さらに、「世界規模の研究所」構想では避けて通れない極めて一般的な観点が存在します。それは、異なる文明においては価値判断基準が異なるという事実です。これはアーノルド・トインビーの著書「歴史の研究(A Study of History)」や、サミュエル・ハンチントンの著書「文明の衝突(The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order)」の中で強調されています。両著者はともに、世界に9つある文明(日本文明もその一つ)の間に、共通する価値判断基準は存在しないと述べています。そして、サミュエル・ハンチントンはベルリンの壁の崩壊後に、世界平和が訪れるとする楽観的な予測を排して、次は異なる文明の境界線で衝突が起こることを予言しました。まさに現在がその状況です。この観点を十分に考慮せず、一部の国々のみで、「世界規模の研究所」構想を進めてもうまくいかないでしょう。
検討課題I)、II)に関しては、国際リニアコライダー(ILC)プロジェクトで行われている努力を無視すべきではありません。国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC)のワーキンググループ、世界ILC設計チーム(GDE: Global Design Effort)、リサーチディレクター(RD)の間で、ILCの組織・運営方式、サイト選定方式、建設手順について最終的な議論が進められています。ここで確立される各事項は、将来の世界的規模の共同研究に対する規範となるでしょう。