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放射光で関節軟骨が見えた! 2004.11.25 |
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〜 新しい整形外科用画像診断法 〜 |
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全身の筋肉を使ったスポーツを考えてみましょう。たとえば野球好きのあなたが投球する姿はどうでしょうか?体をひねり、肩、腕、肘を滑らかに動かし、球速度を増すための手の振り、球に回転を加えるための指の動きが加わって見事なモーションかもしれませんね!(図1) この滑らかな投球モーションに含まれる動きを可能にしているのは、骨と骨とのジョイント部分である関節周りの滑らかな動きです。関節は、軟骨、腱、筋肉の働きで、人間の運動を支えています。関節部分にある「軟骨」は人間の運動にはとても大切な役割を果たしていますが、現在使われているX線撮影法では軟骨を見ることができません。今日のお話は、KEKフォトンファクトリーで関節の軟骨を見る新しいX線撮影法が開発されたという話題です。 X線写真に写らない軟骨 私たちの身体の関節では、軟骨が骨と骨の間のクッションのような役割を果たしています。このため、軟骨に何も異常がなければ、私たちは滑らかに関節を運動させることができます。ところが、加齢、病気や怪我などで軟骨がいたんだりすり減ったりすると、関節を動かした時に痛みを感じたり、ひどくなると正常に動かせなくなります。年配の方なら、急に立ち上がったりするときにひざの関節が痛くなった経験がある方もいるかもしれません。もっと深刻なのは関節リウマチなどの関節の病気です。以前にもこのニュースで関節リウマチの特効薬を開発する研究をご紹介しましたが、免疫の異常により、自分自身の軟骨が破壊され、関節が変形・破壊される恐ろしい病気です。 関節リウマチなどの関節の病気を診断するにはX線撮影が使われます。ご自身のX線写真を見たことがある方もいるでしょう。骨の部分は白く写っているのは思い出すことができると思いますが、軟骨はどこに写っていたのでしょうか? X線写真は、X線が通り抜けやすい部分と通り抜けにくい部分のコントラストを使って写真を撮ります。ちょうど「影絵」のような原理で、骨はX線をよく吸収するのでX線が通り抜けにくく、白く抜けて見えます。また、胃のX線写真を撮るときにバリウムを飲むのは、バリウムがX線をよく吸収して胃をはっきりと見ることができるようにするためです。ところが、軟骨は骨のようにX線を吸収しないので、X線が通り抜けてしまい、X線写真で見ることができません。骨と骨との間の何も映ってないように見える部分に軟骨があり、この間隔が狭くなっていると、軟骨がすり減っていると判断しているのです。 しかし、これでは軟骨がどのような状態になっているか詳しく知ることができないので、病気の正確な診断ができません。そのため、現在はMRIによる診断が広く行われています。しかし、MRIは、X線診断に比べて解像度が低いという欠点があります。 暗くすることで見えてくるもの KEK放射光科学研究施設の安藤正海(あんどう・まさみ)教授のグループは、岡山大学整形外科と共同で、今までのX線診断とは全く原理の異なる新しい診断法を開発しました。 この新しい診断法は、「指向性の高い光」という放射光の特徴を利用しています。指向性の高い放射光X線を関節軟骨の病変部に照射すると、軟骨はX線を吸収しにくいのでX線は通り抜けてしまいますが、病変部の縁などで屈折作用を受けてわずかに方向が変わります。どのぐらいわずかかというと、20km先で1cm程度離れるぐらいの角度です。これは、KEKから常磐線のひたち野うしく駅のホームの時計の針の先を見るようなものです。こんなわずかな角度を分離して捉えるのは大変むずかしいことが想像できます。しかも、方向が曲がらずに直進して進むX線の強度が強いので、普通のX線撮影と同じ方法で撮影しても屈折したX線を捉えることはできません。 皆既日食の時に見られる金環食はご存知ですね。まぶしい太陽の光を月が覆い隠してくれることで、普段は見えない金環が見えるようになります。安藤教授はこの原理を、屈折X線を見るために応用することを考えました。まぶしい光(直進X線)をさえぎって、屈折X線だけを見ようとしたのです。 直進X線をさえぎるには、シリコンの単結晶の板を使いました。シリコン単結晶板の中はシリコン原子が3次元的に規則正しく、美しく並んでいます。X線は、この原子の並びがつくる鏡のような原子面によって反射されます。無限にある原子面とよぶ結晶原子の並びの中で、(440)面と呼ばれる面(図2)を用いました。波長0.0354nm(ナノメートル)のX線に対して、(440)面のシリコン単結晶板を2.1mm厚のフィルターにすると、直進するX線に対して透過率がゼロになることが計算でわかりました(図3)。図3の赤い線は、試料(軟骨)を通り抜けてくるX線の強度をあらわしています。真ん中へんでほぼゼロになっていることから、直進X線は試料をほとんど通り抜けないことがわかります。しかし、グラフの両側に透過したX線の強度が高い部分がひろがっていることから、ほんの少し角度をずらしてやるだけで、X線はこのフィルターを通り抜けることがわかります。これが屈折X線に相当します。つまりこのシリコン単結晶板は、直進X線は通さず、屈折X線のみが通りぬけるフィルターの役割を果たすことがわかります。写真を撮れば屈折X線,つまり病変軟骨部の情報を持った光だけが写るはずです。 軟骨が見えた! 実際にこのフィルターを作り、KEKフォトンファクトリー(PF)のビームライン14Bで、装置を図4のように配置して軟骨の写真を撮りました。図5はこのシステムを上から見た図です。図の右側から来る指向性の高い単色放射光X線(赤い線)は図の右側にある「モノクロコリメーター」によってさらに指向性が高く、波長の揃ったX線(ピンク色の線)に変えられます。このX線を試料にあてます。試料の中を通りすぎるX線の中から軟骨などで屈折するX線(緑色の線)が生じます。シリコン単結晶フィルター(角度分析板)によって屈折X線だけ(緑色の線)を後方に取り出し、検出器で捉えて画像化します。残りのX線(ピンク色の線)は別な角度に誘導されます。フィルターが正しく働くために、フィルターの角度をX線の方向に対して正確に合わせることができる精密ゴニオメーターの上に載せてあります。こうして、壊死のため取り出された大腿骨頭(図6)および献体遺体からの肩、指関節の画像を撮ったところ、今までは周りの組織と区別がつかないため見えなかった軟骨の画像をはっきり捉えることに成功しました。このような臨床に近い状態で軟骨が撮影されたのは世界で初めてのことです。 この方法は、視野を暗くしてわずかな屈折X線を捉えることから「X線暗視野法」と名付けられました。実際の医療に使えるような高品質画像が得られることがわかったので、臨床応用に向かってさらなる研究や装置の改良を続けているところです。また,軟骨だけでなく、やはりX線写真を撮りにくい乳がんの診断にも応用できるように、技術開発を始めています。
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