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last update:08/06/26  

   image 短寿命核を加速    2008.6.26
 
        〜 元素合成の謎の解明へ 〜
 
 
  地球や私たちの体を形作る炭素、酸素、窒素、シリコンなどの元素は、太陽のような恒星が数十億年かけて核融合反応で燃えるときに、徐々に作られたと考えられています。一方、鉄よりも重い金や銀、ウランなどのいわゆる重元素がどのように生成されたのかについてはまだよくわかっていません。星の一生の終わりの超新星爆発の際に生じるたくさんの中性子が、その星を構成する物質の原子核に吸収され、短い寿命の重い原子核となりそれがごく短時間のうちにより安定な重い元素に変わっていったとする考え方が一般的です。

この考え方を確かめるには、通常は存在しない短い寿命の原子核を人工的に作り出して、いろいろな性質を調べる方法が役に立ちます。

自然界には存在しない質量数123のインジウム(半減期6秒)と質量数143のバリウム(半減期14秒)という2種類の寿命の短い原子核を人工的に製造し、加速することに世界で初めて成功した実験と、その工夫についてご紹介しましょう。

短寿命核とは

元素には、原子番号(陽子数)が同じで化学的性質も同じでも質量数が異なる同位元素と呼ばれるものが存在します。ある種の同位元素は、時間が経つと自然に放射線を出して別の元素に変わっていきます。このような同位元素を放射性同位元素と呼びます。

私たちの身の回りには太陽系が形成された時から存在するウランの様な寿命の長い放射性同位元素もありますが、寿命の短い原子核は、加速器などの人工的な方法を使って作り出すことができます。このような寿命の短い放射性同位元素を特に短寿命核とよびます。

KEKは日本原子力研究開発機構と共同で、短寿命核加速実験装置(TRIAC:Tokai Radioactive Ion Accelerator Complex)を建設し、運営しています。TRIACは短寿命核を人工的に生成し、再加速する国内唯一の加速装置として、原子力機構の東海研究開発センター原子力科学研究所のタンデム加速器施設に設置され(図1)、全国の研究者に利用されています。

電子を剥ぎ取って加速

タンデム加速器から供給される陽子ビームをウラン標的に照射すると、核分裂反応が誘発され、様々な短寿命核が生成されます。原子力機構では、繊維状に加工した炭素標的(図2)に液体の硝酸ウランを浸透させ、約2000度まで加熱することで炭化ウラン標的を生成しました。これにより、生成した短寿命核を標的中で高速に拡散・蒸発させ、効率良く引き出します。

この短寿命核に電子ビームを照射すると、電子が1個剥ぎ取られた「1価のイオン」になります。(インジウムやバリウムの短寿命核の場合は、1万5千電子ボルト程度の運動エネルギーを与えられて、ウラン標的から引き出されます。)

次に1価のイオンを20価のイオンにします。KEKでは、1価のイオンをプラズマ中で静止させ、プラズマを構成する高速電子を用いて短寿命核の電子を剥ぎ取り、多価イオンを生成する「電子サイクロトロン共鳴型の電荷増幅器」を開発しました(図3)。

次世代の短寿命核加速施設では、1秒間に10億個の短寿命核ビームを生成することを目指しています。そのような大強度のビームの荷電増幅には電子サイクロトロン共鳴型を用いるのが最適と考えられています。このサイクロトロンでは、ビームのエネルギーをいったんほとんど0に落とす技術が重要ですが、インジウムやバリウムの様な金属元素は、壁にぶつかると吸着してしまいます。

そこで、真っ直ぐにビームを打ち込む機構を作り、イオンができるだけ壁に衝突しないよう工夫して、変換効率を一桁以上向上させました。これにより、毎秒約1万個の強度を持つビーム加速を実現し、実験に使用することが可能になりました。電荷増幅器を用いて短寿命核を実際に加速することに成功したのはTRIACが世界初です。

短寿命核ビームを用いた研究

宇宙に存在する鉄よりも重い元素は、超新星爆発時の中性子密度が極めて高いところで生成されたと考えられています。このような環境下では、有限な寿命を持つ短寿命核が中性子を吸収し、さらに電子を放出して陽子に変わること(ベータ崩壊)を繰り返すことで、より重い元素を生成したと考えられています(図4)。この元素生成過程を解明するには、短寿命核の性質を理解することが不可欠です。

また、一般に原子核は磁石の性質をもっていて、その磁石の強さを測定すれば短寿命核の性質が詳細に調べられます。しかし、磁石の強さを測定するには、磁石の向きをできるだけ一方向に揃える必要があります。薄膜に短寿命核の8Liビームを通過させることで、磁石の向きを揃えることは、既に実現しており、この薄膜法を用いて、インジウムやバリウム等の短寿命核が持つ磁石の強さを測定しようとしています(図5)。

さらに将来的には短寿命核をより高いエネルギーまで加速し、短寿命核と中性子との核反応を模擬する実験を行う予定です。これにより、いろいろな種類の短寿命核が中性子を吸収する確率を実験的に決定できます。これらの研究を通じて、重元素合成の経路を解明していく予定です(図6)。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→TRIACのwebページ
  http://triac.kek.jp/

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  ・08.06.18 プレス記事
    超新星爆発時の元素合成の解明につながる
            放射性同位元素のビーム加速に成功

  ・03.02.06
    短命な原子核が拓く先端科学 〜短寿命核実験装置〜

 
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[図1]
TRIAC の全体図。原子力機構タンデム加速器から供給される陽子ビーム(ピンク球)とウラン標的によって生成された短寿命核(赤球)はオンライン同位体分離装置を用いて、1価のイオンとして選別される。イオンになった短寿命核を電荷増幅器に入射し、1価から約20価になるまで電子を剥ぎ取る。多価イオンになった短寿命核は線形加速器群によって、核子あたり最大1.5MeVまで加速される。
拡大図(87KB)
 
 
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[図2]
一本は髪の毛くらいの太さに相当。
拡大図(54KB)
 
 
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[図3]
(上)電荷増幅の仕方。15keVほどのエネルギーを持った1価の短寿命核イオン(赤玉)は電子の雲(黄色)に覆われている。このイオンを減速させ、プラズマ内(黄緑色)で静止させる。プラズマはイオンを覆った電子を剥ぎ取ることで、多価イオン(赤球)に変換する。(下)1価の安定核イオン 138Baを用いた電荷増幅の試験結果。質量電荷比(A/q)を測定することで、荷数を同定した。図から20価を最大にいくらか幅を持って多価イオンに変換している様が分かる。
拡大図上(32KB)
拡大図下(39KB)
 
 
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[図4]
画像提供:原子力機構 千葉氏
超新星爆発後、陽子や中性子から元素合成が始まってから約1秒間で生成される原子核の量を計算した。赤になるほど多く、青は少ない核種を示す。灰色の印は自然に存在する安定核。1秒間という短い間に、陽子、中性子からウランのような重い原子核が一気に生成され、しかもその生成には短寿命核が深く関与していることが分かる。
拡大図(1.9MB)
 
 
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[図5]
原子核が持つ磁石としての性質を調べるには、磁石の向きを揃える必要がある。厚さ30nmのポリスチレン薄膜を製作し、その薄膜15枚に短寿命核8Liビームを通過させることで、最大6%の短寿命核の磁石の向きを揃えることに成功した。この同じ薄膜法を用いてインジウムやバリウム等短寿命核の持つ磁石の向きを揃え、それぞれの性質を調べようとしている。
拡大図(25KB)
拡大図(39KB)
 
 
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[図6]
天体内では、短寿命核が中性子を捕獲し、同時にガンマ線を出して重い原子核を生成していくと考えられている。このような中性子を捕獲する確率を実験的に決めることも、超新星爆発時の元素生成過程の解明に重要。
拡大図(30KB)
 
 
 
 
 

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