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世界の加速器科学研究者、一堂に会する
~ 第1回世界加速器会議(IPAC'10)開催 ~

2010年5月27日

1200人を超える世界の素粒子・加速器物理学者、学生、産業界の代表が京都に集結しました。最大規模の加速器物理の国際会議、第1回世界加速器会議(The First International Particle Accelerator Conference:IPAC'10)が、5月23日、国立京都国際会館で幕を開けました。「3年前に、それまで個別に実施されてきた世界の3地域の粒子加速器会議-アジアのAPAC、ヨーロッパのEPAC、北米のPAC-をひとつの会議にまとめることが合意されました。この会議は、新しい会議の第1回目となるもので、粒子加速器の研究者にとって、大きなマイルストーンとなるものです」と語るのは、黒川眞一KEK名誉教授。第1回IPACの名誉議長を務めました。

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図1

IPAC'10名誉議長 黒川眞一KEK名誉教授(IPAC会場である国立京都国際会館にて)


3つの会議がひとつに

「そもそも今回の会議は、APAC(アジアの会議)として開催する予定だったのです」と黒川氏は話します。3つの地域会議をひとつの国際会議へとまとめる動きは、5年ほど前から始まりました。これまで、最も長い歴史を持つ北米のPACは1963年に、ヨーロッパの会議EPACは1988年に開始され、両会議ともに2年毎、交互に開催されていました。会合の予定が重ならないため、会議の参加者は次第に地域を越え、実質的には国際会議へと姿を変貌させていました。一方、最も新しい会議となるアジアのAPACは、1998年から開始されたのですが、前身となる「日中加速器会議」の開催頻度を継承して、3年毎に開催されていました。そのため、開催時期が必ず北米かヨーロッパの会議と重複し、APACはアジアの地域会議の色合いを強く残すものでした。しかし、アジア地域が加速器科学の実力をつけてくるに連れ、国際会議へのアジアの科学者の参加が強く求められるようになってきました。米欧アジアが対等な協力関係を構築していくためにも、「三極体制」の構築が重要と、まずはヨーロッパがEPACを3年周期で開催するという英断を下しました。長い歴史を持つPACには、開催頻度の変更に対する抵抗が強かったのですが、最終的には3年周期への変更に同意。「だったら、ひとつの会議に統合しようというのは、自然な流れでした」(黒川氏)。こうして、初めての世界加速器会議「IPAC'10」が開催されたのです。

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図2

IPAC'10の開会セッションへの参加者。1500人収容のメインホールがほぼ満員となった。


すべてのわざには時がある

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図3

初日の合同セッションの司会を務める生出勝宣KEK加速器施設長

「第1回をアジアで、それも日本で開催することについては、反対する人はいませんでした。アジアでは、現時点で一番実力のある日本で開催するのは当然の流れだったのです」と、黒川氏は言います。とはいうものの、これまでPACやEPACには常に1000人を超える参加者がありました。対するAPACの参加者は400人程度。初めての統合した会議IPACへ、PACやEPACと同じくらいの参加者を集めることができるか。これは、アジアにとってはひとつのチャレンジだったのです。「1200人を超える参加者を迎えましたし、順調な滑り出しと言えるでしょう」と語るのは、生出勝宣KEK加速器施設長。体調を崩した黒川氏から、IPACの議長を引き継ぎ、今回の開催にこぎ着けました。IPACに提出されたアブストラクト(会議で行われる発表の要約)は、これまでのAPACの実績の3倍に及ぶ2000以上。また、90件近い企業展示と、研究者や学生による約1700枚のポスター発表が行われ、IPAC'10は、これまでにアジアで開催された加速器会議で、最も大きな規模となりました。「今思えば、ここ京都に収束するように、全てのものごとが動いたような気がします。全てのわざには時がある。ちょうどいいタイミングだったのでしょう」と、黒川氏は旧約聖書の言葉を引用して、振り返りました。

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図4

まるでラッシュアワー!? 世界の素粒子・加速器物理学者でごった返すコーヒーブレイク


未来の加速器科学へ

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図5

第1回世界加速器会議(IPAC'10)のポスター

IPACの開催は、世界の加速器科学の研究者、技術者が、対等な三極体制での研究推進に向けた第一歩です。しかし、今後の課題は山積しています。「とくに、アジアの力を底上げしてくために、日本が、そしてKEKができることは多いと思います」と生出氏は語ります。「インドや中国の科学者が外国で研究しようとすると、日本ではなくて米国に目が向いてしまうことが多いのです。地理的に言えば、日本での研究の方がずっとやりやすいはず。日本の受け入れ態勢を整備することで、KEKはもっとアジアに貢献できると考えています」(生出氏)。アジア各国における加速器科学は、その存在感を増しています。インドの加速器関連予算は、年3割~4割増と目覚ましい伸びを見せており、中国では、1000人を越える大学院生が加速器科学を学んでいます。黒川氏は、これまで中国やインドを足しげく訪問し、加速器科学を通じたアジアとの関係構築にも尽力してきました。「アジアの若手研究者に研究の機会を与えることがKEKの果たす役割でしょう。様々な方法で、継続的にチャンスを提供し、日本とアジアの国々との研究者や学生の行き来が当たり前のものになったら、その時初めて、アジアとしての対等な関係が構築できたと言えると考えています」(黒川氏)。IPACは、加速器科学の未来に向けた、アジアの、そして世界の対等な協力関係の出発点と言えるでしょう。次回のIPAC'11は、スペイン、サン・セバスチャンで2011年9月5~9日の日程で開催される予定です。