ニュ−トリノ振動実験



 [ニュートリノ振動実験:K2K]  [スーパーカミオカンデ

ニュートリノとは?

 素粒子のうち、レプトン族には、電子、ミュ−粒子、タウ粒子とそれぞれと対を成す、3種類のニュ−トリノがあります。ニュ−トリノは、電荷を持たないレプトンであり、他の粒子との相互作用は、いわゆる弱い相互作用しかありません。従って、宇宙からやって来るニュ−トリノは地球をも貫いて行きます。また、ニュ−トリノは、理論の上からは、質量がゼロでなければならない理由はありませんが、実験的には質量はほぼゼロとされて来ました。しかし、実験によってその質量を測定する試みは、色々な方法で行われて来ましたが、未だ、上限値を与えるにとどまっています。

レプトン

 ニュートリノは、弱い相互作用のみで現れるもので、たとえば、放射性同位元素がベ−タ崩壊する場合には、原子核の中の中性子が陽子と電子と電子ニュ−トリノに崩壊することで、電子ニュ−トリノが発生します。したがって、原子炉からは大量のニュ−トリノが発生していますし、水素などの核融合で輝いている太陽からも大量のニュ−トリノが地球にふってきています。また、パイ中間子は、短い寿命の後、ミュ−粒子に崩壊しますが、このとき、ミュ−ニュ−トリノを伴っています。


ニュートリノ振動

 もし、ニュ−トリノにわずかでも質量があるとすると、3つのニュ−トリノ間での転換が許されて、相互に移行する可能性があります。今、質量の異なる3つのニュ−トリノを と仮定します。そして、これらのニュ−トリノが混じり合って、現実の電子ニュ−トリノ、ミュ−ニュ−トリノ、タウニュ−トリノが構成されると考えるのです。簡単のため例えば、電子ニュ−トリノとミュ−ニュ−トリノは が混合しているとして、

 と表されるとします。ここで、C,Sは混合を表す係数です。 の質量の違いが十分大きいときは、速度の差により、はすぐに分離してくることになります。
 しかし、質量の違いが極めて小さいと は重なったまま非常に長い距離を飛ぶことができます。こうした場合にニュートリノ振動という現象を見ることができます。

純ミューニュートリノ

 重なったまま飛んでいるときには、電子ニュ−トリノ とミュ−ニュ−トリノ の間で、転換が起こり、最初ミュ−ニュ−トリノ だけであったニュ−トリノビ−ムが、ある時間が経過すると電子ニュ−トリノの成分が現れることになります。このような、異なるニュ−トリノ間での相互移行を振動と呼んでいます。この転換の周期は、2つのニュ−トリノの質量差によって決まるものです。下図はもし、2つのニュ−トリノに質量差があったとして、ミュ−ニュ−トリノが飛行時間とともに、減少し、電子ニュ−トリノに転換して行く割合を示しています。

ミューニュートリノの振動

 このグラフは、質量差0.06eVの場合の、エネルギ−1.0 GeVのミュ−ニュ−トリノの振動を示しています。

ページの先頭へ

つくば・神岡間長基線ニュートリノ振動実験(K2K)

 高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、1995年に東大宇宙線研究所と協力して、世界にさきがけて研究プロジェクトをスタートさせました。それが、長基線ニュートリノ振動実験(K2K)です。K2Kでは、KEKの陽子加速器を用いて人工的にミューニュートリノビームを発生させ、250キロメートル離れた検出器スーパーカミオカンデに打ち込みます。
 ニュートリノビームの発生時の強度やエネルギー分布を正確に測定するため、KEKに前置検出器を設置します。ここでの測定結果とスーパーカミオカンデでの観測を比較して、ミューニュートリノが減っているか、電子ニュートリノが現れているかを実験データを詳しく解析して求めます。これによって上で述べたような振動が起っているか突き止めることができます。ニュートリノは非常に稀にしか物質と相互作用をしないため、年間を通して実験を継続しなければなりません。


図3: 長基線ニュートリノ振動実験(K2K)

 KEKでは、12GeV陽子シンクロトロン(加速器)からの陽子ビ−ムを、タ−ゲット物質(アルミニウム)に当て、大量に発生するパイ中間子の方向をなるべく前方へ揃え(電磁ホ−ン)、200メ−トルの崩壊パイプ中を通過させます。この中で、パイ中間子は、ミュ−粒子とニュートリノに崩壊します。この結果生成されたニュートリノのみが放射線シ−ルドを通過して、前置検出器で一部は観測されますがほとんどが地中に打ち込まれます。前置検出器を通過したニュ−トリノは1ミリ秒後に神岡に到達し、その中の極く一部がスーパーカミオカンデで観測されます。



図4: ニュートリノビームライン

 250キロメートル離れた神岡にニュートリノを送るために、ビームラインは北カウンターホールから約90度曲げられ、また、地球の円弧に合わせるために、水平より、約1度下向きにビ−ムを打ち込みます。衛星システムを用い、正確な測量が行われ、相互の位置、方向が合わせられました。前置検出器は、1000トンの水チェレンコフ検出器とミュ−粒子検出器からなります。この測定器は、加速器で作られたニュートリノビームの空間的な分布や成分を精密に測定することを目的としています。発生地点でのニュートリノビームの特徴を十分押さえることで、信頼性の高いニュートリノ振動の測定を行うことができるのです。


図5: 前置検出器

 一方、250km離れた岐阜県神岡には、約1000mの山の下に設置されたス−パ−カミオカンデが設置されています。つくばから打ち込まれたニュ−トリノを50,000トン水チェレンコフ検出器によって観測します。その水タンクの大きさは高さ 41.4m、直径39.3mの円筒形で、全内面に総数11,200本の光センサー:光電子増倍管(世界最大の直径50cmのガラス電子管)が取り付けられています。
ページの先頭へ

スーパーカミオカンデ(岐阜県神岡)



図6: スーパーカミオカンデ装置 (東京大学宇宙線研究所提供)



図7: スーパーカミオカンデ装置の建設中の内部 (東京大学宇宙線研究所提供)

 高さ 41.4m、直径 39.3mの円筒の内部に1万1千本の光電管が設置され、5万トンの水を貯めている。水チェレンコフ検出器とは、ミュ−ニュ−トリノのほんの一部分が水中の水素や酸素の原子核中の中性子と次の反応を起します。





図8:水中でのニュートリノ反応によって生まれるミュー粒子によるチェレンコフ光

 これによって生まれるミュ−粒子が、水中を通過する時発するチェレンコフ光を1万本の光電管で測定し、ミュ−粒子の散乱方向、速度を求めます。その様子を図8に示しました。電子ニュ−トリノの場合は、放出される電子が同じようにチェレンコフ光を発するので、それによって測定します。


「チェレンコフ光」
 物質中を通過する荷電粒子の速度がその物質中の光の速度(光速c/屈折率n)より大きい場合、粒子の飛跡にそって物質が発する光をチェレンコフ光と言います。これは荷電粒子が通過する際にその粒子の作る電磁場によって物質分子が分極(電気的に変形)し、通過後に元に復帰する際に光(電磁波)を放射する。これはちょうど池の水面をボ−トが進むときにできる波のように一定方向に波面を作るのに似ています。この円すいの頂角から粒子の速度を求めることができます。これによって生まれるミュ−粒子のエネルギ−と散乱方向をチェレンコフ光の方向と広がりから求めます。

光 速
粒子の速度
物質の屈折率
時 間
図9: 荷電粒子によるチェレンコフ光の発生

ページの先頭へ