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コンクリートはなぜ固まる? 2004.7.15 |
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〜 中性子が語るコンクリート微細構造 〜 |
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週末、ご家庭で垣根の修繕などでコンクリートやモルタルを作るときのことをちょっとだけ思い出して下さい。確か準備する材料は・・・「セメント」と「砂や砂利」、あとは「水」ですよね。でも、ちょっと待って下さい!!! 「セメント」ってどんな成分が含まれているかご存じですか?今回は、中性子が見てきた、私たちの身近に存在するコンクリートのミクロ世界についてお話致します。 セメントの成分とコンクリートの性質 以前の記事「静かな観察者 〜 中性子で探る極微の世界 〜」でもご紹介したように、中性子は私たちに代わって物質のミクロ世界を探索してくれる大変頼り甲斐のある「相棒」です。さっそくですが、この相棒にコンクリートを調べて貰うことにしましょう。 図1はセメントの中性子回折パターンを表しています。一部の中性子は物質内部に進入すると原子核によって散乱されます(核散乱)。その散乱された中性子を検出器で捕らえることで、図1のような回折パターンを得ることができます。粉末の試料を調べるのに適したリートベルト法という手法を用いてこの回折パターンの結晶構造の解析を行うと、セメントの構成成分(結晶構造)やその含有量などを調べることができます(図2)。 今回の解析から、セメントは少なくとも4つの成分(珪酸三カルシウム[(CaO)3(SiO2)]、珪酸二カルシウム[(CaO)2(SiO2)]、アルミン酸三カルシウム[(CaO)3(Al2O3)]、鉄アルミン酸四カルシウム[(CaO)4(Al2O3)(Fe2O3)])から構成されており、セメント中には重量比で珪酸三カルシウムが56%程度、珪酸二カルシウムが24%程度含まれていることが分かりました。このようなセメントの成分比はコンクリートの強度に大きく影響します。例えば、コンクリートの強度を早期に発現させるためには珪酸三カルシウムやアルミン酸三カルシウムなどを多くする必要があります。セメントの成分比はセメントの「性質」を決定する大きな要因となるため、結晶構造解析等によってこの成分比を正確に把握することが極めて重要です。 3つの水和反応過程 セメントに水を加えると硬くなることは良く知られていますが、そもそもセメント硬化体であるコンクリートはなぜ「硬い」のでしょうか?その理由を知るためには、セメントの水和反応によって生成されるセメント水和物について詳細に調べる必要があります。図3はセメントの主成分である珪酸三カルシウムに重水を加えたときの中性子回折パターンの時間変化を示しています(30分毎の測定を24時間+約5日後+約3ヶ月後)。ここで、数本のピークが急速に成長している様子がわかります。すでに結晶構造解析の結果から、このピークが水酸化カルシウム[Ca(OH)2]であることが明らかにされています。ここで、すでにお気付きになられた方もいると思いますが、この水酸化カルシウムのピークが出現するまでにはセメントに水を加えてから約6時間以上必要であることがわかります。その後、水和反応は急速に進行しますが、水和反応を開始してから約24時間後には水和反応速度が徐々に衰えます(図4)。このように、セメント硬化体は大まかに3つの水和反応過程を経て硬化していることがわかります。 コンクリートの強度のなぞにせまる セメント硬化の起源について知るためには、もう1つ明らかにしなければならないことがあります。それは水酸化カルシウムと同時に生成される珪酸カルシウム水和物(C-S-H)の微細構造です。図5は走査型電子顕微鏡で撮影したC-S-Hの全体像です。このC-S-Hは水酸化カルシウムと共にコンクリートの強度と密接に関係していると考えられていますが、非晶質であることや水素を多く含んでいることから、その微細構造は未だ十分に理解されていません。しかしながら、中性子は水素のような軽元素に敏感であることや中性子飛行時間法という非常にユニークな測定方法を用いることで非晶質の構造を精度良く調べることができることから、C-S-Hの構造を決定できる可能性を大いに秘めていると考えられます。そして、このようなセメント水和物の構造を明らかにすることによって、コンクリートの強度発現機構の解明はもとより、新規コンクリート材料の開発やコンクリートの劣化防止対策およびコンクリートの分解/再利用化の研究等に対して「ミクロな視点」から取り組むことが可能となります。 今回はコンクリート研究の一部についてご紹介させて頂きましたが、この他にも燃料電池や二次電池、水素吸蔵合金、メタンハイドレートといったエネルギー材料分野でも構造を探索してくれる相棒として「中性子」は役立っています。このように「中性子」が私たちの生活環境を豊かにするために、日夜“静かに”活躍していることを皆様に知って頂ければ幸いです。 この研究は、KEKの中性子科学研究施設(KENS)を利用した京都大学原子炉実験所の森一広(もりかずひろ)助手、福永俊晴(ふくながとしはる)教授を代表とする京大原子炉実験所、(株)清水建設、KEK、室蘭工業大学の研究グループによるものです。
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