ATF (Accelerator Test Facility、図1) では、リニアコライダーの最終収束技術の実証実験として、ダンピングリングから取り出される低エミッタンスの電子ビームをILC(国際リニアコライダー)と同じ方式を用いて収束させる技術研究開発(ATF2 Project)を行っています。
このたび、ATF2ビームライン(写真1)の収束点において垂直方向のビームサイズが70nm程度まで絞られていることを確認しましたので概要を報告します。
昨年秋からは合計7週間の運転を行いました。特に12月12日からの2週間についてはATF2ビーム収束実験のみに専念した連続運転を行い、12月21日、収束点においてビームの垂直方向の大きさが極めて小さいことを確認しました。ビームサイズは、通称「新竹モニター」(新竹積氏が90年代に考案、SLAC-FFTB実験にて実証。写真2はATF2用の実機。)と呼ばれる装置で2本に分けたレーザービームを交差させてできる干渉縞と電子ビームのコンプトン散乱を利用して測定します(図2)。
今回の実験では交差角174度で明らかな信号(modulation)が観測されました(図3)。これはビームサイズ約70nm に相当するものです(図4)。系統誤差などの詳細な評価はこれからになりますが、これらはビームサイズを大きく評価してしまう側に働くため、100nmよりも小さいビームが生成され、それが測定されたことは確実と考えられます。
< 図3〜4 > 交差角174度でのmodulation観測の例。横軸は干渉縞の位置(radian)、縦軸はガンマ線信号の大きさ。下図は各イベント毎の信号で、laser ONとOFF(下側)での信号に対応。 |
この状態を約7時間にわたって維持することもできており、システム全体の安定性を示しています。また、小さな交差角からビーム調整を始め、ビームが小さくなるに従って段階的に交差角を大きくしていく、という方法が有効であることも示されました。
今回の測定では、ビームサイズモニターとしての性能、安定性を確認することができたことにも意義があります。
今回の実験において、交差角174度での明らかな干渉縞は低いバンチ電荷(バンチ当たりの電子数1〜2e9個程度)でのみ測定できており、バンチ当たりの粒子数を増やすとビームサイズが急速に増大することが分かりました。これまでの調査の結果からは、おそらくベータ関数の大きな場所での wakefield が原因であると考えられます。ビームサイズがバンチ電荷に強く依存することは問題であり、さらに原因を詳しく理解し、これを低減する対策をとる必要があります。また、これらの評価を踏まえてILCの設計にフィードバックすることはATFに期待されている重要な貢献の一つでもあります。
ATF2の目標とするビームサイズは、40 ナノメーター 以下であり、これを達成するためにはまだ多くの課題が残っています。今回の結果はそれに至る第一段階としての大きな意義があります。
ATF2は計画の段階から国際的な共同実験として進められてきています。12月の実験でも海外から合計17名の研究者が積極的に参加して実験の進展に貢献されました。今回の70nmビームサイズ達成は国際協力の成果を示すものでもあります。
補足:レーザー干渉縞を利用したビームサイズ測定
ビームサイズの測定原理を示す。2つに分けたレーザービームを再び交差させてできる干渉縞に電子ビームを通す。コンプトン散乱のγ線量は電子ビームが干渉縞のどこと衝突するかで差が生じるため、干渉縞を移動させると図5の様にγ線信号の強弱として記録される。干渉縞のピッチに比べてビームサイズが小さくなる程、この差が大きくなる。 干渉縞の位置を変化させたときのガンマ線の量の最大と最少を各々「peak」「botom」とすると、「modulation」は、(peak - bottom)÷(peak+bottom) のように定義される。
ビームサイズ(横軸)と「modulation」の関係を、異なる交差角について図6示す。干渉縞のピッチはレーザービームの交差角に依存し、交差角が小さい場合はピッチが大きく、交差角180度では光の波長の半分になる。ビームサイズが大きい段階では小交差角を用いてビームの調整を進め、ビームが小さくなるに従って交差角を大きくしていく。ATF2 の新竹モニターでは、交差角が(1) 2度から8度まで連続的に可変、(2) 30度、(3) 174度、の3つの測定モードがある。
〜 記事提供 : 加速器第六研究系 照沼 信浩氏〜