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3人でDNAの傷を乗り越える 2010.4.8 |
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〜 小さなタンパク質REV7がつなぐ働き 〜 |
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私たちの設計図であるDNAが、紫外線や化学物質などによって実はとても簡単に傷ついてしまうのを知っていますか? しかし実際、設計図がそんなに簡単に傷ついていては、私たちは生きていけないでしょう。そうなっていないのは、生物にはDNAの傷を直したり、またあるときには傷を回避して生命活動を続けたりして、壊れやすい遺伝子DNAをいろいろな方法で守っているからです。今回のニュースは、DNAを守るしくみのひとつ「損傷乗り越えDNA合成」に深くかかわるタンパク質のお話です。 非常事態でもDNAのコピーを続ける 細胞が分裂する時、遺伝子DNAはコピーされて遺伝情報を伝えます。このとき、DNAに傷があるとDNA合成酵素(複製型ポリメラーゼ)はコピーを続けることができません(図1上)。このようなことが起こらないように、DNAのコピーを作る前にDNAの傷を直すしくみが生物には備わっています。しかしDNAをコピーしている最中にDNAが傷を受けた場合はどうでしょう? コピーを途中で止めてしまうのは細胞の死につながる非常事態です。これを回避するため、DNAの傷を乗り越えてコピーを続ける仕組みが、「損傷乗り越えDNA合成(Translesion Synthesis:TLS)」です(図1中)。その後、複製型ポリメラーゼがコピーを再開し、無事にDNAのコピーが終わります(図1下)。 これまでの研究から、人間では、DNAの傷を乗り越えるにはREV1、REV3、REV7という3つのタンパク質が協力し合っていることが知られていました。REV1とREV3はDNAに傷があってもDNAをコピーできる酵素で、TLSポリメラーゼと呼んでいます。傷を乗り越えるにはこの両方が必要であることがわかっていましたが、もうひとつのREV7に関しては、REV1ともREV3とも結合するタンパク質であるということ以外には詳しいことはわかっていませんでした。横浜市立大学の橋本博(はしもと ひろし)助教と大学院生の原幸大(はら こうだい)さんたちは、REV7がどのような役割を果たしているか、その立体構造から突き止めようと考えました。 2つのタンパク質をつなぐアダプター REV7は211個のアミノ酸から作られる比較的小さなタンパク質です。しかしREV3は3130個のアミノ酸がつながったとても大きなタンパク質なので、構造を見るのは困難でした。そこで結合に必要な部分だけを取り出し、REV7とREV3が結合した結晶 (REV7-REV3複合体)を作りました。その結晶をKEKフォトンファクトリー(PF)のタンパク質結晶構造解析ビームラインBL-5Aを使って解析した立体構造が図2です。REV3(黄色)とREV7(青)が、まるで絡み合った結び目のように結合しているのがわかります。 すでにお話ししたように、REV7はもうひとつのTLSポリメラーゼ、REV1とも結合することがわかっています。研究グループは、プルダウンという方法で、REV1とREV3は同時にREV7に結合することを確かめました。ではREV1はREV7のどこに結合するのでしょうか? 根気強く調べた結果、REV7の緑色で示した部分(βシート)にREV1が結合することがわかりました(図3の赤い部分)。REV3とREV7は結び目のように絡まって結合しているので、REV1とREV7が結合する前にREV3はREV7と結合していないといけません。したがって、3つのREVタンパク質が結合するには順番があり、まずREV7とREV3が結合し、そこにREV1が結合すると考えられます(図4)。このように、小さなタンパク質REV7は、2つのTLSポリメラーゼ、REV1とREV3をつなぐアダプターの役割を果たす重要なタンパク質であることが立体構造からわかりました。 つなぐ機能が重要 もし、3つのREVタンパク質が複合体を作れないと細胞はどうなってしまうのでしょうか? ニワトリの細胞にシスプラチンという薬剤を使って、DNAに傷を付けたときの細胞の生存率を調べたのが図5です。つなぐ機能を持たない突然変異型のREV7を入れた細胞(▲)は、REV7を持たない細胞(■)と同じぐらい、薬剤に対して非常に弱いことがわかりました。このことから、DNAの傷を乗り越えるには、アダプタータンパク質REV7が、2つのTLSポリメラーゼREV1とREV3の両方をつなぎとめておくことが必要であることが明らかになりました。 最後に示した実験結果からも、損傷乗り越えDNA合成が細胞にとって非常に重要な役割を果たしていることがわかります。DNAの複製や修復に関わるタンパク質の立体構造を調べることは、細胞死や突然変異、発がんなどが起こるしくみを明らかにすることにつながります。 この研究は米国の科学雑誌「Journal of Biological Chemistry」の2010年4月16日号に掲載されます。
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