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   image 放射線が見えた!    2003.8.7
 
〜 手作り霧箱教室 〜
 
みなさんは霧箱(きりばこ)という装置をご存じでしょうか?透明なケースの中にアルコールを少し入れて、ドライアイスで冷やしていくと、普段は目に見ることのできない放射線が目で見えるようになります。

この不思議な体験をしてみようと、放射線科学センターが中心となって、「手作り霧箱で放射線をみてみよう」という呼びかけでジュニアサイエンス&ものづくり事業が、8月2日、KEKで開催されました。これは子供たちに理科に興味を持ってもらおうと、文部科学省の大学等地域開放事業の一環として小中学生を対象にはじまったもので、KEKでは最初の試みです。

霧箱とは

放射線は、そのままでは目で見ることも、音を聞くことも、味わったり熱さや痛みを感じたりすることもできません。そのような放射線を測定するための装置がいろいろと発明され、改良されてきましたが、霧箱はその中でも最も古い装置で、1912年にイギリスの物理学者C.T.R.ウィルソンによって発明されました。

空気中に水蒸気がある時、水蒸気を目で見ることはできません。ところが空気の温度が下がってくると、水蒸気が小さな水滴になり、霧として目で見えるようになります。水の代わりにアルコールの蒸気がある時も、空気の温度を下げていくとアルコールの霧が発生します。

じつは、周囲の温度が下がった時に蒸気が霧になるためには、なにかのきっかけが必要ですが、きれいな空気では温度を下げていってもなかなか霧が発生しません。ちょっとしたきっかけがあると、ぱっと霧ができる、こんな状態を「過飽和蒸気」と呼びます。

ウィルソン博士は、いろいろな放射線のうち、電気を帯びた粒子が、アルコールの過飽和蒸気の中を飛ぶと、その軌跡が飛行機雲のようになることに気付きました。電気を帯びた粒子が空気中の分子をイオン化し、そのイオンが過飽和の蒸気を霧に変えるきっかけとなることで、放射線が飛ぶ様子を初めて実際に目や写真でとらえることに成功したのです。

アルコールの蒸気をドライアイスで冷やすと、霧箱を簡単に作ることができます。KEKの放射線科学センターでは、家庭でも失敗せずに放射線を観察することができるように工夫した霧箱セットを考案しました。

98名の参加者

教育委員会などの協力を得ながら案内パンフレットやホームページで紹介したところ、電子メールによる申し込みが殺到し、茨城県内だけでなく、千葉県や栃木県、遠くは静岡県から、さらに韓国から来日中の小中学生を合わせて53名、保護者45名が参加されました。

当日はちょうど、梅雨明けということで、前日までとは打って変わって暑い日となりましたが、熱心な人が多く予定の1時間ほど前から会場に集まり始めました。

暮らしの中で出会う放射線

放射線、あるいは放射能、というと、原子炉の事故や核爆弾のような、なにか恐ろしいものを想像される人が多いと思いますが、じつは私たちの暮らしの中にも放射線はいつも存在しています。例えば、宇宙からは高いエネルギーを持った陽子やヘリウムの原子核などが降り注いでいますが、これらが地球の大気の上層部で反応して、ミューオンという粒子が地上まで降り注いでいて、宇宙線と呼ばれています。また、地球の地面の中からはラドンなどの天然の放射性元素がしみ出してきて、たえず放射線を発生しています。火災の煙を探知する探知器や、昔の目覚まし時計の蛍光塗料にも放射性同位元素を用いているものがあります。

放射線科学センターでは、これらの放射線や放射能の話が難しくてよくわからないという人のために、その基礎的な知識や私たち人間との関わりなどをやさしく紹介した「暮らしの中の放射線」というパンフレットを作成しています。

親子で夢中に

プログラムはまず平山先生の挨拶(写真1)のあと、俵先生が「暮らしの中の放射線」について説明し、目覚まし時計などの身近な物質から出てくる放射線をサーベイメータで測定したり、平均的な日本人の体を1秒間に200回ほど通過している宇宙線をスパークチェンバーで見たり(写真2)、という実演をしました。スパークチェンバーは特に子どもたちの印象に残ったようで、アンケートでも面白かったもののひとつに挙げられていました。

次に、霧箱の歴史や仕組みの説明の後、4〜5人の子供達と保護者がそれぞれのテーブルにつき、霧箱作りが始まりました。作り方の説明の間にも待ちきれず、作り始めるグループもいて、一気に室内に活気があふれました。説明する講師の方はカッターナイフの取扱いやドライアイスの配付ではケガの無いよう安全に気を配っていました。(写真3)

10分ほどたつと、はやくも組み立てが終わったグループも出てきて、ケースの中にランタンの芯とアルコールを入れて、ドライアイスで冷やし、部屋を暗くして、懐中電灯で照らしながらの観察になりました。「見えた!見えた!」と子供たちの声が聞こえはじめ、付添いの保護者も一緒になって興奮していました。懐中電灯の光の中に線香花火のように浮かび上がる放射線の軌跡は幻想的なものでした。(写真8)

自然放射線の測定

観察が済んだグループは、ロビーで放射線測定器を受け取って、建物内の床、壁、階段、トイレ、エントランス、芝生など、いろいろな場所で自然放射線の測定を行いました(写真4)。KEKで実際に放射線管理に使用しているサーベイメータなども使って様々な物質の放射線の測定も体験しました(写真5)。

この自然放射線の測定に使ったのは「はかるくん」という簡易放射線測定器です。これは、放射線計測協会で無料で借りることができます。

そのあとアンケートと質問の時間となりましたが、放射線の人体への影響、放射線の単位など専門的な質問も出ました。また、みんなで自然放射線を測定した記録から、黒いストーンテーブルやレンガからの放射線が強かったことなど、場所によって強度が違うことが分かったようでした(写真6)。霧箱については、「ドライアイスでなければならないか」、「ランタンの芯は何でできているのか」などの質問があり、家で霧箱を作る場合の工夫について紹介しました。「氷に塩をかけて、それで冷やすと見えますか。」という質問もありましたが、「氷と塩の組み合わせでは十分に冷えないので難しいでしょう。でも自分で試してみるのは大切なことです。」ということでした(写真7)。(ちなみにドライアイスの昇華点はマイナス78.5度です。)

参加された皆さんからは、「面白かった」、「またやってみたい」、「一般公開にも参加してみたい」という声も聞かれ、おおむね好評でした。科学や工作が好きな子は多いと実感することができた3時間でした。この実験を通じて「科学って面白いな」と感じてもらえるきっかけとなったのであればよかったと思います。

同様の霧箱の作成はKEK一般公開(9月15日)でも行います。

 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→放射線科学センターのwebページ
http://rcwww.kek.jp/
→放射線計測協会のwebページ
http://www.irm.or.jp/
→放射線に関するFAQ(よくある質問)のページ
http://www.kek.jp/faq/radiation.html
→暮らしの中の放射線のページ
http://rcwww.kek.jp/kurasi/index.html
→霧箱を作ろうのページ
http://rcwww.kek.jp/~sanami/kiribako/index.html

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    KEKに2300人〜一般公開ハイライト〜
    科学と遊ぼう〜一般公開ご案内〜

 
 
 
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[写真1]
平山先生のあいさつ
拡大写真(22KB)
 
 
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[写真2]
俵先生がスパークチェンバーについて説明しているところ。機械の中で光る線は宇宙線を捕えた様子。
拡大写真(37KB)
 
 
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[写真3]
霧箱作成中の様子
拡大写真(37KB)
 
 
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[写真4]
建物の壁の自然放射線を測定しているところ
拡大写真(27KB)
 
 
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[写真5]
サーベイメータを使って放射線の測定を体験
拡大写真(26KB)
 
 
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[写真6]
自然放射線の測定結果の説明
拡大写真(25KB)
 
 
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[写真7]
アンケートと質問の時間
拡大写真(42KB)
 
 
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[写真8]
放射線の霧の様子
上[アニメgifQuickTime
(911KB)    (1.2MB)
下[アニメgifQuickTime
(789KB)    (1.1MB)


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