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last update:09/10/08  

   image 素粒子のダンス    2009.10.8
 
        〜 泡箱実験の歴史と自動解析装置 〜
 
 
  KEKの一般公開で、人気を博している企画といえば「霧箱(きりばこ)を作ってみよう」です。今年も200名を超える方に参加いただきました。KEKでは発泡スチロールを使ったキットを用意し、ドライアイスとアルコールを使って、装置の中にくくりつけたマントルの糸からでているアルファ線を観察します。この霧箱、もともとは1894年ころにスコットランド人の科学者で、雲、霧、雨の物理に興味を持っていたC.T.R.ウィルソン博士によって発明された装置です。この装置の発明により電気を帯びた粒子(荷電粒子)の通過した跡(軌跡)が目に見えるようになり、反応の写真を撮ることもできるようになりました。

その原理は飛行機雲の生成と同じです。KEKの霧箱キットではアルコールの蒸気をたっぷり含んだ空気をドライアイスで冷やし、アルコールの蒸気が液体に戻りやすい状態を作っておきます。その過飽和状態にある空気をアルファ線が通過することで、空気のイオンが生じ、それにアルコールの蒸気が集まりアルコールの水滴になります。それが、キツネの尾のようなアルコールの雲として観測され、目に見えないアルファ粒子が通過していった軌跡が見えるのです。

しかし1950年代、原子核や素粒子の研究で加速器が活躍するようになると、霧箱による観測では対応できなくなってきました。加速器による強いビームに耐え、2秒に1回といった現象を記録できるようにならなければいかなかったのです。そこで発明されたのが気体の替わりに液体を使う泡箱(あわばこ)です。

気体の代わりに液体を使うことで、ビームと媒質との衝突の頻度が増え、反応現象をより捉えやすくなりました。水滴の形成の代わりに泡の生成を利用します。沸点以上に加熱された液体はその液体が不純物を含んでいなければ泡は発生しません。そこに電気を帯びた粒子がやってくると,液体の原子・分子は電子をはぎ取られ、粒子の飛跡に沿ってイオンの列ができます。そのイオンにそって泡が次々と発生します。その泡の直径は1mm以下のため、軌跡の測定を精密に行えるようになりました。

泡箱の発明

米国のドナルド・クレーザー博士はいろいろな液体や加熱法をトライし、その完成に何年も費やしました。初期の泡箱は液体プロパンや、液体ペンタンを利用し、その装置の直径も20〜30cm程度でした。クレーザー博士は1960年に泡箱の発明によりノーベル物理学賞を受賞しています。

泡箱は加速器のビーム中に置かれ、一枚の写真にたくさんの粒子衝突の軌跡を写しました。また泡箱には磁場がかけられ、泡による軌跡の曲がり具合から粒子の運動量を正確に測定しました。入射粒子の数では50個程度まで入射されることもありました。粒子の入射に同期してフラッシュがたかれ、カメラが次々と粒子の反応を記録していきました。毎年100万枚もの写真が撮られ、原子核や素粒子の反応の詳しい性質が調べられました。

図1は米国ブルックヘブン研究所の2m泡箱で捉えられたオメガマイナス(Ω-)粒子の存在を示した写真です。ケイマイナス(K-)中間子が陽電子と衝突して撒き散らされた多くの粒子の中に理論的にその存在が予言されていた負の電荷を持つΩ-粒子が記録されていました。

泡箱実験は粒子を大量に生産し観測する時代を築き、1968年には液体水素を用いる水素泡箱による粒子の多重発生現象(共鳴状態)の研究により米国のルイ・アルバレ博士がノーベル賞を受賞しました。当時はそれらの多種多様な粒子がすべて素粒子と考えられたこともあり、「素粒子の動物園」とも表現されていました。

図2は1970年にCERNの水素泡箱に記録された粒子反応図です。その美しさから70年代にはこうした粒子反応図はコズミックダンスとも呼ばれました。

KEKの泡箱装置

Ω-粒子の発見や、アルバレ博士の研究に刺激され、日本でも1965年東北大学で日本最初の泡箱写真を用いた素粒子研究が始まります。一方、KEKでも素粒子と原子核の反応を詳しく調べるために陽子シンクロトロンのビームを泡箱で観測する共同利用実験が始まりました。図3は1977年の12月に撮影されたパイマイナス(π-)中間子と陽子の反応を1m水素泡箱で捉えた時のものです。30万枚におよぶ写真撮影を一気に行い、KEKにおける共同実験が本格化したのです。現在、この1m水素泡箱は現在上野の国立科学博物館に展示されています(図4)。

KEKでの泡箱解析の特徴は、二重偏向型ブラウン管を採用した自動解析装置、KAMA(KEK Automatic Measuring Apparatus)(図5)の開発とその利用にあります。画面上の粒子の反応点の座標を自動的に読み取れるようになり、解析の効率が飛躍的に向上しました。ちなみにこの自動解析装置は、米国のINDUSTRIAL RESEARCH展においてIR-100賞を受賞し、その後郵便番号自動読み取り装置の一部に活用されたとのことです。また、水素泡箱用の低温技術は、KEKの現在の基幹技術のひとつである超伝導磁石技術へとつながっていきます。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射線科学センターのwebページ
  http://rcwww.kek.jp/
→放射線計測協会のwebページ
  http://www.irm.or.jp/
→放射線に関するFAQ(よくある質問)のページ
  http://www.kek.jp/faq/radiation.html
→暮らしの中の放射線のページ
  http://rcwww.kek.jp/kurasi/index.html
→霧箱を作ろうのページ
  http://rcwww.kek.jp/~sanami/kiribako/index.html

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[図1]画像:BNL
ブルックヘブン研究所のとらえたオメガマイナス(Ω-)粒子の泡箱写真図。
拡大図(88KB)
 
 
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[図2]画像:CERN
たくさんの粒子衝突がとらえられている泡箱反応写真の典型例。
拡大図(97KB)
 
 
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[図3]
KEKの陽子加速器を用いた6GeV/c パイマイナス(π-)ビーム入射による1m水素泡箱写真。
拡大図(49KB)
 
 
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[図4]
科学博物館に展示されているKEK1m水素泡箱。
拡大図(71KB)
 
 
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[図5]
KEKの泡箱用自動解析装置KAMA。
拡大図(55KB)
 
 
 
 
 

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