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アジアの加速器 2006.5.11 |
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〜 アジア地域将来加速器委員会の活動 〜 |
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これまでお伝えしてきたように、加速器は物質の究極の極微の世界を探るために欠かせない研究道具です。また、物質や生命のミクロな構造を調べるための放射光や中性子、ミュオンなどを発生させるためにも加速器が用いられ、ナノテクノロジーや半導体生産、バイオテクノロジーの発展を支える便利な道具として急速に発展しつつあります。 KEKの研究者がアジアの研究者と協力しながら、アジア地域の加速器技術の連携を図るために活動しているアジア地域将来加速器委員会(ACFA)についてご紹介しましょう。 急速に発展するアジアの加速器 アジアにおける加速器建設の気運は、1980年代後半から 急速に高まってきました。KEKは1998年に第1回の「アジア加速器会議(APAC)」を主催し、アジア各国から約400名の研究者が出席しました。 この背景にはアジア各国の加速器計画が密接に関係しています。中国では1970年代後半から加速器科学が本格化し、1988年から20億電子ボルトの電子・陽電子衝突型加速器「BEPC」が稼働しました。中国はBEPCの性能を大幅に高めるBEPC-IIの建設を決め、さらに2004年には世界で5番目に大きな放射光施設となる「上海放射光」の建設を決めました。どちらの計画も中国の研究者は日本との協力を強く望んでいます。 韓国や台湾でも1990年代に放射光施設が建設されて、それぞれ活発な活動を始めています。タイの放射光施設はつくば市にあった「SORTEC」という放射光加速器を日本の研究者が移転する形で2001年に完成しました。シンガポールにも10億電子ボルトの小型放射光設備があります。 APACの第2回の会議は2001年に中国の北京で、第3回は2004年に韓国の慶州でされました。第4回のAPACはインドのインドールで来年1月に開催されます。 国際協力組織の結成 アジア地域の加速器科学の発展のために各国の加速器研究者が集まって、アジア地域将来加速器委員会(ACFA)という組織が結成されました。1996年のことです。現在の参加メンバーは、日本、韓国、中国、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール、インド、バングラデシュ、パキスタン、オーストラリア、ベトナム、そして、フィリピンです。(図1)。 先にご紹介したAPACは、ACFAが主催する国際会議です。日本でこの組織を中心になって取りまとめているのがKEK加速器研究施設研究総主幹の黒川眞一教授です。黒川教授は2005年からACFAの委員長を務めておられます(図3)。 黒川教授は、アジア全域で加速器物理学者や技術者と協力関係を築き上げ、これらの国々に100回以上訪問してきました。2000年には日本学術振興会(JSPS)の拠点大学交流事業において、JSPSと中国科学院(CAS)の間に加速器科学分野における協力覚書が締結され、以来、KEKが日本側拠点大学として同分野での交流の中核を担っています。黒川教授は、事業のコーディネーターとして、交流の推進に尽力しています。このJSPSプログラムは、2005年4月に韓国を含むために拡大されました。 インドとの連携が進む インドのデカン高原にあるインドールでは1980年代半にRRCAT(Raja Ramanna Centre for Advanced Technology)という加速器とレーザーの研究所が設立され、25億電子ボルトの電子加速器を有するINDUS-Iとよばれる4.5億電子ボルトの放射光加速器が1999年から運転されており、昨年の8月には、25億電子ボルトのエネルギーを持つ放射光加速器INDUS-IIが完成し、ただいま総合調整運転を行っているところです。また、100キロワット級の中性子散乱研究施設を建設するという計画も決定されました。 黒川教授はKEKのB-factoryや放射光加速器、そして日本原子力研究開発機構が共同で建設を進めている大強度陽子加速器J-PARCや、国際的に基本設計作業が進む国際リニアコライダー計画(ILC)で日本が有している最先端の加速器技術をインドの若くて優秀な技術者に伝えることで、アジア地域内における加速器科学の連携をより一層強めようと努力しています。 今年3月11日、JSPSはインドの科学技術省(DST)との間に、インド側拠点大学をRRCATとして、加速器科学分野での拠点大学交流事業を実施するための協力覚書を締結しました。JSPSのアジア諸国との間の最も大きなプロジェクトである拠点大学交流事業にインドが参加するのは、初めてのことです。「JSPSとDSTの枠組みの下で、RRCATとKEKは現在、加速器科学で共同するための覚書に署名しようとしてます。」と、RRCATの拠点大学共同プログラムの提案された責任者のうちの一人であるSatish Joshi氏(図7)は述べます。「RRCATは、加速器科学で関心分野を特定するインドの中心機関の働きをし、日本と同様にインドへの相互興味のあるいくつかのプロジェクトを決定しようとしています。」 総研大で加速器の学校 黒川教授はさらに世界中の若い加速器科学者や技術者を対象に総合研究大学院大学の葉山キャンパスとつくば市のKEKで、国際リニアコライダー(ILC)に関する加速器スクールを今年の5月20日から27日にかけて主催します。 Interuniversity Accelerator Centre(デリー)のAmit Roy所長(図8)は、新世代の科学者を育てる黒川氏の活動のを高く評価しています。「日本はJ-PARCプログラムをすでに進めています。そこで開発される技術の大部分は、我々のパルス中性子源にも使うことができます。物理学の新しく挑戦的な分野を研究する気になるように、若い学生を連れてきたいと考えています。また総研大スクールにも学生を参加させる予定です。この新協定を結ぶことで、我々の活動が非常に大きく拡大すると期待します。」(Roy氏談) 「アジア地域で加速器科学の活動を強化することはとても重要です。高エネルギー物理学、加速器物理学、シンクロトロン放射、パルス中性子源科学をカバーする加速器科学のあらゆる分野でアジアの国の間の強い関係を確立したいと考えています。」と黒川氏は述べています。 この加速器スクールの様子については後ほどお伝えしましょう。
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