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last update:04/05/27  

   image 厚紙ではかるビームサイズ    2004.5.20
 
        〜 ファラデーカップ賞を受賞した干渉計 〜
 
 
  加速器の中を回っているビームの形や大きさを調べることは、加速器の性能を高める上で、もっとも大切なことの一つです。80年ほど前に恒星の大きさを測定した干渉計の原理を加速器のビームの測定に応用した画期的な手法によって、ファラデーカップ賞という国際的な賞を受賞したKEK物質構造科学研究所の三橋利行(みつはしとしゆき)助教授の研究についてご紹介しましょう。

髪の毛の直径の30分の1

加速器の中を回るビームといえば、SF映画に出てくる光線銃のようなものを想像される方もいらっしゃるかもしれません。実際の加速器では、電子や陽子などの加速される粒子はバンチと呼ばれるいくつかの塊になって、真空パイプの中を光速に近い速さで回っています。KEKB加速器の場合、一つのバンチの大きさは、髪の毛一本(約90ミクロン)を直径方向に30等分にスライスしたうちの一枚、ほどの薄さになります(図1)。

このように小さなビームを光速に近い速さでBelle測定器の中心で反対方向から来るビームと正面衝突させる必要がありますから、ビームの制御には極めて高い技術が求められます。

従来の加速器では、ビームの形や大きさを調べるときに、ビームが出す放射光と呼ばれる光を望遠鏡で観測していました。放射光というのは電子や陽子のように電気を帯びた粒子が高速で磁場中を走るときに軌道が曲げられて放出される、エネルギーの高い光です。

しかし加速器の性能向上とともに、ビームのサイズもミクロン単位までどんどん小さくなってくると、望遠鏡を使って放射光を直接見る方法では、望遠鏡の分解能という限界にぶつかったのです。

恒星の直径を測ることができた干渉計

三橋助教授が開発した放射光干渉計(図2)は、10センチ四方ぐらいの黒い紙に、1ミリ角ぐらいの穴を5ミリから5センチほど離して2個開けて、その2つの穴を通った光をレンズで集めます。

光は波であるという性質をもっていますので、2つの穴を通った光がぶつかったところに、干渉縞という光の濃淡ができます。これは、2つの波がぶつかったときにできる明暗の縞模様のことで、例えば身近には水面に出来た、輪になって広がる2つの波がぶつかった時に出来る模様も干渉縞の一種です(図3)。

ここで干渉縞の明暗の縞模様は光源が小さければ小さいほど鮮明になるという性質を持っています。そこで逆に縞模様の鮮明さ(コントラスト)を調べると、光源がどのような形と大きさを持っているかを調べることが出来ます。この原理は1868年にフランスの光学者であるフィゾーにより発見されました。この方法を有名にしたのは、マイケルソンが1920年に天体干渉計を作り、それまでどのような大望遠鏡でも見ることができなかった恒星の大きさを初めて測って見せたことでした。干渉計の一番の特徴は、分解能が非常に高いことです。富士山に立っている人の身長をミリメートルの精度で東京から計るような測定が可能になるのです。

10年前の突破口

三橋助教授が研究を始めた10年前は放射光の光学的な性質、特に干渉性をKEKのフォトンファクトリーで研究するのが目的でしたが、その中で、ビームの形、大きさが測れることを示すことができたのがそもそものきっかけです。

当時はちょうどビームの大きさが従来の望遠鏡などで覗く方法では見えなくなるぐらい小さくなりつつあった時期で、この新しい方法でどの程度小さなビームが観測できるか検討した結果、ミクロンの大きさでも測れる可能性があることがわかったのです(図3、図4)。

丁度そのときにタイムリーに立命館大学の放射光施設でビームの大きさが小さくて測れないという話があり、干渉計を持っていって測定したところ16.5ミクロンという当時としては驚くべき結果が得られました。

この結果に引き続いて、KEKでリニアコライダーの開発研究の一環として極微小ビームの開発が進められていた先端加速器試験装置(ATF)ダンピングリングでも測定しようという話になり、20ミクロンという結果を得ました。ATFではその後研究が進み、現在では4.7ミクロンという驚異的な微小ビームサイズが実現されるに至っています。

また一方でKEKで建設が推進されていた、Bファクトリーのビームサイズモニターとしても採用され、その運転に活躍しています。図5はBファクトリーのコントロール室に表示されている干渉計のパネルです。

心臓部は数十円の厚紙

三橋助教授は「巨大で複雑な装置の集合体であるBファクトリーですが、ビームの大きさを測るために重要な干渉計の心臓部には、1枚数十円で買える黒い厚紙に穴を2個開けたものを用いています。金属のようなもので作ってもよいのですが、紙製のものはその場の条件に応じて臨機応変にカッターナイフ一本で簡単に作れますので、この方がずっと優れています。放射光干渉計は開発してから今年で丁度10年になります。この節目の時期に、国際的な賞を頂き、大変光栄に思っています。」と受賞の喜びを語っています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射光科学研究施設のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html

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    ファラデーカップ賞受賞記事
    加速器の性能を上げる 〜受賞者に聞く研究開発〜

 
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[図1]
KEKB加速器の中を回っている電子と陽電子のビームのバンチ(塊)。バンチの高さは2.3ミクロンで、髪の毛の直径の30分の1ほど。
拡大図(78KB)
 
 
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[図2]
放射光干渉計の実験風景。
拡大図(23KB)
 
 
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[図3]
KEKのフォトンファクトリー(PF)において、放射光干渉計により測定した縦方向の干渉縞。大きさのない点状の光源を1つ置いてそこからの光を干渉計に入れると、明暗の縞模様が暗いところに完全に光が来ないコントラスト=1(コントラストは[干渉縞の一番明るいところ−干渉縞の一番暗いところ]÷[干渉縞の一番明るいところ+干渉縞の一番暗いところ]で定義されます)の干渉縞が出来ます。つぎに2つ目の点光源を1つめの点光源のそばに置いて同時に2つの光源からの光を重ねて干渉計に入れてやると、2つの干渉縞が重なって観測されることになります。この様にして3つめ、4つめと光源を増やして行くと、点光源の集まりとしての“形と大きさを持った、光っている物”が表されるわけですが、この様なある形と大きさを持った光源による干渉縞はその中の個々の点光源による干渉縞の重ねあわせになり、光源の大きさに対応して縞模様がボケてしまいコントラストが1より小さくなってしまいます。そこで逆に縞模様のコントラストを調べると、光源がどのような形と大きさを持っているかを調べることが出来ます。
拡大図(37KB)
 
 
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[図4]
図2の干渉縞を解析して得られたPFにおける縦方向のビーム形状。PFリングでの当時のビームの大きさが214ミクロンであることが判明しました。PFではその後ビームの大きさを小さくする研究が進み、現在では50ミクロン程度の大きさになっています。
拡大図(69KB)
 
 
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[図5]
Bファクトリーのコントロール室に表示されている干渉計のパネル。干渉計で測定された場所でのビームの高さ方向の大きさは電子ビームが78ミクロンで、陽電子ビームが170ミクロン。これをもとに衝突点でのビームの高さ方向の大きさに換算すると電子ビームが2.4ミクロン、陽電子が2.9ミクロンになります。
拡大図(89KB)
 
 
 
 
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