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素粒子を見逃すな 2006.4.20 |
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〜 測定器開発室の挑戦 〜 |
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素粒子は分子や原子よりもさらに小さく、目で見たりすることはもちろん、電子顕微鏡などを使っても見ることができません。そこで素粒子や原子核の研究には素粒子をとらえるための高性能の検出器は欠かすことができません。大型加速器の発達とともに、検出器の性能はしばしば研究の成否を決めたりする事があります。KEKでは検出器技術の向上にも力を注いでいます。 素粒子・原子核の研究だけではありません。X線や中性子を使った物質構造の研究、気球を使った宇宙の観測、さらにはPETなどの医学診療の最前線、あるいは工場で製品の非破壊検査などを行う際にも素粒子の検出技術は極めて重要です。 このような検出器の技術に一層の磨きをかけるために、KEKの素粒子原子核研究所では「測定器開発室(KEK Detector Technology Project:KEKDTP)」が発足しました。その活動のいくつかをご紹介しましょう。 微細ホールで素粒子を検出 1997年、ヨーロッパCERN研究所のF. Sauliらによって発明された厚さ50ミクロンのガス電子増倍フィルムがこの検出器の秘密です。GEM(ジェム)と呼ばれるこのフィルムには直径70ミクロンの穴が140ミクロン間隔に開けてあります(図1)。銅箔を張ったこのフィルムの裏と表に300ボルト程の高い電圧をつなぐことで、近くを通過した素粒子からの微弱な信号を増幅して検出することが可能になります。 このフィルムにボロンという物質をコーティングして多層に積み重ねると、検出が難しい中性子を捉えることもできるようになります。ダイヤモンドの粉末で中性子が散乱される様子を観測したものが図2です。時間とともに変化する中性子のエネルギー(波長)につれて、干渉縞が検出器の上を流れていくのがきれいに観察されます。 半導体で作る複眼センサー 素粒子や原子核の実験をはじめとして放射線を検出する実験装置では、しばしば微弱な光を検出する装置(光センサー)が必要です。以前ご紹介した光電子増倍管は、その高い性能と信頼性からスーパーカミオカンデなどの最先端の実験でも使われています。しかし光電子増倍管は比較的かさばる上に、大掛かりな周辺装置が必要で、大量の光センサーを必要とする用途には使いづらい側面があります。 「10万個の光センサーで高精度の実験を」という研究者の夢をかなえるような、画期的な半導体光センサーが、最近になってロシアで提案されました。シリコン光電子増倍器(SiPM)とも呼ばれるこのセンサーは、強い磁石の近くでも使えて、さらに数十ボルトの電圧で動作することから、日本を始め各国の研究者も注目しています。 測定器開発室では素粒子実験で実用を目指す日本の大学(京都大、神戸大、信州大、筑波大、名古屋大、新潟大、防衛大)やメーカーと協力して、この画期的な光センサーの開発研究を行っています(図3)。 SOI技術による究極検出器 SOI(Silicon-On-Insulator)とは、高性能プロセッサーや電波時計等で使われはじめた新世代半導体技術です。この技術を応用した高性能の半導体素粒子検出器の開発も進められています。通常のSOI回路では上部の薄いシリコン層のみが利用されますが、構造体となる下部シリコン層を半導体センサーとして利用することで、信号読み出し回路と一体化された合理的な検出器が実現できます。これにより高い精度の素粒子・X線検出器を開発することができそうです。図4はこの検出器の概念図です。 ASIC開発プロジェクト 検出器システムの高機能化・多チャンネル化が進んでいます。そのため専用の様々な集積回路が必要になってきました。これがASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け専用集積回路)です。けれどいくら装置の規模が大きくなってきたとはいえ、素粒子・原子核の実験のためだけに、こういったASICを企業ベースの大量生産で依頼することはできません。従って実験に携わる私たち自身で、必要なASICを開発設計していくことは、いまや高度な実験装置を建設するのに欠くことができません。図5は先に紹介したGEMフィルムを使った検出器用に開発中のASICの顕微鏡写真です。たくさんの電子回路が規則的に並んでいるのがわかります。横一列に並んだ回路グループがそれぞれセンサーからの信号の処理単位になります。 ネットワークで高速データ収集 「データ収集」という技術は、一千万にも及ぶセンサー群(アトラス実験の場合)からの情報をきちんと整理してコンピュータに記録することを担当します。センサー群とコンピュータを結ぶために、インターネットを支えるネットワーク技術が大活躍しています。しかし特別な性能も要求されるため、様々な技術開発も欠かせません。ネットワークで結ばれた多数の機器を効率的に制御する仕組みが重要な鍵です。私達はロボットテクノロジー研究者とも共同研究をしながら、ネットワークによるデータ収集の新しい枠組み作りに、取り組んでいます(図6)。
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