SAMPLE LOGO

負ミュオン科学(μ)

◙ 最先端負ミュオンビーム開発

▞ 幅広い分野での負ミュオン研究の展開

装置構成の概念図

負ミュオンは、電子と同じ電荷を持ち、電子のおよそ200倍の質量を持つ素粒子です。多くの点で電子と似た性質を持っているため、物質に入射すると物質中の原子核に捕獲され、電子の代わりに負ミュオンが原子核の周りを回るミュオン原子を形成します。このようにしてミュオン原子が形成される際には、ミュオン特性X線が100%の確率で放出され、しかもそのエネルギーは電子の特性X線に比べ200倍も高く、検出も容易です。
一方、その特性に着目して、これまでにも様々な応用研究への可能性が提唱されてきたものの、強度の問題もあって、主流は正ミュオンを利用したµSR法による物性研究で、負ミュオンは限られた応用範囲においてのみ有効に用いられる程度でした。その利用を可能にしたのが、J-PARCのミュオン実験施設(MUSE)の世界最高強度のミュオンビームであり、今後幅広い分野での負ミュオンの活用が模索されています。

 ・ 負ミュオンによる原子分子研究
 ・ 負ミュオン触媒学融合研究
 ・ 負ミュオン3Dイメージング
 ・ 負ミュオン高度化-超低速負ミュオン

こうして可能性を高めたJ-PARCの負ミュオンビームは、世界に誇る大強度ではありますが、収束には難があります。 そのため、ミュオン触媒核融合反応をビームの冷却手段として利用し、ナノスケール径まで収束可能な超低速負ミュオンビームへと、さらにエネルギー分散の補正装置の開発により、エネルギーと運動量が揃った「高い時間コヒーレンス」を備える負ミュオンビームへの開発をも進めています。
負ミュオンのビームラインの高度化、運動量の強収束化を図ることで、世界で初めての超低速負ミュオンビームと走査負ミュオン顕微鏡の実現を目指しています。

なお、この分野にかかる研究で MEXT科研費 JP18H05464(新学術領域研究:C02 最先端負ミュオンビーム開発)の助成も受けています。

関連リンク

 

◙ 負ミュオンによる歴史資料の非破壊分析

▞ 考古学、文理融合研究基盤

電子ビームX線分析とミュオンビームX線分析

物質に電子を照射すると、含まれる元素の種類や状態によって異なる特性X線という光を放つため、検出された特性X線を解析することで物質の組成を知ることができます。 この電子線照射による元素分析や組成分析は、分析手法として既に確立されているものですが、重い電子のように振る舞う負ミュオンでも、ミュオン原子の形成により同じような現象を観測することができます。
電子線の特性X線では試料の表層のみしか分析できませんが、透過力が高く試料の深部まで到達できるミュオンでは物質内部の分析も可能です。試料に注入するミュオンのエネルギーを制御できるため、狙った位置に打ち込み、その位置での磁気状態や電子状態、水素原子の役割や原子・分子の動きが観測できます。

透過性が高く、エネルギーの高いミュオンは速度も速く物質の奥まで到達し、低エネルギーで速度の遅いミュオンは物質の表面で止まる。この性質は非破壊分析の優れた手法として活用できるため、エネルギー強度を変えることで、表層から内部まで傷つけずに連続的に分析することが可能となります。

非破壊検査に供せられた天保小判。

J-PARC、その前身である高エネルギー加速器研究機構の陽子加速器では、古くからこの手法の開発に取り組んできましたが、世界最高強度の負ミュオンビームを得たことで、従来の手法では困難であった、炭素、窒素、酸素のような軽元素の3次元非破壊分析など、さらに幅広い研究も展開されるようになりました。
・考古学における小判や青銅鏡などの非破壊分析、元素分析法の確立
・惑星科学における隕石試料などの貴重なサンプルの元素組成分析

こうした研究は、人類が手にする「物質を透視する新しい眼」となりうるもので、ミュオンを用いた非破壊分析は幅広い分野での可能性が秘められています。

負ミュオン(200倍重い電子)捕獲原子から高エネルギー特性X線

なお、この分野にかかる研究で 機構間連携・異分野連携研究プロジェクト事業 JP23108001(負ミュオンによる歴史資料の非破壊内部元素組成分析)の助成も受けています。

関連リンク

 

◙ ミュオンラジオグラフィの研究開発

▞ 非破壊分析の新手法の確立

大強度陽子加速器施設J-PARCの物質・生命科学実験施設MLFでは、そこで生み出される新しい先端的ビームを相補的に用いて、ナノスケールの世界で起きている現象に光をあてるべく研究を進めています。

摩擦や潤滑といった、物と物が触れ合う場所で起きている現象を研究する新しい学問分野を、トライボロジーと言います。
摩擦や潤滑、摩耗といった現象について、そのマクロな現象の観察、摩擦の大きさをや摩耗の程度を測るのは容易ですが、実際の現象が起きている場所を見ること、そのメカニズムの解明は困難でした。
そこで、物と物が接する場所を”見る”ためのツールとして、着目した特殊ビームの一つがミュオンです。 また、透過力が高く、対象を壊すこと無くその内部を透過して観察することができるという、同じような特徴を持つビームとして中性子も上げられます。ミュオンは原子や分子の振る舞いなどの原子スケールの現象を、中性子は分子鎖の構造や振る舞い、分子鎖どうしの相互作用などメゾスケール(ナノメートルからマイクロメートルの間)の現象を捉えることができるのです。
こうして、ミュオンと中性子では見えるもののスケールが違うということは、摩擦という現象を様々なスケールから、多角的にとらえることができるということであり、今後は連携することの重要性も高くなります。 ミュオンや中性子を使ったトライボロジーは、これまでほとんど試みられてこなかった全く新しい手法であり、これまで見ることができなかった世界を拓いてくれる可能性があります。

 ・ 高分子化学
 ・ 界面化学
 ・ 材料開発
 ・ 装置開発

その世界で起きている現象への理解は、様々な技術への応用、さらには、新しい物理現象の発見へとつながります。
科学と技術の両面で新しい扉を開く可能性を秘めた研究を、今後も連携を進めながら幅広く展開していきます。
非破壊検査の手法は、今後も前進を続けます。

Li金属の3Dイメージング

なお、この分野にかかる研究で 光・量子融合連携研究開発プログラム(中性子とミュオンの連携による「摩擦」と「潤滑」の本質的理解)の助成も受けています。

関連リンク

関連記事