波を線形加速器の直線状に並ぶ加速管に送り込み、通過する電子や陽電子をマイクロ波で生じた高い周波数の電場で連続的に加速して行くのです。電場の波を波乗りのように次々と通り抜けた電子は、最終的に80億電子ボルトのエネルギーを獲得し、ほとんど光の速度近くに達します。クライストロンは加速器現場の花形真空管です。半導体利用を進めているのは、クライストロン電源の真空管スイッチに代わる装置の開発です。
電源スイッチに半導体利用
粒子を加速するため、大電力(高電圧で大電流)の高い周波数をもつパルス状のマイクロ波を発生するクライストロンには、高電圧のパルスをつくりスイッチを働かせる電源部が必要です。このスイッチとして、これまではサイラトロンと呼ばれる真空管が使われてきました。と言うのも、高電圧で大電流のパルスを高速で切り替えるスイッチ機能を半導体に求めるには条件が厳しかったのです。しかし、真空管は一方で、信頼性や寿命などの点で半導体に劣る側面もあり、研究者は何とか半導体を使ったスイッチを開発したかったのです。そこで高圧、大電流に強い静電誘導サイリスタと呼ばれる半導体素子を重ねて15段に直列に接続し、円筒形の容器の中で絶縁性の高い油に漬け込んだ半導体スイッチがKEKの研究者を中心として開発されました。その結果45キロボルトという高電圧で作動させた場合、ピーク電流6キロアンペア、百万分の1秒で10キロアンペアと素早く立ち上がり、パルス幅は100万分の6秒という短時間でも、パルス尖頭部分で136メガワットという大電力が生まれる半導体スイッチを作ることができました。これはこれまでのサイラトロン真空管に匹敵するものでした。保守や信頼性・寿命などの点で優れた半導体利用の可能性を開くために、この静電誘導サイリスタスイッチの試運転実験が現在KEKの加速器実験棟で続けられています。
純国産技術が次世代の加速器へ貢献
静電誘導サイリスタは日本人が開発した半導体素子です。クライストロンは次世代のリニアコライダーの線形加速器で重要な役割を期待されています。その電源スイッチとして日本の半導体技術が役立つことが確かめられた今回の技術開発は世界からも大きく注目を集めることでしょう。今日は加速器現場でも真空管に変わる半導体技術が開発されてきた最新の話題を紹介しました。
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ
→KEK キッズサイエンティスト:簡単物理辞典:
クライストロン
http://www.kek.jp/kids/jiten/matter/
→KEKツアー:電子・陽電子線形加速器
http://www.kek.jptour/electron-1.html
http://www.kek.jptour/electron-11.html
|
|