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加速器研究施設トピックス 2010/12/09

〜日本製9セル超伝導空洞、初めてILC要求仕様を満たす記録を達成 〜


2機の日本製9セル超伝導空洞、連続してILCの要求を達成

11月25日(木)に、KEKの超伝導RF試験施設(STF)で行われた、国際リニアコライダー(ILC)用の超伝導加速空洞の縦測定試験で、ILCで要求されている要求仕様を満たす記録を国内初めて達成しました。今回試験を行った加速空洞は三菱重工業株式会社が製造した9セル加速空洞の13号機で「MHI-013」と呼ばれるものです。その結果、この空洞は、ILCで要求されているスペックである加速電界31.5MV/m、Q値>1×1010および加速電界 35MV/m、Q値>0.8×1010を国内で初めてクリアしたことが確認されました。最大の加速電界は36.2MV/mを記録しました<図1>。ILC実現最重要課題のひとつである、高性能な空洞の量産に向けて弾みがつきました。

 
fig1
<図1> MHI-012、MHI-013の1回目の縦測定の結果

fig2
<図2> MHI-012の第2回測定結果。最高加速電界は40.7MV/m.

カギとなる2つのパラメータ:加速電界とQ値

空洞の性能を定める2つの重要なパラメータが、加速電界とQ値(Qo)です。加速電界とは、一定の長さで得ることができる加速エネルギーのことです。高い加速電界を実現することは、加速器の性能向上や省エネルギー・省スペース化を図るうえで大変重要です。高加速電界を実現すると加速器の長さが短くなるため、コスト削減にもつながります。Q値とは、一定の電界強度を実現するために必要電力量を示す指標です。超伝導空洞は、少ない投入電力でより高い電界強度を発生させることが特徴であり、Qoの値が大きいほど性能が良いと考えられます。加速電界とQ値、この両方を満たす加速空洞を量産することは、ILC実現に向けた最重要課題の一つとなっています。

今回試験を行ったMHI-013は「小型高輝度光子ビーム発生装置開発プロジェクト」に用いるべく新たに製作した空洞です。今年の10月半ばから縦測定のための準備を開始して、同じく光子ビームプロジェクト用に制作したMHI-012とともに、1回目の空洞の表面処理と縦測定を行いました。

加速空洞は、超伝導体であるニオブ材でつくられています。空洞の内表面に不純物や欠陥があると、電気抵抗を悪化させたり、フィールドエミッション(電界放出)と呼ばれる加速の効率を落す現象を起こしたりする原因となります。そこで、空洞の性能を引き出すため、空洞の内面の処理を行います。金属の表面を溶解させる電界研磨や、欠陥部分をやすりで削る物理研磨、超純水を使った高圧洗浄など、様々な方法で不純物や欠陥等を取り除いています。MHI-013の表面処理は、STF内に建設された電解研磨(EP)設備で行われました。計算上では、空洞内が非常にきれいで、電気抵抗を悪化させる要因や、フィールドエミッションの原因がない状態だと、加速電界31.5MV/mを発生させるのに、約100Wの電力を要します。この場合のQoは「1×1010」と表されます。今回の試験では、この数値を超える結果が出た、というわけです。


空洞性能を抑制する原因を探る

MHI-012、MHI-013の両空洞は、受け入れ・各表面処理後に高分解能カメラを用いて、空洞内面の光学検査も行っています。この光学検査は低い加速電界(~25MV/m程度)で空洞性能が制限される空洞に対して、その原因を調査するために、2008年初旬から本格的に行い始めたものです。これまでに多くの欧米および日本で製造されたILC用空洞(1300MHz、9セル)の光学検査を行い、高電界の発生を阻害するような幾何学的欠陥のサイズの評価を行ってきました。その結果を元に検査を行っています。大きな欠陥がある空洞に対しては、欠陥部分の補修を行うこともあります。最終の電界研磨の前には、空洞内部に高電界の発生を阻害するような幾何学的欠陥が無い空洞であることを確認しています。光学検査の結果から判断すると、最近製作された空洞の品質は非常に高くなっています。

KEKでは、高分解能カメラによる空洞内面の光学検査に加え、温度マッピングによる欠陥箇所の特定、表面処理の品質を評価するためのX線マッピングによるフィールドエミッションの原因の位置特定、などを縦測定ごとに行っています。

第一回の測定では、MHI-012、MHI-013ともに35MV/mを超える結果を出しました。加速電界だけを見ると、両空洞ともILCの要求を満たしているように見えます<図1>。しかし、MHI-012のほうは、最大加速電界は38.2MV/mという好成績だったものの、フィールドエミッションが原因でQoが落ちてしまい、要求を完全には満たしませんでした。これは、この空洞は、加速電界を発生させることはできるものの、モジュールの運転およびビーム加速には適さないということです。日本の場合、メーカーが製作した加速空洞がKEKに納品され、KEKではその空洞の性能を完全に引き出すための作業を行っています。測定結果が思わしくない場合は、メーカー側の空洞製作に問題があるのか、KEK側で行っている表面処理・洗浄・組み立て(作業環境も含めたもの)に問題があるのかを判断しなくてはいけません。MHI-012の場合は、STFで行っている最終表面処理・洗浄・組み立てといった工程に何らかの問題があったために、性能を満たすことができなかったと考えています。

MHI-013は、MHI-012で行った処理方法に加え、これまで行ってきた処理方法を考慮して、状況に応じてパラメータを若干変えて表面処理を行いました。その結果、清浄な空洞内面を作ることができ、フィールドエミッションによる損失が抑制されたため、ILCスペックを満たすことができたと考えています。性能向上のカギとなるのは、表面処理のパラメータ・作業環境および作業手順をインフラ・設備に合わせて、変えて行くことだと考えています。


2回目の測定でMHI-012も要求をクリア 40MV/m超

12月8日(水)に、MHI-012の二回目の表面処理・縦測定を実施し、日本製9セル空洞で初めて40MV/mの加速電界を超える性能を達成しました<図2>。フィールドエミッションもMHI-013と同レベルで抑制されたため、Qoの観点からも続けてILCの要求を達成することができました。MHI-012は、すでに述べているように1回目の測定では、最大加速電界で38MV/m出ています。ただし、フィールドエミッションによる問題で、Qoのみが達成できていなかった状態でした。空洞内面をより清浄な状態にし、フィールドエミッションを抑制できれば、ILCスペックを十分に満たすことのできる空洞であることは間違いないと考え、2回目の表面処理は、フィールドエミッションを抑えることのできたMHI-013の処理・作業の手順および品質管理方法をベースにしました。

最終状態では 40.7 MV/m まで電界が立つことを確認しました。この状態でも空洞は超伝導破壊(クエンチ)を起こさなかったので、さらに投入電力を増やせば電界強度は上がるはずでした。しかしこの空洞は、縦測定終了後に高輝度光子ビームプロジェクトのためビームラインへの組み込みが予定されていたため、ここで無理をして空洞を壊すと問題がある、ということで、40.7MV/mの時点で測定を終了しています。

空洞グループの仕事は、縦測定で空洞の性能を出すだけでなく、空洞をクライオモジュールにインストールし、ビーム加速を行うまでが範囲となります。縦測定後の工程でミスをして空洞内に汚染物が入ると、それまでの仕事が全部台無しになってしまいます。そのため、クライオモジュールへ組み込む予定の空洞に対して、縦測定後の品質管理も非常に重要な項目になります。

今回の結果の裏には、KEK側の品質評価に対するシステムが以前にくらべて飛躍的に向上したことと、多くの知見が蓄積されたこと、またそれをメーカー側へしっかり伝えることで、空洞製作のレベルも向上したことがあります。いずれにせよ、この結果がチャンピオンデータとならないように品質維持に向けてよりいっそう努力していかなければなりません。

※「小型高輝度光子ビーム発生装置開発プロジェクト」とは、文部科学省が公募した、平成20年度「光・量子科学研究拠点に向けた基盤技術開発」の「量子ビーム基盤技術開発プログラム」として採択された研究開発プロジェクト。これまで培われて来たILC用の超伝導空洞の技術をX線発生装置に活用し、従来よりも輝度が高い装置を開発する。施設の大幅な小型化を測ることができるため、今までの大型の加速器施設でのみ行うことのできた研究を、各研究所や企業、病院などで行うことが可能になる。

fig3
<図3>測定風景 2010年11月25日 山本(明)氏 撮影

〜 記事提供 : 加速器第六研究系 渡邉 謙 氏 〜

関連記事 : topics日本製9セル超伝導空洞、初めてILC要求仕様を満たす記録を達成 (2010.11.29 掲載)

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