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加速器研究施設トピックス 2013/11/25

Joint US-CERN-Japan-Russia Accelerator School 2013 報告

 

1.はじめに

Joint US-CERN-Japan-Russia Accelerator School 2013(http://www-conf.kek.jp/accschool/)は、“Introduction to Particle Accelerators”をテーマに、平成25年10月23日より31日までの9日間にわたって、静岡県裾野市にある帝人株式会社・富士教育研修所(写真1)で開催されました。世界遺産に登録された富士山を間近に見ながら勉学に励めるように、100名程度を収容できる講堂と宿泊施設を兼ね備えたこの施設を選びました。このスクールは、米国、CERN、日本およびロシアの各加速器スクールが合同で開催するもので、参加者と講師、スクールのスタッフが文字通り寝食を共にし(写真2)、加速器に関する知識を習得するのみに限らず、加速器の分野における世界的な交流を広めることを目的としています。今回のスクールは、2011年のイタリア・シチリア島で開催された加速器スクールに続くもので、高エネルギー加速器研究機構、総合研究大学院大学ならびに高エネルギー加速器科学研究奨励会から援助をいただきました。校長はKEK名誉教授の細山謙二氏です。
 

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写真1 富士教育研修所全景
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写真2 研修所での朝食

今回のスクールには、大学・企業・研究所から約80名の受講者が出席し、講師陣21名による充実した講義を受けました(写真3)。受講者の国籍とその人数を表1にまとめました。中国、ロシア、日本からの受講者が多く、3か国で全体の50%を占めています。また今回はアジア各国から多数の参加者がありました。インドネシアやバングラディシュなど、加速器研究がまだ活発ではない国々からの参加者も、かなりの数にのぼりました。筆者がそのような国々の参加者と話した限りでは、大学に加速器分野の研究室が無く、高エネルギー物理や原子核物理を専攻しているそうです。しかしこのスクールで加速器に興味を抱き、講師の方々やKEKの生出施設長に、日本で加速器研究に従事するにはどうすればよいか尋ねる参加者もおりました。加速器分野では若手育成が急務ですが、スクールがそれに貢献できたことを非常に喜ばしく思います。またこのような参加者が現れたことが、今回のスクール運営で一番嬉しい出来事でした。

表2にスクールの時間割を示します。当初10月28日および29日の最終コマを自習時間に割り当てていましたが、参加者から自分の研究について発表したいとの要望があり、急遽Student Sessionに割り当てることになりました。参加者の研究内容や所属会社の業務内容の紹介など、和気あいあいとした雰囲気の中で、自由な発表と議論の場となりました。
 

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写真3 授業風景
表1 受講者の国籍
国籍人数割合(%)
中国1418.2
ロシア1316.9
日本1215.6
アメリカ79.1
ドイツ56.5
インドネシア45.2
台湾45.2
カナダ33.9
インド33.9
マレーシア22.6
スロベニア22.6
バングラディシュ11.3
エジプト11.3
フランス11.3
イタリア11.3
ポーランド11.3
タイ11.3
イギリス11.3
ベトナム11.3
 

 

2.講義の概要

表2に示した時間割のとおり、講義は遠足を挟んで5日間ありました。1時間30分の講義が9時から18時まで1日5コマあり、文字通り缶詰となって加速器について学びました。講義は基本的な内容からひとつひとつ順を踏んでいたので、加速器を専攻していない参加者でも、講義についていけなくなることは無かったのではないかと思います。筆者も専門分野以外の理解にとても役立ちました。また第一線で活躍されている講師陣が、各々豊富な研究経験をもとに特色ある講義をされたため、参加者は非常に興味深く受講したのではないかと思います。講義終了後、講師に熱心に質問する姿が見られました。また、講義資料を自分のパソコンにダウンロードし、自習室で夜遅くまで復習している参加者がいました。

講義はビーム運動学、線形や円形加速器、電磁石や超伝導空洞、冷凍機システム等加速器の理解に不可欠な要素に加え、現在進行中のILCやがん治療加速器プロジェクト等、多岐に及んでいます。すべての講義についてここで報告するのは紙面上困難ですので、ここではそのうち2つの講義について、その内容を簡潔に報告します。講義資料はどなたでもウェブサイトからダウンロードできるので、興味のある方は是非ご覧になって下さい。

Jefferson研究所のRobert Rimmer氏による超伝導RF空洞の講義では、まず初めに全く異なる歴史を歩んでいたRF加速と超伝導現象が結びついた歴史的経緯について話されました。次にRF空洞の原理、空洞を特徴付けるパラメータと超伝導現象について説明された後、いよいよ超伝導空洞についての話に移られました。まず常伝導空洞と比較して高周波損失が小さく、少ない高周波電力で高い電磁場強度が得られる優位性について例を示しながら定量的に評価した後、RF空洞の製作方法について説明されました。特に高い電磁場強度を達成するため、どのように空洞表面を鏡面に仕上げているかを丁寧に説明されました。最後に超伝導空洞は依然として挑戦的な分野であり、今後も継続的に研究を進めなければならない。我々に必要なのは新しい世代の力であり、それは君たちだと締めくくられました。

KEKの松本浩氏による医療用加速器の講義では、ご自身も開発に携わっているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)をメインに説明されました。BNCT以前の加速器治療では、放射線や荷電粒子線を照射することで、がん細胞を死滅させることを目的としていました。しかし、がん細胞周囲にある正常細胞にもダメージを与えることが欠点として挙げられます。BNCTでは、中性子とホウ素の反応(n+10B→7Li+α)によって発生するα粒子により、がん細胞にダメージを与えます。そのため、あらかじめ中性子照射前にホウ素(10B)を含む薬品を投薬して、がん細胞にホウ素を集積させるため、がん細胞を選択的に死滅させることができます。講義の前半では、この治療法を詳しく説明されました。その後、J-PARCサイトの隣接地で開発中の中性子線発生用の線形加速器の現状、今後のスケジュールについても紹介されました。
 

3.遠足

10月27日の日曜日は、富士山周辺への遠足を行いました。遠足前日までは曇りや雨のすっきりしない天気が続いていましたが、遠足当日は快晴となり、スクール参加者および関係者の日頃の行いの良さを実感しました。スクール開校以来、初めて富士山がその姿を我々の目前に現しました(写真4)。バス2台に分乗し、最初は静岡市東海道広重美術館へ向かいました。出発時間が迫る頃に参加者が美術館の版画刷り体験にはまってしまい、出発がかなり遅れてしまいました。その後、三保の松原へ向かい富士山をバックに集合写真を撮りました。ここでも参加者のお土産の購入で出発時間がさらに遅れました。日本平での昼食後、ロープウェイで久能山東照宮へ(写真5)。当日の晴天が逆に災いして、ロープウェイは利用者の長蛇の列。この時点で予定より大幅に遅れていたスケジュールがさらに遅れることになりました。当初は箱根の大湧谷まで足を伸ばし、富士山の勇姿や火山活動を見る予定でしたが、秋の日は釣瓶落とし、夕暮れも迫り、大湧谷に着く頃には暗くなってしまうことから、大湧谷はキャンセルし、そのまま晩餐会会場である、御殿場高原時之栖(ときのすみか)の御殿場高原ビールレストラン・グランテーブルへ向かいました(写真6)。
 

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写真4 秋の富士山
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写真5 久能山東照宮
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写真6 晩餐会

 

4.施設見学

スクールの後半は、加速器施設の見学を行いました。10月30日に富士教育研修所からKEKへ移動する途中で、埼玉県和光市にある理化学研究所仁科加速器研究センターのRIBF (Radio Isotope Beam Factory) を見学しました。途中の高速道路のサービスエリアで弁当を積み込み、車内で昼食。仁科加速器研究センターの近くの公園でトイレ休憩および時間調整をしました。仁科加速器研究センターでは、最初に施設紹介のビデオを見せていただき、その後、1班20人の4班に分かれてRIBFの見学をしました。

翌10月31日のスクール最終日には、午前中にKEKの線形加速器、KEKB(ARES空洞およびBelle検出器)、STFおよびcERLの見学を行いました。KEKでも、やはり1班20人の4班構成で5か所を見学しました。バスが3台しか手配できなかったため、見学者の移動とバスの配置が複雑になりましたが、多少の時間のずれももろともせず、無事昼食時間までに見学を終了することが出来ました。参加者の多くは、大型の施設を見るのが初めてだったようで、見学が印象深かったとの感想が寄せられています。

昼食後にKEKから帰国する参加者をバスで送り出し、スクールは無事終了となりました(写真7)。
 

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写真7 最後の集合写真

 

5.おわりに

お忙しい中、今回のスクールで講義をしていただいた講師の皆様には,改めて御礼申し上げます。また、お忙しい中、参加者の見学を快く引き受けていただいた理化学研究所仁科加速器研究センターならびに高エネルギー加速器研究機構の皆様にも感謝いたします。

スクールの会場となった富士教育研修所の皆様には大変お世話になりました。多くの外国人を受け入れるのが今回初めてということでしたが、参加者のこまごまとした要求にも対応していただき、特に、食堂関係者の皆様には、参加者の宗教上および健康上の理由による食事制限に大変よく対応していただきました。

今回初の試みとして、参加者、講師、スタッフ全員の顔写真および各人のコメントを会場に掲示し、より親密な交流ができるようにしました(写真8)。顔と名前が一致しやすく、概ね好評でしたが、人によっては顔写真の掲示を嫌がる人もいて、難しいところではあります。また、日本人のお土産好きはつとに有名ですが、今回の参加者は遠足の最中や移動の途中に立ち寄るサービスエリアで買い物をする人が多く、驚かされました。もっとも、これが原因で出発時間がいつも予定時刻より遅れることになりましたが。

最後に、参加者の間では、スクールが終わった現在でもネットを通して交流が続いています。
 

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写真8 参加者メッセージボード

 

表2 スクールのプログラム
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この記事は日本加速器学会誌に掲載予定です。

〜 記事提供 : 加速器第三研究系 仲井 浩孝氏、加速器第二研究系 丸田 朋史氏〜

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