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last update:15/06/08  

   image ここから始まる新しい世界!    2009.7.9
 
        〜 J-PARC完成記念式典 〜
 
 
  J-PARCはKEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で2001年から建設を進めてきた、世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成するための研究施設です。7月6日、政府要人や海外の著名な研究者、建設に携わった関係者などを招待してJ-PARCの完成記念式典が東京の九段会館で開催されました。

世界でも唯一の複合研究施設

J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)の日本語名は大強度陽子加速器施設(図1)です。その名の通り陽子の加速器を組み合わせた研究施設で、世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成する加速器と、その大強度陽子ビームを利用する実験施設などの最先端科学の研究施設から構成されています。

高いエネルギーまで加速された陽子を原子核標的に衝突させると、原子核反応により、中性子、K中間子、π中間子、ミュオン、ニュートリノ、反陽子などの多様な二次粒子が生成されます(図2)。J-PARCではこれらの二次粒子を利用して、原子核物理、素粒子物理、物質科学、生命科学、原子力工学の分野における最先端の研究が行われます。

物質・生命科学実験施設の中性子源では昨年5月に最初の中性子発生が確認され、基礎研究から産業応用までの超高精度の中性子利用実験が進められています。9月には同施設でミュオンビームの発生も開始され、今年3月には原子核・素粒子実験施設とニュートリノ実験施設の建設が終了しました。

石の上にも三年

J-PARCセンターの永宮正治センター長は(図3)は次のように語りました。

「J-PARCの原型ともいえる計画について考え始めたのは、考えてみれば今から24年前のことになります。その後、KEKでのJHF計画になったのが12年前。以来、大臣や省庁の皆様、国内外の研究者や関係者の方々、KEKとJAEAの執行部の方々、企業や茨城県、東海村の方々など、数多くの人から暖かい支援を受けてここまでやってくることができたのは大変ありがたく思います。特に、建設計画通りのスケジュールで施設が完成したことは奇跡的とも言えることで、建設に関わった皆様のご努力に深く感謝します。

『石の上にも3年』という言葉がありますが、KEKに来てからも、計画に4年半、建設開始から8年間、『できあがった頃にはこの計画で果たして世界に通用するのだろうか』と心配した時もありました。しかしながら、建設が始まった頃から世界の流れも変わり、欧米で新しい中性子源の計画がスタートしたりニュートリノの新しい実験計画が始まったりと、J-PARCがある意味で世界の研究の新しいトレンドを作った面もあり、ほっとしています。

これからは、原子核、素粒子、物質構造や生命機能の解明で世界最先端の研究を進めていくのはもちろんですが、海外の研究者にも利用しやすい国際共同利用の実験施設としての整備を重点的に進めることと、産業界との応用研究を進めて、産学公連携のしっかりとした基礎を築くことが重要と考えています」

沢山のエールとともに、新しい科学の海原へ

記念式典の会場には、塩谷立文部科学大臣をはじめ、政府・茨城県や研究界の要人が駆けつけてくださり、みなさまから様々なご祝辞をいただきました。

そして、小林誠KEK特別栄誉教授(図4)が「J-PARCへの期待」と題した講演を行った後、世界の様々な研究所からもエールが送られました。ここにその一部をご紹介します。

米国・オークリッジ国立研究所 Thom Mason所長

今後J-PARCは多くの秀でた科学を創出する施設となることでしょう。J-PARCはオークリッジの核破砕中性子源(SNS)とともに、大強度陽子加速器施設として、科学技術の最先端を切り開いていくことになるでしょう。J-PARC建設とSNS建設の共通の課題となったといえる加速器のビームロスの低減化、史上初の1メガワット級の水銀ターゲット技術、革新的な研究成果を出すための実験装置の開発技術などについて、オークリッジ国立研究所は日本の関係者と協力を進めてきました。今後も新たな問題に向かって、協力体制を強化していきたいと考えます。中性子は、科学における発見をもたらす最も基盤となる道具です。J-PARCとSNSという世界をリードする二つの施設がそろって世界の中性子散乱の供給源となり、顕著な発展をもたらすことを願ってやみません。

カナダ・TRIUMF研究所元所長 Erich Vogt博士

(J-PARCには)素晴らしい科学の進展と、多大な経済活動への効果も期待しています。10年以上前にカナダで計画していたK中間子研究施設がありました。この計画は実現には至りませんでしたが、世界をリードする中性子源によって実現利用という形に変わり、J-PARC計画につながったといえます。T2K実験の50以上のチームを含む多くのカナダの物理学者がJ-PARCとその成果に期待しています。J-PARCの素晴らしさの一つはその多様性でしょう。すでにノーベル賞を輩出しているニュートリノやK中間子に限らず、破砕中性子、反陽子、ミュオンやπ中間子などはきっと、カミオカンデが超新星爆発によるニュートリノを初めて観測できたように、我々が予想もしていなかった科学の発見と驚きをもたらしてくれると思います。

米国エネルギー省 Steve Koonin次官(ビデオメッセージ)

小林・益川のノーベル賞受賞に代表されるように、日本は素粒子原子核の基本的理解に長く大きな貢献をしてきたと思います。この施設の完成は日本の科学力の強さとバイタリティーを表したものといえます。今後のJ-PARCの成果に、世界の科学コミュニティとともに期待していますし、J-PARCに協力できることを誇りに思います。特にニュートリノ施設の建設および今後の稼働・研究に協力できることは喜ばしく、また現在米国で建設中のNOvA実験も同じニュートリノ振動実験であるということで嬉しく思っています。双方が補い合うことで、はるかに精密な実験結果を生みだし、世界的な貢献を果たすことができることでしょう。この素晴らしい研究施設で、自然節理の解明と、人類共通のエネルギー問題双方に関して連携した取り組みを行えることを期待しています。

オーストラリア国立大学 John White教授

日本政府が長期的視野を持ってJ-PARC建設に挑んだことはすばらしい。KEKとJAEAの異なる長所をうまく連携させようという英断がこの長期計画の礎となったのでしょう。加速陽子のエネルギーの増強によって新たな科学技術がもたらされることと期待しています。

韓国基礎科学技術研究評議会 Dong-Pil Min議長

日本政府の科学発展への貢献に対し、私だけでなく、世界の科学者コミュニティ、特にアジアの科学者コミュニティが感謝することでしょう。科学は常に、人類のより良い未来への新しく創造的な道のりの最前線に立つものです。J-PARCは、その新しい発見によって、アジアをこの分野の世界的研究の中心に導くことでしょう。

欧州原子核研究機構(CERN) Rolf Heuer所長(ビデオメッセージ)

ここ数カ月、J-PARCが立ちあがっていく様子を拝見することは素晴らしい経験でした。J-PARCは研究機関と政府のコラボレーションとしての優れた例であるだけでなく、KEKとJAEAの強い結束や学術的協力の賜物と言えましょう。前向きでインスピレーションを与えてくれる施設のモデルになることと思います。先日CERNで物理学の将来を展望するワークショップを開催しましたが、陽子シンクロトロンがもたらす研究成果はどんな研究よりも重要であるとヨーロッパでは認識されています。だからこそJ-PARCの活動もとても期待をされているのです。J-PARCから世界水準の科学研究成果が発信され続けることを期待しています。

ロシア・ミュオン触媒核融合研究調整センター(MUCATEX)
Leonid Ponomarev博士

このような素晴らしい科学研究施設を築きあげるには、何十年もの歳月が必要です。完成にあたって関係者のみなさまに心からお祝い申し上げます。私自身にとっては、ミュオン物理と核廃棄物変換の二つが身近な分野です。ミュオンスピン回転、ミュオン触媒核融合、低エネルギーミュオンによる表面物性の研究など、J-PARCは将来の世界の主たる問題であるエネルギー問題に対しても貢献すると信じています。また、J-PARCは、高エネルギー物理学、物質科学、エンジニア、技術者、医学までも内包するユニークな研究センターであり、これは日本の誇りといって良いでしょう。

東京大学 小柴昌俊特別栄誉教授

数年前、このJ-PARCのニュートリノの部分が(計画から)切り落とされる、という話が出て大変悲しかったんだけれども、復活して大変うれしいです。私のような実験屋はね、始まった実験への期待とは別に、その次に何をやれるか、ということをすぐ考えちゃうんですよ。ニュートリノの世界でも、CP対称性の破れというものはあるのか、ということを測定しようとすると、もっと強力なニュートリノビームが必要になります。J-PARCのビームをさらに強力にして、さらに絞って、神岡を通り越して、韓国にスーパーカミオカンデ以上の大きな施設を作って、ニュートリノの世界でのCP対称性の破れを見るということをやったらどうかなと思うんです。私はもう年ですから見られないでしょうけれども、お若いかたがたはどうか頑張って、この国の基礎科学を推し進めて下さい。

東海村から世界へ

この完成式典の様子は「CERN Bulletin」や「Fermilab Today」などの海外の研究所のニュースでも取り上げられました。日本が基礎科学から産業応用までをカバーする大規模な加速器施設を建設したことは世界からも大きな注目と期待を持って迎えられています。国内外の期待に応えるために職員や研究者は日夜、研究を続けています。今後の研究の成果にご期待ください。



 
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[図1]
J-PARCの全景図
拡大図(183KB)
 
 
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[図2]
大強度陽子ビームによる多様な粒子ビームの生成を表した図。
拡大図(34KB)
 
 
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[図3]
ここまでの道のりを振り返るとともにこれからの目標を語る永宮正治J-PARCセンター長。
拡大図(80KB)
 
 
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[図4]
小林誠KEK特別栄誉教授は「J-PARCへの期待」として講演を行った。
拡大図(49KB)
 
 
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[図5]
来賓からのメッセージが終わると、海外からの招待者が一斉に段上に上がり、喜びあった。
拡大図(41KB)
 
 
※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→J-PARCのwebページ
  http://j-parc.jp/
→CERN Bulletin のwebページ(英語)
  http://cdsweb.cern.ch/journal/
    &article?issue=28/2009&
    &name=CERNBulletin&category=
    News%20Articles&number=3&ln=en

→Fermilab Todayのwebページ(英語)
  http://www.fnal.gov/pub/today/
    archive_2009/today09-07-07.html


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