|
>ホーム >ニュース >News@KEK >この記事 | last update:09/10/15 |
||
アルミも浮かぶ液体キセノン 2009.10.15 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
〜 高性能粒子検出器のための極低温冷凍機 〜 |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
夜道を走る自動車のライト。最近は青白い光を発する眩しげなライトが増えてきました。従来はハロゲンランプと言われるものがほとんどでしたが、耐久性、明るさのどちらの点でも勝っていることから、キセノンガスを封入し、蛍光灯のように放電により光を放つ、キセノンランプが多く使われるようになってきています。 このキセノン(xenon)という物質、空気中にはほんの少ししか含まれていません。周期表を見るとわかりますが(図1)、ヘリウムやネオンと同じく希ガス元素といわれる仲間に属しています。19世紀の末に発見され、ギリシャ語で「なじみにくい」を意味する「xenos」が語源です。原子番号は54、原子量は131.293もあり、とても「重い」物質です。この「重い」という特性とプラズマになりやすいという性質を利用して、イオン推進エンジンにも使われています。小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されていることをご存じの方も多いでしょう。 少しずつ身近になってきているキセノンですが、水蒸気を冷やせば水になるように、冷やしていくと液体になります。そしてこの「液体キセノン」が粒子検出器の分野でも脚光をあびつつあります。 入射粒子の情報を測る キセノン中で電子や光子などの素粒子が物質に入射すると、「電磁シャワー」といって電子のシャワーが起こります。この電子を集めれば、入射粒子のエネルギーと位置を計算することができます。これは液体中に電子を集めるための電極を配置することで実現できるのですが、こんなことが可能なのは、液体キセノン中で電子が大気中と同じようにかなり自由に動き回れるからです。このため粒子検出器として重宝されています。 実はキセノンにはもう一つ重要な性質があります。入射粒子が液体中に落としたエネルギーが元になって、キセノンが励起状態になります。この励起状態から基底状態に戻るときに光を発します。シンチレーション光とよばれるこのような光は透明な液体中を進みます。先ほどの電極と違って、液体中に光を計測する装置を設置しておけば、このシンチレーション光をとらえることができます。そして、それをもとに入射粒子のエネルギー、位置、時間を計算することが可能なのです。光の情報と電子の情報をうまく組み合わせれば、さらに優れた検出器分解能を達成することも期待されています(図3)。 極低温の冷凍機 このようにいいことずくめの液体キセノンですが、一つだけ問題があります。それは、液体にするために摂氏マイナス100度近くにまで、冷やさないといけないことです。この点に関してはKEKで長年研究が行われてきました。通常の低温液体と同じく、液体キセノンを容器に入れておくと、外からの熱で蒸発します。放っておくとどんどん液体が少なくなってしまうので、キセノンを冷やして液に戻してやる必要があります。このため、検出器容器は断熱性能に優れた魔法瓶のような形になり、冷却のための冷凍機を上部に備えた構造になります(図4)。従来は液体窒素による冷却が主流でしたが、KEKが開発した冷凍機(図5)を採用することで一気に冷却が簡単になり、比較的容易に液体キセノンを作れるようになってきています。 図6はガラス製の断熱容器に液体キセノンを貯めた様子です。無色透明の水のような液体ですが、温度は何と167K(摂氏マイナス106度!)です。何か丸い塊が浮かんでいるのも見えると思います。実はこれ、液体キセノンを作る前にあらかじめ容器の中に落としてあった直径2cmのアルミ球です。アルミの密度は2.7g/cm3ですから、この浮き具合から液体キセノンの密度を計算することが可能です。興味のある方はぜひこの計算にトライしてみてください。
|
|
|
copyright(c) 2009, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK 〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1 |