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last update:06/12/07  

   image 研究成果を影から支える    2006.12.7
 
        〜 高圧ガスの保安管理 〜
 
 
  KEKでは加速器という大型の装置を使って研究をしているということは、これまでにもご紹介してきました。研究成果が生み出されるためには、加速器が適切に稼動するための環境が整っていなければなりません。今回は、そんな環境整備のひとつ、高圧ガスの保安管理についてご紹介します。

KEKでの高圧ガスは

KEKで扱っている高圧ガスは、主にヘリウムです(※)。ヘリウムの身近な使用例としては、アドバルーンやイベントバルーンなど、その浮揚力の高さを利用したものがあります。また、ヘリウムを混ぜた空気を吸い込むと、声帯の振動数が早くなりアヒルのような声になるのを経験した方もいるでしょう。そんな使い方がある一方で、先端科学の研究所であるKEKでは、ヘリウムの沸点・融点が低い性質を利用し、液化ヘリウムを超伝導物質の冷媒として使用しています。
      ※KEKでは、他にも液化窒素や液化水素を扱っています。

液化ヘリウムの製造と保安管理

KEKでは、超伝導低温工学センター・低温棟やKEKBなどの施設に液化ヘリウム製造設備が配置され、気体のヘリウムガスに圧力を加えて液化ヘリウムを製造しています(図1)。この時、ヘリウムガスは、16気圧まで圧縮されます。更に、ガスを貯蔵したり、不純ガスを取り除いて、純粋なヘリウムガスにする(精製する)には、150気圧まで圧縮されます。これは1500メートルの深海に潜った時に受けるのと同じ、猛烈な圧力です。

この液化ヘリウムを安定して製造する、また安定して製造するために設備を安全に運転する、そして安全にヘリウムガスと設備を扱うための教育を関係職員にほどこす、これらのことを確実に行うことが、高圧ガスの保安管理では重要なことになります。この保安管理を円滑に実施するために、KEKには、機構長を保安統括者とする体制が組織されています(図2)。

保安検査と保安教育

高圧ガス設備の保安検査は、夏の時期に一度茨城県が実施し、冬から春にかけての時期にKEKが自主検査を行います。これは高圧ガス保安法に基づく検査で、構内にある液化ヘリウム製造施設や液化窒素製造施設などが検査の対象となります。高圧ガス保安技術管理者の加速器研究施設教授・細山謙二氏は、「規則には細かなことまで定められていますが、これらを確実に実施していくことが重要。高圧ガスを扱う事業所として、社会に対する安全性の説明責任のひとつだと考えています。」と述べます。また、毎年、高圧ガス取り扱いの保安教育を関係職員に対して実施しています。「KEKでは、高圧ガス設備の自主保安ということを強く念頭に置いて取り組んでいます。」(細山氏)

超伝導技術に欠かせないヘリウム

この高圧ガスの保安管理が、KEKの研究活動とどのように結びついているのでしょうか。

KEKB加速器では、超伝導加速技術が使われています。「超伝導電磁石」や「超伝導加速空洞」がKEKB加速器に設置され、世界最高性能の実現に一役買っているのですが、その電磁石や加速空洞を冷却するのに液化ヘリウムが用いられます。この液化ヘリウムの安定供給を影ながら担保するのが、高圧ガス設備の保安管理の体制ということになるわけです。

社会的観点に立って

KEKBのみならず、世界で加速器の大型化・高性能化が進むにつれ、超伝導技術への注目が高まっています。超伝導技術は、それを採用した加速器の建設時には、高度で複雑な技術を要するのですが、建設後の運転経費という点から見ると、電気代が低く抑えられ、結果、運転にかかるコストが低く抑えられるというメリットがあります。このことについて、細山氏は、「単に運転経費が安く済んでよかったということではなく、電気代が抑えられるということは、その分発電に使われる石油の消費量を抑え、二酸化炭素の排出を抑えることにつながります。加速器という大型で特殊な装置を使って研究を行う私たちは、電気代の消費ひとつにしても社会的観点で物事を考える必要があります」と強調します。「そういう観点で考えた場合に、これまで影の支えとして取り組まれていた高圧ガスの保安管理にも、改めてその存在意義を感じます。」

KEKは昭和49年に高圧ガスの製造事業所としての届出をして以来、32年間無事故無違反で安全の確保に努めてきました。先月29日には、この高圧ガスの製造・保安管理への尽力が、茨城県の商工労働部長から表彰されました(図4)。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→ヘリウム液化機についてのwebページ
  http://cry3-aps.kek.jp/~cryoweb/menu/
        menu3/ekikaki/LHe.html

→超伝導低温工学センターのwebページ
  http://cry3-aps.kek.jp/~cryoweb/index.htm

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[図1]
圧縮されたヘリウムガスは、冷凍機本体へ送られ、予冷される。この予冷には、戻りの冷たいヘリウムガスが使われるが、これは、予冷されたヘリウムガスの一部が膨張タービンで冷却されたものである。戻りガス以外のガスは、ジュール・トムソン(J-T)弁で、J-T膨張して、更に冷却され一部が液化する。液化されなかったガスは、冷たい戻りガスとして、熱交換器でその冷却能力が再利用される。(写真は第二低温棟の液化機と精製機。)
拡大図(54KB)
 
 
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[図2]
高圧ガスの保安管理体制(2006年7月1日現在)。
拡大図(47KB)
 
 
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[図3]
保安技術管理者の細山謙二氏。
拡大図(80KB)
 
 
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[図4]
茨城県商工労働部長による表彰式。
拡大図(78KB)
 
 
 
 
 

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