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最強のミュオンビーム生成へ 2008.2.14 |
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〜 超伝導ソレノイド電磁石を搬入 〜 |
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素粒子の一種、ミュオンを用いて、半導体や超伝導材料などの様々な物質の性質を調べたり、素粒子物理学の重要な定数を調べる研究についてはこれまでにもお伝えしてきました。 日本原子力研究開発機構と共同で茨城県東海村に建設中の大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、今年の実験開始に向けた作業が急ピッチで進められています。先月、ミュオンビームを発生させる心臓部分に用いられる超伝導ソレノイド電磁石と呼ばれる大型装置が、物質・生命科学実験施設の中のミュオン科学実験施設に据え付けられました。 オーロラのようにパイ中間子を整列 ミュオンビームを作り出すにはまず、加速器で加速した陽子を標的にあてて、標的の原子核を破砕します。この時に発生するいろいろな種類の粒子のうち、パイ(π)中間子を選び出し、パイ中間子がさらに崩壊する際に発生するミュオンを取り出します。 地球の北極と南極の周りで見られるオーロラの仕組みをご存知でしょうか。太陽から飛んでくる電気を帯びた粒子は、地球の磁場で発生する磁力線にらせん状に巻き付くように向きを変えて、北極と南極に集まってきます。この粒子が大気の上層で空気中の分子とぶつかって光を出す現象がオーロラです。 このオーロラと同じように、陽子が標的にぶつかってできた直後の思い思いの方向を向いたパイ中間子を、強力な磁石で発生させた磁力線の周りに集めて、向きをそろえてやります。パイ中間子は約5千万分の1秒でミュオンに崩壊するので、崩壊して出来たミュオンをうまく集めると強いミュオンビームを作ることが出来ます(図1)。 この時、効率よくパイ中間子をミュオンに変換するには、距離の長い強い磁場を作ることが必要になります。その役割を担うのが、今回つくばから搬入された超伝導ソレノイド電磁石です(図2、図3)。ソレノイドとは、導線を円筒状に均一に巻いたコイルのことで、この超伝導ソレノイドはコイルの全長が6mあり、5テスラという強い磁場を形成します。 四半世紀の活躍 KEKつくばキャンパスのミュオン科学研究施設では、陽子加速器のブースターシンクロトロンからの500MeVの陽子ビームをベリリウム標的にあててミュオンビームを作り出していました。超伝導ソレノイドは、この施設が1980年に世界で初めてのパルス状ミュオンを取り出して以来2006年3月末の停止まで、27年間に渡り稼働してきました。この間、2週間から3週間の連続運転を繰り返し、延べ7万時間の運転時間を経験してきたことになります。KEKの超伝導ソレノイドを模して作られた装置が、カナダのTRIUMF研究所やイギリスのRAL研究所で、現在も活躍し続けています。 この超伝導ソレノイドは、その安定した運転実績を買われ、J-PARCのミュオン科学実験施設でも更に活躍することになりました。27年間住み慣れた施設からの引越しでは、放射化チェックなどの診断を受けたあと、鉛を入れた容器に厳重に収納されてJ-PARCへと搬出されました(図4)。 超伝導ソレノイドを使用する際には、超伝導線を極低温に冷却する必要があります。ソレノイドの周囲に巻いた冷却管に8気圧4.6度の超臨界ヘリウムを流して冷却し、また電流を取り込む部分を液体ヘリウムで冷却します(図5)。これには、やはりつくばのミュオン科学研究施設で活躍していた冷却装置が改修されて使われることになりました。 2008年1月16日、つくば以来の「戦友」である冷却装置と組み合わされた超伝導ソレノイドは、J-PARCのミュオンビームラインの所定の位置に据え付けられ、現在、実験開始のその時を静かに待っています(図6)。
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