KEKB加速器の概要

  2リング・非対称エネルギー・電子・陽電子衝突型加速器
Bファクトリーは、2リングからなる非対称エネルギーの電子・陽電子衝突型加速器である。B中間子(反ボトムクォークと軽いクォークから構成される中間子)とその反粒子である反B中間子を大量に(いわば工場のように)作り出すのでBファクトリーと呼ばれる。異なるエネルギーの電子と陽電子を衝突させるため(非対称エネルギー)、Bファクトリーでは2リングが必要となる。既存の周長3kmのトンネルの中に、電子を蓄積する8GeVのリングと陽電子を蓄積する3.5GeVのリングを左右に並べて設置する。8GeBと3.5GeVというエネルギーは、B中間子の一対をちょうど作り出すエネルギーである。2つのリングは一ケ所で交差し(この点を衝突点という)、そこで電子と陽電子が衝突する。衝突点を囲んでBELLEと呼ばれる測定器が設置される。 Bファクトリー加速器の建設は平成6年度から始まり、5年後の平成10年度に建設を終了し、平成11年度から実験を開始した。
 

大電流の蓄積
衝突型加速器の性能はルミノシティとよばれるパラメータで表される。Bファクトリーの目標ルミノシティは1034cm-2s-1と非常に大きい。 ルミノシティは蓄積される電流に比例し、衝突点でのビームを高さ3ミクロン幅300ミクロンまで絞り込むが、それでも必要な電流は電子リングにおいては1.1A、陽電子リングでは2.6Aに達する。このような大きな電流は5000個にのぼるバンチ(電子又は陽電子が1000億個程度集まったかたまり)に分散して蓄積させる。このような大電流を加速および蓄積するために、特殊な高周波加速空洞やビームを安定化するためのビームフィードバック装置、強力な放射光による発熱にたえられる銅の真空ダクトが用いられる。

  Bファクトリーは電子(e-)を蓄積する高エネルギーリング(8GeV)と陽電子(e+)を蓄積する低エネルギーリング(3.5GeV)の2つのリングからなる。2つのリングは筑波実験棟で交差し、電子と陽電子が衝突する。この衝突点を囲んでBELLE測定器が据え付けられる。富士実験棟ではリングが上下に交差して、ビームは衝突しない。
  結合バンチ不安定性と特殊な高周波加速空洞
バンチが高周波加速空洞中を通過すると、空洞内に高周波電磁場を励起する。空洞中では励起された電磁場はなかなか減衰せず、後続するバンチを振動させることになる。振動が大きくなった後続のバンチは空洞中にさらに強い電磁場を励起することになる。この連鎖によって、ついには、バンチ振動が大きくなり過ぎ、ビームが失われてしまう。この現象を結合バンチ不安定性といい、これを克服することが、大電流を多くのバンチに担わせて蓄積するBファクトリーにおける最重要課題である。
結合バンチ不安定性を抑えるためには、バンチによって励起された高周波電磁場が空洞内に留まらないような空洞を用いればよい。このような空洞を高次モード減衰型高周波空洞という。Bファクトリーにおいては、常伝導と超伝導の2つのタイプの高次モード減衰型空洞を用いる。
  衝突点
衝突点において、電子と陽電子はほとんど正面衝突する。Bファクトリーでは、電子と陽電子の軌道は正確には1.3度の角度をもって交差するため、この方式の衝突を有限角度衝突という。有限角度方式では、粒子は衝突後自然に分離されるため、衝突点の設計を簡略化することができ、またバンチ間隔を最小値である60cmまで小さくすることができる。
ルミノシティーを大きくするためには衝突点におけるビームの大きさをできるだけ小さくしなければならない。このために、強力なレンズを衝突点にできるだけ近付けて置き、ビームを絞り込む必要がある。Bファクトリーにおいては、超伝導四極電磁石を衝突点から約1mの地点に設置し、必要な絞り込みを行う。このような配置のもとでは、超伝導四極電磁石はほとんどBELLE測定器の内部に位置することになる。

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