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last update:08/04/17  

   image ペンギン崩壊を調べる    2008.4.17
 
        〜 消えた反物質の謎の解明へ 〜
 
 
  KEKとペンギンにどういう関係があると思いますか? 今回ご紹介するのは、素粒子実験で「ペンギン崩壊」と研究者が呼んでいる反応過程で測定された、本来性質が同じはずの粒子と反粒子に働く物理法則が違っているという不思議な現象のお話です。

BファクトリーにおけるCPの破れの研究

KEKのBファクトリー加速器を用いたBelle実験では、B中間子とその反粒子である反B中間子を大量に生成して、「CP対称性の破れ」と呼ばれる粒子と反粒子に働く物理法則の違いを研究しています。この宇宙が誕生したときに同じ量だけ誕生したはずの粒子と反粒子が、現在は粒子しか見あたらない、という謎に迫る研究です。

Belle実験は、このCP対称性の破れを説明した素粒子物理学の「小林・益川理論の正しさを2001年に示しました。この時使われたのは、B中間子がJ/Ψ(プサイ)粒子とK0中間子に崩壊する過程のデータでした。しかし、これで実験が終わったわけではありません。それ以降も、膨大なデータを蓄積して、別の崩壊過程におけるCP対称性の破れを詳しく調べています。精密測定によって、これまでには知られていなかった新しい粒子や新しい物理法則の影響が見つかる可能性があるからです。そのひとつが、今回ご紹介するB中間子がK中間子とπ(パイ)中間子に壊れる、という過程です。

ペンギン崩壊

中間子は、クォークと反クォークが束縛された状態であり、6種類あるクォークの組み合わせによって色々な種類が知られています。B中間子の崩壊は、自然界に存在する4つの力の一つである、弱い相互作用によって、重いボトムクォークが軽いクォークに変化することによって起きます。K中間子とπ中間子への崩壊過程は、図1のようなクォークの変化によって起こります。このクォークの変化を示す線図(ダイアグラム)の形がペンギンに似ていることから、研究者はこの図を「ペンギンダイアグラム」、また、このような崩壊のことを「ペンギン崩壊」と呼んでいます。

ここで注目すべきことは、崩壊の途中で、Wボゾンやトップクォークが登場していることです。B中間子の質量は約5.3GeV、Wボゾンの質量は80GeV、トップクォークの質量は174GeVですから、これは一見エネルギーの保存則を破っているようです。ところが、量子力学では、不確定性関係によって、ほんの一瞬だけならこのエネルギー保存則の破れが許されます。つまり、崩壊の途中で質量の大きな粒子が生成されたであろうと考えられる痕跡が残るので、ペンギン崩壊を調べれば、質量の重い未知の粒子を探ることができます。これは量子力学の大きな特徴の一つです。

Belle実験の結果

最近、Belle実験は、この崩壊過程におけるCP対称性の破れを検出し、それが荷電B中間子と中性B中間子で異なることを見出しました。図2は実験のデータです。図からわかるとおり、反B中間子よりもB中間子の方がK中間子とπ中間子への崩壊の頻度が高いことがわかります。両者の事象数の差を和で割ったものをCP非対称度と呼び、この測定では約-10%と求まりました。さらに実験では、電荷をもつ荷電B中間子でも同様の比較を行いました。今度は、Bプラス中間子よりもBマイナス中間子の方がこの崩壊頻度が高く、CP非対称度は約+7%と求まりました。従って、荷電B中間子と中性B中間子の崩壊におけるCP非対称度は、符号も異なり明らかに違うことがわかりました。

未知の素粒子?

図1にあるように、このB中間子の崩壊で、ボトムクォーク(b)と対をなしているアップクォーク(u)やダウンクォーク(d)は、ボトムクォークに付き添うだけで、反応には関与していません。従って、中性B中間子と荷電B中間子でCP対称性の破れはほぼ同じになることが予想されます。では、観測された差異はどのように説明できるのでしょうか? ひとつの可能性として、図1に示すような、「電弱ペンギン崩壊」と呼ばれる荷電B中間子の崩壊にだけ寄与する過程の影響が考えられます。素粒子物理学の標準理論では、電弱ペンギン崩壊の中間状態でZボゾンが生成され、CPの破れには効かないのですが、未知の新粒子があるとこの崩壊ダイアグラムがCPの破れを引き起こし、荷電B中間子の崩壊が中性B中間子の崩壊と異なる可能性があります。ただ、このような新粒子の寄与を考えなくても、差ができる可能性も理論的に指摘されており、決着がついたとは言い難い状態です。この謎を解明してゆくには、今後同じような崩壊過程、例えば中性B中間子が中性K中間子と中性π中間子に崩壊する過程を調べるのが有効と考えられています。

ペンギン崩壊におけるCP対称性の破れの研究では、この他にも興味深い結果が得られています。B中間子がφ(ファイ)粒子やη(イータ)粒子と中性K中間子に壊れる過程もペンギン崩壊の一種ですが、これらのCP対称性の破れが標準理論の予想からずれているというものです。このように、ペンギン崩壊におけるCP対称性の破れの研究は新しい物理世界を探究するうえでとても興味深い過程ですが、この状況をはっきりさせるには、より多くのデータが必要となります。そのため研究者は、Bファクトリーを増強し、現在の数十倍の強度を有する加速器を使った実験計画を考案しています。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→Belleグループのwebページ(英語)
  http://belle.kek.jp/
→KEKBのwebページ(英語)
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/

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[図1]
B中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する過程の反応ダイアグラム。ボトムクォークが一瞬Wボゾンとトップクォークになり、ストレンジクォークになる。歴史的にこの崩壊はペンギン崩壊と呼ばれている。下は電弱ペンギン崩壊と呼ばれている崩壊で、この場合はZボゾンも関与する。
拡大図(20KB)
 
 
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[図2]
B中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する過程におけるCP対称性の破れを示すBelle実験のデータ。黒線は実験で観測された事象の分布で、赤線が信号の分布、青線は信号と背景事象の和である。赤線を比較すると、B0→Kπ崩壊の方が反B0→Kπ崩壊よりも多く、B→Kπ0崩壊の方がB→Kπ0崩壊よりも多いことがわかる。
拡大図上(43KB)
拡大図下(43KB)
 
 
 
 
 

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