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ガンマ線バーストの横顔 2008.5.08 |
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〜 宇宙一明るい大爆発の謎にせまる 〜 |
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ガンマ線バーストという現象をご存知でしょうか。人工衛星を使って宇宙からやってくるガンマ線を測っていると、時折、数ミリ秒から数百秒にわたってガンマ線を放出する天体があります。その起源は長い間謎でしたが、最近では宇宙のはるか彼方にあるブラックホールなどの天体が「宇宙で最も明るく激しい大爆発」を起こした際に見られる現象であると考えられています。 ガンマ線バーストを起こす天体をいろいろ調べていくうちに、ガンマ線だけではなく、より波長の長いX線でもバーストが起きる場合があることがわかってきました。また、ガンマ線とX線が地球に到達する時刻にずれがあることも観測によりわかってきました。爆発の様子をモデル化することで、ガンマ線バーストの性質を説明する研究についてご紹介しましょう。 宇宙で一番明るい爆発 ガンマ線バースト(GRB)を起こす天体の正体は、現象の発見から40年近くにわたって現代宇宙物理学最大の謎の1つでした。1997年にGRBの一つまでの距離が測られ、数十億光年彼方にある銀河系の中の天体であることがわかり、研究が急速に進展するようになりました。 気が遠くなるほど遠くにある天体であるにも関わらず、ガンマ線の放出時間が数ミリ秒から数百秒しかないことから、ガンマ線が発生している領域は太陽系の大きさよりも小さいことがわかります。また、スペクトルの赤方偏移が測られたことで、宇宙の膨張速度と距離の関係からGRBの本当の明るさが分かります。これらのことから、太陽の何十倍もの重い星が自分の重力で潰れるときに、おそらく星の中心にブラックホールができて、光の速度の99.99%以上の相対論的ジェットが飛び出すことで、GRBになるらしいことが分かってきました(図1)。しかしどのくらい重い星がどのような機構でジェットを放出するかは依然として不明です。 GRBを斜めに見ると 一方、GRBはガンマ線だけでなくX線も放出しているのですが、ガンマ線よりもX線で明るく輝く場合があることや、X線が地球に到達するタイミングはガンマ線よりもやや遅れていることなどがわかってきました。 KEK素粒子原子核研究所の井岡邦仁准教授はコンピューターを使って、GRB天体から飛び出してくる相対論的ジェットと、そこから発生するガンマ線の向きと強度を計算し、ジェットの向きと地球からみた視線の角度の関係が観測データをよく表すことを示しました(図2)。相対論的ジェットが円錐状に飛び出してくるとすると、ジェットの進行方向にはガンマ線の強度が強くなりますが、斜め方向には波長の長いX線として観測されます。観測者から見れば、ジェットの一番近い部分から出るガンマ線が最初に見え、次にやや遠い部分から出るX線が遅れて(波長間遅れ)到着することになります(図3)。 見かけの明るさとの関係 ガンマ線からX線まで、いろいろな種類があるかのように見えるGRB天体を、円錐状に放出されるジェットをどの角度で観測するかによって説明することができる、というのは朗報です。ガンマ線に対するX線の波長間遅れを観測すれば、そのGRB天体のジェットの軸と地球から視線方向との角度がわかり、 GRB天体の本当の明るさが別の方法で推定できることになります(図4)。つまり宇宙の中でのGRBの分布を正確に知ることができるようになり、宇宙の膨張などの測定に用いることが可能になります。この方向性の研究はすでに活発に行われており、「GRB宇宙論」と呼ばれています。 一方、GRBの研究はそれ自体にとどまらず、宇宙論、高エネルギー宇宙線、超新星爆発など様々なテーマにまたがる巨大な分野に急成長しています。井岡氏は、これらの進展に関しても数々の顕著な貢献をしています。また、X線のみで輝く「X線フラッシュ」という現象も多数発見されてきていて、視線方向とジェットとのずれはこのX線フラッシュの代表的モデルの1つとなっています。 さまざまなバースト現象を一つのモデルで統一した業績に対して、井岡氏には第2回日本物理学会若手奨励賞(宇宙線・宇宙物理領域)が贈られました。
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