2012年度 >>2011年度
アンモニアは世界で年間約1.7億トン生産されており,その約8割は肥料 用として消費されている.このようにアンモニア合成は,人類の生活を支える食 糧生産にとって必須の化学反応である.我々は,12CaO•7Al2O3エレクトライド (C12A7:e-)上にRuを担持したもの材料を触媒としてアンモニア合成を行ってい る.エレクトライドは,電子が正に帯電した骨格とイオン結合した化合物であ り,電子が陰イオンとして機能する.C12A7は正に帯電した12個のケージ(直径 約0.4 nm)が壁面を共有して3 次元的に繋がって,[Ca24Al28O64]4+で表される 結晶骨格を形成しており,対アニオンとしてケージ内に酸素イオン(O2-)を包 接している(C12A7:O2-).これを還元雰囲気で加熱すると,ケージ内に電子を包 接したエレクトライドとなり,アルカリ金属と同等の低い仕事関数を有する. こ のようなユニークな構造と特徴を有したC12A7:e-がアンモニア合成反応において 示す触媒作用について紹介する。
陽電子は電子の反粒子であり,気体中や物質中では電子と対消滅してγ線になる
運命にある。しかし,対消滅の断面積はきわめて小さく,例えば分子と の衝突
1回あたりの消滅の確率は100万分の1である。このため,物質に入射した陽電
子は,電子やフォノンを励起して数psのうちに熱化してから 消滅する。物質中
の陽電子の平均寿命は物質によって異なるが,通常,150~500psである。この
間,陽電子は物質中を拡散し,もし,原子空孔 型の欠陥があれば,そこにト
ラップされてから消滅する。また,電子との間にポジトロニウムと呼ばれる水素
様「原子」を形成してから消滅することも ある。
このように物質中の陽電子は基底状態に落ち着いてから消滅するので,放射性同
位元素からの高エネルギーまで広がるエネルギースペクトルの陽電子を 用いて
も,電子の運動量分布(フェルミ面)や,格子欠陥をプローブすることができる。
ただしこのような使い方の場合,陽電子は熱化するまでに物質奥深く(100μm程
度)侵入するので,表面や薄膜の研究には使えない。
幸い1970年代に,Cu,Ni,W,Ptなどの金属が陽電子に対して負の仕事関数を
もっていることを利用して低速陽電子をつくる方法が開発され た。すなわちこ
れらの金属の内部で熱化した陽電子のうちたまたま表面に拡散してきたものの一
部が,仕事関数に相当する1eV程度のエネルギー,熱 エネルギー程度の幅で放出
される。これを望みのエネルギーまで加速することで,可変エネルギー単色陽電
子ビームが得られる。
KEK低速陽電子実験施設では,この方法で作った陽電子ビームで共同研究か展開
されている。本講演では,2010年来のビーム強度増強及び輝度増 強で可能に
なった,反射高速陽電子回折(RHEPD),ポジトロニウム負イオンの光脱離による
可変エネルギーポジトロニウムの生成,ポジトロニウ ムTOFによる金属及び絶縁
体表面の研究について紹介する。
The X-ray Fluorescence Microscopy beamline at the Australian Synchrotron is a hard X-ray micro-nanoprobe operating at incident energies from 4 to 25 keV. The main mode of operation of the beamline is 2D elemental mapping, with the 3D techniques of XANES imaging and X-ray Fluorescence tomography extending the capabilities of the beamline. Rapid collection of XFM data is enabled by the unique Maia detector system, which utilises a large, 384-element detector array, continuous “on-the-fly” scanning and event-by-event processing to achieve high data rates, essentially zero overheads and short transit times. The beamline has applications to a wide range of scientific fields, from biological, biomedical and life sciences, though to environmental and geological applications, as well as large-scale investigations of artworks and cultural heritage. This seminar will provide an overview of the beamline as well as examples of research conducted using this facility.
原子対相関関数(atomic pair distribution function)とは大雑把に言え
ば、ある原子からどれだけの距離にいくつ原子が存在するかを示すものである。
これは実空間の関数なので、これを用いることにより結晶周期性をもたない原
子の配列を調べることが可能になる(PDF解析)。これをバルクの結晶性物質に
適用すると、結晶性物質中に存在 し得る周期性を持たない構造歪み(局所構造
歪み)を観測することができる。我々は機能性物質や強相関電子系について、そ
れら物質中に存在する局所構造歪みとその物質の機能や物性との関係を調べて
いる。講演ではそのような研究例を、混合価数をもつスピネル酸化物LiMn2O4に
ついて最近得 られた結果を中心に紹介したい。
LiMn2O4は約260Kで立方晶から斜方晶への構造相転移を示す。高温の立方晶で
はすべてのMnサイトは結晶学的に等価でその価数 は+3.5価であるが、低温斜方
晶では複数の非等価な+3価と+4価のサイトが存在する。このことからこの構造相
転移はMn3d電子の電荷秩序に伴うものとみることができるが、電気抵抗の温度
依存性をみると構造相転移の上下でともに非金属的である。我々は高温立方晶に
おける非金属的な電気 伝導の起源を知る目的で、J-PARCに設置されている高強
度全散乱装置NOVAを用いて7LiMn2O4の粉末中性子回折実験を行い、そのデー タ
をPDFに変換して局所構造解析を行った。その結果室温で得られたPDFは高温立方
晶ではあまり良く再現できず、低温斜方晶で良く再現できることがわかった。
この結果は室温の立方晶において斜方晶と同様な局所構造歪みが存在し、+3価
と+4価の非等価なMnサイトが存在することを示している。すなわち立方晶にお
いてはMn3d電子がいわばガラス的に短距離秩序を持って凍結しており、そのため
に非金属的な電気伝導が実現している可能性が示唆される。
There have been significant improvements in the operation of the high pressure diffractometer, SNAP, at the Spallation Neutron Source over the past two years. This talk will highlight the current capacities which include low temperature systems, high temperature systems, and the introduction of new pressure cell technology that is based on supported diamond anvils and, with advances in software, is particularly suited for powder diffraction. Specific examples include our recent attempts to perform neutron powder diffraction at 1 Mbar. The design of the new pressure cell and data from ice VII samples collected at 80 GPa will be discussed.
Specific scientific examples of our recent research focus on high pressure transitions in hydrogen bonded systems such as methane and CO2 hydrate. The high pressure hexagonal phase of methane hydrate is studied to determine the nature of the hydrate cage loading, this provides detailed experimental data that will lead to better intermolecular potentials for methane – methane interactions, particularly when methane molecules are in close contact and strongly repelling. The high pressure structural systematics of carbon dioxide hydrate is reported. While the structural transformation sequence of most hydrates progress from sI (or sII) to the hexagonal form then to a flied ice structure, CO2 hydrate is an example of a system that skips the hexagonal phase and may transform directly into the filled ice structure. Finally examples of using SNAP to study disorder in amorphous systems will be given. Particularly amorphous methane hydrate produced by compression of sI hydrate at low temperature and the structural evolution of the amorphous form upon annealing and recovery to ambient pressure.
BAG6は、ヒト主要組織適合抗原複合体遺伝子座にコードされる分子量約1,500 KDaのユビキチン様タンパク質である。我々は最近、BAG6が不良構造をもつタンパク質の疎水性領域を認識し、これらをプロテアソーム依存的分解系へ輸送する新因子として機能することを見いだした。BAG6の主な顧客はリボソームから放出された直後の新合成ポリペプチドであり、BAG6は複数の分子シャペロン系と協調してそれらの凝集を防ぎつつ、代謝的安定性を規定する1, 2)。
一方、BAG6は新合成された直後のTA(tail-anchored)タンパク質の膜貫通(疎水)領域を認識し、これらの小胞体膜アッセンブリをエスコートする疎水特異的シャペロン様因子としても報告された2,3)。ヒトBAG6と複合体を形成するタンパク質TRC40、TRC35、あるいはUbl4aの酵母ホモログは、一連のGet (Guided Entry of Tail-anchored proteins)遺伝子産物Get3, Get4, Get5であり、C末端に疎水性領域を持つTAタンパク質群の運命を決定している。
これら新合成タンパク質の品質管理の過程には、BAG6とユビキチン系の協調が重要であり、BAG6は細胞内で多様な相互作用因子を内含する大きな複合体を形成しつつ、顧客タンパク質の細胞内運命を決定する。新合成不良タンパク質の認識・分解系は免疫応答や神経変性疾患の防御に極めて重要であり、BAG6複合体がどのように基質を認識し、凝集を防御し、ユビキチン系にリクルートしているか、その構造的解明が急務な状況である。本セミナーでは、BAG6研究の現状を俯瞰した上で、今後の研究課題についての議論を深めていきたい。
(1) Minami, R., Hayakawa, A., Kagawa, H., Yanagi, Y., Yokosawa, H. and Kawahara, H. (2010) BAG-6 is essential for selective elimination of defective proteasomal substrates. J. Cell Biol. 190: 637-650.
(2) Hessa, T., Sharma, A., Mariappan, M., Eshleman, H.D., Gutierrez, E., and Hegde, R.S. (2011) Protein targeting and degradation pathway are coupled for elimination of misfolded proteins. Nature 475, 394-397
(3) Mariappan, M., Li, X., Stefanovic, S., Sharma, A., Mateja, A., Keenan, R.J., and Hegde, R.S. (2010) A ribosome-associating factor chaperones tail-anchored membrane proteins. Nature 466, 1120-1124
(4) Kawahara, H., Minami, R. and Yokota, N. (2013) JB Review: BAG6/BAT3: Emerging roles in quality control for nascent polypeptides. J. Biochem. in press
スピネル型構造をもつ遷移金属酸化物は、Aサイト(四面体配位の位置)
またはB サイト(八面体配位の位置)に軌道自由度をもつ遷移金属イオンが占め
るとき、 低温で様々な磁気秩序や軌道整列を示すことが知られている。その中
でも、スピ ネル酸化物FeV2O4はA, B両サイトに軌道自由度を有しているという
ユニークな化 合物であり、逐次相転移や磁気・構造同時相転移、巨大磁歪効果
などを示すこと から、最近精力的に研究がなされてきた。この物質は温度減少
に伴い、140Kで立 方晶から正方晶HT(c < a)に、110Kでフェリ磁性転移に伴って
正方晶HTから斜方 晶に、80Kで斜方晶から正方晶LT(c > a)に、さらに単結晶試
料では35Kで正方晶 LTから斜方晶に相転移することが報告されている[1]。これ
らの相転移の起源は、 Fe2+およびV3+イオンの軌道整列およびスピン配列に起因
することが最近示され た[2,3]。我々もこの物質についての多結晶および単結晶
試料における磁化測定 を中心とした物性測定や回折実験を行ってきた。その結
果、単結晶でしか報告さ れていない約30Kにおける相転移が多結晶試料において
も観測され、さらに磁化 の温度変化には特徴的な飛びが見られた。しかし、こ
のような現象の起源は未だ 明らかになっていない。本談話会では、我々が行っ
てきたFeV2O4多結晶における 回折実験および磁化測定の詳細について紹介する。
[1] T. Katsufuji et al, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 053708 (2008)
[2] Y. Nii et al, Phys. Rev. B 86, 125142 (2012)
[3] G. J. MacDougall et al, Phys. Rev. B 86, 060414 (2012)
最近、セラミックス微粒子を固体状態のまま基板に衝突させ、焼結体なみの密度と強度で基材上に固化できる常温衝撃固化現象(RTIC)が発見された。「高圧を使い、焼かずにセラミックス膜作る」という、これまでの常識を覆す現象である。本講演では、このRTICを中心に常温セラミックスコーティングとして展開したエアロゾルデポジション(AD)法の原理や特徴、また、その実用化事例と応用展開の可能性を紹介する。
希土類の強相関電子系化合物は,殆どが低温で重い電子系金属になる が,逆に半導体的性質を示す奇妙な物質も,わずかであるが存在している。価 数揺動半導体SmB6(価数2.6価)と近藤半導体YbB12(価数2.9)はその数少ない 典型例である。そのエネルギーギャップの大きさは、近藤温度の大きさにほぼ 近いとされるが,その形成機構はいまだはっきりしない。伝導電子とf電子の混成効果によりギャップが形成されるというバンド描像(c-f hybridizationモ デル)のほか,1サイト近藤効果によりギャップができるとするモデルなどが ある。YbB12は50Tで磁化の回復が生じ,電気抵抗も2桁小さくなる振る舞いを示す。ここで非金属金属転移が起こっているとされたが,最近90T近傍で,新 たな磁化の立ち上がりが見つかり,電気抵抗で見られていた2段目の大きな ギャップの応答をとらえたものと思われる。また、DACを用いた電気抵抗の圧力 変 化では,SmB6が10GPaで反強磁性金属へと変化するのに対し、YbB12では ギャップが130GPaもの超高圧までつぶれず、顕著な違いを示す。希土類12ホ ウ化物はTb以上の重希土類でしか常圧下では合成されない。しかし、GdB12は 6-12GPaで、さらにSmB12は15-20GPaで作成できることがわかった。これらの物性に付いて紹介する。
The talk will cover the various beamlines operational and under implementation on Indus-1 and Indus-2. Some of the recent research activities using the operational beamline along with the major upgrades planned for insertion devices based beamlines will also be discussed.
The in situ neutron diffraction and in situ acoustic emission were used in a single in situ experiment in order to study deformation twinning in two ZM20 Mg alloys with significantly different grain sizes at room temperature. The combination of these two techniques enables the distinction between twin nucleation and twin growth. It is shown, that yielding and immediate post-yielding plasticity in compression along the extrusion direction is governed primarily by twin nucleation, whereas the plasticity at higher strains is governed by twin growth and dislocation slip. It is further shown that the collaborative twin nucleation dominates yielding in the fine-grained alloy whereas twin nucleation in the coarse-grained alloy is rather progressive and is happing over a larger strain range. Additionally, it is shown that despite the increasing stress required for twinning with the decreasing grain size, roughly the same overall volume fraction of twins is formed in the fine and coarse parent grains. This confirms the difficultness of the alternative deformation modes and it shows a very limited suppressing effect of grain size on twinning in the case of strongly textured fine-grained Mg alloy.
我々は、強誘電体表面に4ナノメートルという極小サイズの卑金属ナノ粒子が酸化せずに界面接合していること、そしてこの金属ナノ粒子には貴金属触媒と同様のハイドロカーボンから水素ガス生成を示す触媒効果があることを見いだした。
この成果をきっかけに、排ガス除去,燃料電池など水素エネルギー生産利用技術を、貴金属でなく卑金属-誘電体界面接合を用いて極安価に実用化することが現実的になってきた。
誘電体表面層でコヒーレントに大きく揺らぐ電気双極子が、界面接合した金属ナノ粒子に電子-正孔ペアを形成させ金属に非酸化機能性を発現させるのと同時に、近接するハイドロカーボンの脱水素反応を誘発させると考えている。
講演では、この一連の新物性理解を目指しつつ、誘電体触媒実用化の方向性を開拓している現状(苦労)を報告する。
The next-generation magnetic memories require an ideal spin-polarised electron source, which can be achieved by using a half-metallic Heusler-alloy film. For the Heusler-alloy film implementation, it is critical to realise both large volume of coherent magnetisation reversal and high interfacial atomic ordering. In this review, we present solutions to satisfy these requirements by measuring activation volumes and observing cross-sectional atomic structures. We find that the polycrystalline films possess 10 times larger activation volume than the epitaxial ones and also form the perfectly ordered crystalline phase. These features are very useful for the application of the Heusler-alloy films into a future magnetic mssssemory.
Neutron spin-echo spectroscopy offers the unique ability to probe the dynamics of membranes on length scales which are especially relevant to biophysics. Modern interpretation of these measurements has relied on the theoretical predictions of Zilman and Granek; however, it was necessary to introduce an anomalously large solvent viscosity within this theory to obtain quantitative agreement with experiment. By using a model which includes the effect of viscous forces within the membrane, we have shown that a direct comparison between theory and experiment is indeed possible. For many cases, the results of the Zilman and Granek theory are recovered, except that the bending modulus appearing in their expressions is replaced by an effective dynamic bending modulus. Numerical calculations have also allowed us to investigate several effects which cannot be obtained with analytic techniques.
講演要旨:フェムト秒光パルスを用いて磁化を超高速に制御する研究が近年盛んに行われている。非熱的な磁化の制御法の一つが逆ファラデー効果を利 用するものである。円偏光光線が物質に照射されると、光の進行方向に沿って有効磁場が誘起されるという効果である。我々は、反強磁性体 NiO[1]、弱強磁性体DyFeO3 [2]において逆ファラデー効果によるスピン歳差運動を時間分解ポンプ-プローブ法を用いて測定してきた。また最近では、逆ファラデー効果によって誘起さ れたスピン波伝播の空間・時間分解測定も行っている。サンプルには磁気光学効果の大きい希土類鉄ガーネットを用い、ポンプ光とプローブ光の照射位 置をずらすことで、スピン波の空間伝播を観測した。誘起されたスピン波は、静磁波の一種として矛盾無く解釈された。さらにポンプ光のスポット形状 によって、スピン波の伝播方向を制御することにも成功した[3]。
[1] T. Satoh et al., Phys. Rev. Lett. 105, 077402 (2010).
[2] R. Iida et al., Phys. Rev. B 84, 064402 (2011).
[3] T. Satoh et al., Nature Photonics (doi:10.1038/nphoton.2012.218).
The last 5 years have seen unprecedented new opportunities for Australian science with the opening of two world class major user facilities: the Australian Synchrotron and the OPAL research reactor. Both facilities opened in 2007 have been quickly embraced by the Australian and international research communities with both having well over two thousand registered users.
The Australian Synchrotron is a 3 GeV third generation photon science facility, located in Melbourne, Victoria. Its initial suite of nine beamlines include dedicated Protein Crystallography, EXAFS, powder diffraction, SAXS/WAXS, micro-beam Infra-red and soft X-ray spectroscopy beamlines. A high energy beamline dedicated to imaging and medical therapy is being commissioned. The OPAL research reactor is a 20 MW swimming pool design reactor with a very compact core delivering high neutron flux. It is located at ANSTO in Sydney, New South Wales, and is designed not only for neutron beam research, but also for radioisotope production and irradiation services. It currently operates 7 instruments on thermal and cold sources beams dedicated to powder diffraction, single crystal diffraction, residual stress and strain, SANS, reflectivity and triple axis inelastic scattering, with six additional instruments under construction.
The capabilities of these two facilities some research highlights will be presented.
‘The PILATUS pixel and MYTHEN strip detectors have transformed synchrotron radiation data collection by combining noise-free counter properties with highest data acquisition rates. These features enable optimized data acquisition modes and new experimental techniques. The PILATUS detector is a modular two-dimensional hybrid pixel array detector, while the MYTHEN detector is a one-dimensional strip detector.
Based on these technologies several new developments have been made.
1. To enable measurements with ultra-soft X-rays and to optimize data quality, PILATUS modules were characterized and tested under vacuum conditions, allowing the construction of customized in-vacuum detectors: A PILATUS 1M was installed at the BESSY-2 FCM beamline for SAXS measurements at energies from 1.75 to 10 keV. A PILATUS 12M consisting of 120 detector modules in vacuum arranged in a large semi-cylindrical shape is being built for the DLS Long Wavelength MX beamline I23. A PILATUS 100K with optimized module geometry will be installed in-vacuum at the inelastic X-ray scattering beamline BL43LXU at SPring-8.
2. To enhance the detection efficiency for hard X-ray applications, Silicon sensors with increased thickness of 450 and 1000 µm have been developed. Their characteristics have been measured over a wide energy range from 1.75 (in vacuum) to 60 keV (in air), confirming that the quantum efficiency for hard X-rays is increased as theoretically expected, while the ideal spatial resolution (point spread function of one pixel size) is maintained.
3. A new version of the PILATUS readout chip has been developed and tested. It will be used in the PILATUS3 detector series. It features higher count rates (of up to 107 photons/s/pixel), higher readout speeds (<1 ms full readout) and enhanced global stability. This enables better accuracy in the highest intensity diffraction spots/rings and faster data acquisition.
4. MYTHEN detectors are ideally suited to detect isotropic scattering signals as encountered in powder diffraction or solution scattering. New mechanics for 6 or 24 modules allow to cover 30 and 120 °, respectively, thereby enabling high-throughput experiments and time-resolved studies.
5. The EIGER pixel detector represents the next generation of DECTRIS pixel detectors. With a pixel size of 75 µm, frame rates up to 3000 Hz and a dead-time of 3 µs it will enable radically new experiments.
These developments will be presented along with the corresponding measurement results.
‘Electronic grade’ (<5ppb of B, N impurities) single crystal diamond is grown homoepitaxially by chemical vapour deposition and then polished to a thin (<100µm) plate. With suitable surface electrical contacts, a 'solid state ionization chamber' is formed which is used to intercept synchrotron X-ray beams and provide continuous measurement of the beam intensity and position. The thin diamond crystal absorbs only a small percentage of the incident beam, and with sub-nanometer roughness surfaces it causes little degradation to the beam quality and coherence. At 3rd generation synchrotrons, X-ray beams are now routinely focused to <1µm and frequently to <100nm. Compact monitoring devices with the ability to reach submicron resolutions at near kHz bandwidth are required to measure position and intensity variations associated either with movements of the beamline optics or the X-ray source itself. At the ESRF ID21Microscopy beamline we have demonstrated measurements with <15nm of position noise using quadrant electrode diamond devices with electrometer readout [1]. At DESY, narrowband radiofrequency diamond readout [2] has recently been used to characterize monochromator vibrations above 100Hz at the P11 crystallography beamline. We have also fabricated and installed devices with resistive, 'diamond like carbon' contacts at ESRF and Soleil which provide submicron resolution and linear position response over a >2mm working range [3]. We are now working on the development of thin <10μm membrane diamonds for beam energies down to ~3keV, while at BNL-NSLS, a split quadrant diamond system has been in use for over a year for white beam monitoring [4]. We will present the practical issues associated with the fabrication of these diamond devices and discuss their performance limits.
[1] J Morse, M Salomé, E Berdermann, M Pomorski, J Grant, V O’Shea, P Ilinski, Mater.Res. Soc. Symp. Proc. (Fall 2007), 1039 P06-02,
[2] J Morse, B Solar, H Graafsma, J. Synch. Rad. (2010) 17, 456–464,
[3] Pomorski, M, Ciobanu, M, Mer, C, Rebisz-Pomorska, M, Tromson, D and Bergonzo, P (2009), Phys. Stat. sol. (a) 206:2109–2114,
[4] E Muller, J Smedley, J Bohon, X Yang, M Gaowei, J Skinner, G De Geronimo, M Sullivan, M Allaire, J Keister, LBerman Heroux J. of Synch. Rad. (2012) 19, 381-387,
>>abstract [PDF 80KB]
機械工学技術において、要素間の摩擦およびそれに伴う摩耗の発生に関する諸問題は極めて重要な課題であり、トライボロジー分野において多くの研究が進められている。エンジンを始めとする摺動表面の多くは潤滑油中に晒されており、潤滑下でのトライボロジー現象を真に理解するには、摺動場における固液界面の状態を正確に把握することが重要である。本発表では、潤滑下における摩擦の三態(境界潤滑、混合潤滑、流体潤滑)とそのメカニズムを紹介するとともに、そのそれぞれの状態において低摩擦を実現するためのキー技術と考え方について概説する。
摩擦は我々に最も身近な物理現象の一つである.
その研究は古代から行われ,そして産業革命の時代を経て発展してきたが、その理解が進んだのは原子論の発達した20世紀に入ってからである.
20世紀後半,新たな実験技術などの進歩に伴い原子・分子スケールの摩擦の研究が可能になり,その研究は新しい時代に突入したと言われる.
しかし、以前として摩擦が発生している”その場”を見ることは困難である。
講演では、摩擦研究の現状を紹介するとともに、この困難を量子ビームにより克服する可能性も論じたい。
タンパク質の光化学反応をきっかけとして結晶成長が誘起される現象を見出し、機構の解明を進めてきた。今までに、この観測結果が本当であるか、再現性良く
実験を進めるための実験方法の工夫を経て、①タンパク質の光化学反応の機構の解明、②光化学反応と結晶核形成の関連を合理的に説明する機構の提案と実証実
験、③この現象をより多くのタンパク質の結晶化に適用する試み、④プラズモン共鳴を用いた光反応による結晶化、⑤膜タンパク質への展開、を進めている。それ
らについて述べる。
>>full text [PDF]
超伝導近接効果は近年再び多くの研究者の興味の対象となっている。例えば、
超伝導体(SC)/強磁性体(FM)接合におけるFM内での Cooper対のFFLO(Fulde-
Ferrell-Larkin-Ovchinnikov)振動の出現、あるいはRashba型スピン軌道 相互
作用(SOC)のある2次元系へのCooper対侵入を利用したトポロジカル超伝導体の実
現、等々が新たに対象となっている。我々は非磁性常 伝導体(NM)を介した超
伝導と強磁性の相互作用に興味を持ち、SC/NM/FM(SC=Nb;NM=Au, Pt,
Ag;FM=Fe, Co, Ni)三層膜試料の磁性・超伝導をNM層の厚さの関数として評価
した[1-3]。NM層内では近接効果によって(SC由来)Cooper対と(FM由来) 伝導
電子スピン偏極が共存していると考えられる。
特に良好な結晶性・積層構造を示すNb/Au/Fe及びNb/Au/Coにおいて、超伝導転
移温度TcがAu層厚t_Auの関数として振動する 結果が得られている。振動周期は2
種類観測されており、短周期(~0.76 nm)振動は伝導電子のスピン偏極 効果か
ら説明できるが、長周期(~2.1 nm)振動は今まで知られている機構では説明が
付かない。Au層内で超伝導秩序パラメーターΔ(r)が「FFLO的な」実空間内周期的
変調を示している可 能性が考えられる。FMを含まないNb/Au/Nb三層膜に関する
実験結果もこの可能性を支持しており、t_Auの関数として2つのNb層間の超 伝
導位相差φが0→π→0と変化していると解釈できる結果が得られている[4]。
本来のFFLO相が強いZeeman field下で生ずるとされているのに対して、この
「FFLO的」状態はゼロ磁場下で、おそらくはSOCの影響によって、起きていると
考えられる。 SC/2DEG/SC(2DEG:2次元電子ガス)接合に関しては、SOCのある
2DEG領域の長さの関数として(ゼロ磁場下で)位相差φが0と πを周期的に取り得
ることが理論的に示唆されている[5]。
Au層内に侵入したCooper対が「FFLO的な」Δ(r)の変調を伴っていることを直接
的に証明するために、Δ(r)のnodal plane(Δ(r)=0)を観測するための中性子を
使った実験方法を提示する。
[1] H. Yamazaki, Nic Shannon, and H. Takagi, Phys. Rev. B 73, 094507 (2006).
[2] H. Yamazaki, Nic Shannon, and H. Takagi, J. Magn. Magn. Mater. 3102217 (2007).
[3] H. Yamazaki, Nic Shannon, and H. Takagi, Phys. Rev. B 81, 094503 (2010).
[4] H. Yamazaki, Nic Shannon, and H. Takagi, in preparation.
[5] Z. H. Yang et al., J. Appl. Phys. 103, 103905 (2008).
Learning the mechanisms used for transcriptional control remain important goals in biology. Most molecular events in regulation of gene expression and determination of cell fate require multi protein and protein-nucleic acid complexes. These molecular machines act in response to molecular signaling to bind to promoters and enhancer sequences in DNA. Although structural and functional studies elucidated molecular detail of individual proteins of these molecular machines, few detailed mechanisms are understood for multi-component assemblies.
In the last five years, generation of induced pluripotent stem cells (iPS cells) and other cellular reprogramming methods using a few critical transcription factors has been established. Reprogrammed cells are being developed to cure disease and remedy injury. The methods of changing cell type by manipulation of a few defined molecules clearly remind us that transcription factors determine cell fate. To learn about the mechanisms, we have had the opportunity to launch one of 12 biology partnerships (PI: Robert Fletterick, UCSF) in PSI:Biology project in the United States, through the researches of human transcription factor complexes in the Fletterick lab and via collaborations with Shinya Yamanaka and Bruce Conklin labs in the Gladstone Institute of Cardiovascular Disease, UCSF. The project has also been collaborated with the Joint Center of Structural Genomics (JCSG; Beamline@SLAC National Accelerator Laboratory), one of Centers for High-Throughput Structure Determination to facilitate this program. The team is focusing on protein-protein, protein/DNA, and protein/protein/DNA complexes of human transcription factor machineries (We call this effort as “PSI:Stem Cell Biology”).
In this seminar, I will report the current status of this project on cell reprogramming factors and also discuss on the direction to overcome problems, associated with sample preparations of complexes, for future high-throughput crystallography.
黄色ブドウ球菌は,ホスト細胞の血球を崩壊させるための,様々な膜孔形成毒素蛋白質 を分泌する.黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素は,単一の分子で構成されるα-ヘモリ ジンと, 2つの成分から構成される2成 分性毒素に分類される.いずれの分子も可溶性の単量体として発現され,ターゲット細胞の表面で会合した後,多量体の膜孔を形 成する.これまでに,α-ヘモリジンの7量 体の膜孔構造と2成分性毒素の単量体構造の立体構造がX線結晶構造解析により明らかにされてきたが,2 成分性毒素の膜孔構造は未知であった.本研究では,2成分性毒素の1つである,γ-ヘモリジン(Hlg2とLukFから構成され る)の膜孔構造を 2.5Åの分解能で決定した.構造解析の結果,LukFとHlg2が4分子ずつ,交互に円状に配置した,8量 体構造を形成していることが明らかに なった.単量体中では折り畳まれていたステム領域が伸び,2成 分が交互に配置したβ-バレルを形成していた.これらの構造的特徴をもとに,我々 は,2成分性毒素の膜孔形成機構を提案した.このモデルは,過去20年におよび蓄積されてきた黄色ブドウ球菌2成 分性毒素の生化学的研究を適切に説明するものである.
交互積層型電荷移動錯体TTF-CAは、温度変化で分子の価数が劇的に変化する
中性-イオン性相転移を示す代表例として、これまで実験・理論両面で盛んに
研究されてきた物質である。誘電率測定の結果等から低温のイオン性相は
強誘電性を持つことが示唆されていたが、リーク電流の影響等により、
これまで強誘電性の直接的な証拠となるP-Eヒステリシスカーブは測定されて
いなかった。近年になって、第一原理電子状態計算により、TTF-CAの強誘電相が
有機物としては比較的大きな自発分極の値と、基底状態によっては古典的点電荷
モデルとは正反対の分極方向を持ちうる事が示唆され、その強誘電性の起源に
注目が集まっていた。
今回我々は、電気的特性の測定による自発分極の評価及び、電場下回折実験
による分子変位方向の決定により、TTF-CAの強誘電性が分子間の動的な電子
移動に基づく、電子型強誘電性であることを実験的に明らかにしたので紹介する。
希土類化合物のL端励起共鳴X線発光分光(RXES)の実験として、従来は3d 2p発
光遷移による分光が盛んに行われていた。最近、ESRFのP. Glatzelらは、新し
い分光実験として、CeO2のCe L端励起下で、valence 2pおよび5d 2p発光デー
タの観測に成功し、筆者が不純物アンダーソン模型をもちいてその理論解析を
おこなった[1]。本講演では、理論研究に重きをおきながら理論計算と実験結
果の比較をおこなう一方で、さらに一歩踏み出して、これらの分光の応用によ
って切り開かれる新しい研究について述べる。
まず、valence 2p RXESは、3d 2p RXESと組み合わせることにより、L端励起下
での内殻正孔効果を直接に検知する強力な手段となることを指摘する。すなわ
ち、valence 2p発光と3d 2p発光のスペクトル形状を比較し、両者の間に有意
の差があれば内殻正孔効果が重要、本質的な差がなければ内殻正孔効果は無視
できると結論してよい。そこで、われわれはこの方法を用いて、CeFe2に関す
る懸案問題を解決した。CeFe2のCe L3端X線吸収スペクトル(L3 XAS)にはサテ
ライト構造が観測されているが、その機構に関して2つの異なった解釈があ
り、未解決の問題とされていた。朝倉ら[2]は、この構造は内殻正孔効果によ
り基底状態の混合原子価成分が分離したものと解釈したが、その後Antonovら
[3]は、これはCe 5dバンドの状態密度が直接反映された構造と解釈し、内殻正
孔効果は無視できるほど小さいと主張している。
われわれは、まず不純物アンダーソン模型によりCeFe2のvalence 2pと3d 2pの
RXESを理論計算し、両者の間に大きな差異があることを確認した。次に、
Glatzelらと共同してこれらのRXESの測定をおこない、実験結果は理論計算と
よく一致すること、したがって、CeFe2のL3端X線吸収スペクトルにおいて内殻
正孔効果は本質的に重要と判定することができた[4]。
最後に、5d 2p RXESは電荷移動励起(金属では近藤共鳴励起)の観測のための
有効で新しい手段となることを示し、今後の展開に期待したい。
[1] A. Kotani, K.O. Kvashnina, S.M. Butorin and P. Glatzel, J.Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 184, 210 (2011).
[2] K. Asakura, K. Fukui, H. Ogasawara, I. Harada, J. C. Parlebas and A. Kotani: J. Phys. Soc. Jpn. 73, 2008 (2004).
[3] V. N. Antonov, D. A. Kukusta and A. N. Yaresko, Phys. Rev. B 78,094401 (2008).
[4] A. Kotani, K. O. Kvashnina, P. Glatzel, J. C. Parlebas and G.Schmerber, Phys. Rev. Lett. 108, 036403 (2012).
Since the discovery that small fluorescent compounds and conjugated polymers could be used as the active material in organic light emitting diodes (OLEDs) about twenty years ago, intensive research has seen them move from relatively short-lived and inefficient devices to components of commercially available appliances. This research has prompted the development of other organic devices such as organic photovoltaic devices (OPVs), field-effect transistors (OFETs) and sensors. A fundamental feature of these devices is that they rely on electron transfer between layers of organic materials, which imposes certain requirements on the materials and the way they interact.
Morphologies of model devices based on the architectures of OLEDs, bulk heterojunction OPVs and fluorescent sensors for explosives have been studied using a purpose-built cell on the Platypus time-of-flight neutron reflectometer at Australia's OPAL reactor and the ISIS Facility in the UK. Deuterated materials synthesised at the National Deuteration Facility were used to enhance contrast between the organic layers. Three device structures have been examined: (i) studies of OLED architectures revealed that rapid interdiffusion occurs between the emissive layer and electron transport layer when heated above a critical temperature [1]; (ii) studies of organic photovoltaic solar cells fabricated by sequential deposition revealed interdiffusion between donor (P3HT) and acceptor (PCBM) layers [2] and (iii) studies of sensors revealed that the analyte diffuses reversibly throughout the active layer with accompanying swelling that depends on the structure of the sensing material [3, 4]. Our work has shown that diffusion occurs between layers at relatively low temperatures, having a great effect on performance and durability. The results have important implications for the long-term stability of devices based on organic layers.
References
1) A. R. G. Smith, J. L. Ruggles, H. Cavaye, P. Shaw, T. A. Darwish, M.
James, I. R. Gentle, P. L. Burn, Advanced Functional Materials, 21, 2225
(2011).
2) K. H. Lee, P. E. Schwenn, A. R. G. Smith, H. Cavaye, P. E. Shaw, M.
James, K. Kruger, P. Meredith, I. R. Gentle, and P. L. Burn, Advanced
Materials, 23, 766 (2011).
3) H. Cavaye, A. Smith, M. James, A. Nelson, P. L. Burn, I. R. Gentle,
P. Meredith, Langmuir 25, 12800 (2009).
4) H. Cavaye, P. E. Shaw, A. R. G. Smith, P. L. Burn, I. R. Gentle, M.
James, S.-C. Lo, P. Meredith, J. Phys. Chem. C, 115, 18366 (2011).
ナノメートルオーダーの空間分解能で電子状態・化学状態分布の三次元的可視化
を達成するために、3次元走査型光電子顕微鏡(3D nano-ESCA)装置の開発を
行った。本装置のコンセプトは、ナノビームの二次元走査による走査型光電子顕
微鏡測定(x, y)に加え、広角度一括取込光電子アナライザで取得した光電子放
出角度依存性を最大エントロピー(MEM)法を用いて深さ方向分布情報(z)へと
変換し、 これらを組み合わせることにより、三次元全ての方向(x, y + z)に
おける電子状態・化学状態の分布を得る、というものである。本装置は2007年度
からPF BL-16Aにて建設を開始し、2009年度より東京大学放射光アウトステー
ションビームラインBL07LSU に移設され、調整および利用実験を開始してい る[1]。
現在の装置性能としては、空間分解能として、Poly-Si 電極/HfO2絶縁膜デバイ
ス構造のラインプロファイル測定により、最高で70nm 以下を達成している。ま
た、ナノビーム集光した状態で取込角度60°での光電子放出角度依存性を取得
し、MEM 法を用いてピンポイント深さプロファイルを描き出すことが可能となっ
ている。
[1] K. Horiba et al., Rev. Sci. Instrum. 82, 113701 (2011).
近年、有機物質と無機物質を分子レベルや粒子レベルで複合化した有機・ 無機複合物質の構築が盛んに行われている。このような系では、無機相に由来 する磁性、電気伝導性、熱・化学安定性などの特性と、有機化合物の化学反応 性、化学修飾能、構造柔軟性などの性質を単に足し合わせた効果だけではな く、単独の物質では得られない新しい物性、機能を発現する可能性がある。ま た、機能性材料の中心的化合物として多くの研究が行われている ペロブスカイ ト型化合物は『機能の宝庫』と言われ、導電性、誘電性、磁性等で特異な物性を 示す多くの機能性物質が知られている。しかし、それらの ほとんどは高温で焼 結した酸化物であり、材料加工は簡単ではない。一方、有機層とペロブスカイト 層が交互に積層した層状化合物である有機・無機複 合層状ペロブスカイト型化 合物は、結晶性が高く、無機半導体に匹敵する高い移動度を持ちながら、骨格構 造と電子構造の制御が比較的容易であり、有機物のような可溶性があるという 観点から、デバイス設計やプロセス技術に有効であると考えられる。特に、ヨウ 化スズ系化合物は、有機溶媒から単結晶が析出する、溶液プロセスが可能な物 質であり、バンド構造は典型的な半導体であるのに、高伝導を示す。しかし、こ の物質の電気物性に関する報告例は少なく、これまでの研究では粉末試料につ いてがほとんどであったため、高伝導性を示す理由は明らかにされていなかっ た。そこで、単結晶を用いたドーピング実験を通して明らかになったこの物質 の伝道機構と、導電性制御の手法の開拓について紹介する。
PDB(protein data bank)に登録されているタンパク質構造data数は8万件を越 えた。その中で、中性子解析による結果登録数は50件程度(0.06%)である。 しかし、中性子解析による構造生物は生き続けている。それは何故なのか。 iBIXからの最新の結果(*アミロイドトランスサイレチン(TTR)の中性子解析 結果)をもとに議論してみる。(*TTRは血液に豊富に含まれる血漿蛋白質 で、ホルモン物質であるサイロキシンを運搬する役割を担っている。一方で、 TTRはアミロイド線維を形成し、アミロイドーシスと呼ばれる疾患を引き起す ことが知られている。TTRがアミロイド線維を形成する機構を解明できた。)
Lysosomal protective protein /cathepsin A (CTSA), neuraminidase 1
(NEU1) and β-galactosidase (GLB) associate with one another to form a
multienzymic complex (1.27 MDa) to efficiently degrade glycoconjugates
and peptides in lysosomes. In addition, the interaction between NEU1 and
CTSA is essential for expression of NEU1 activity and transport of NEU1
to lysosomes. Complex formation among these enzymes is also necessary to
prevent GLB from proteolytic degradation in lysosomes. However, the
regulation mechanism underlying their biosynthesis and complex formation
are not enough elucidated.
Autosomal recessive lysosomal storage diseases (LSDs) including
galactosialidosis, sialidosis and GM1 gangliosidosis are caused by the
defects of CTSA, NEU1 and GLB genes, respectively. There is no effective
therapy for these LSDs involving neurological symptoms, although enzyme
replacement therapy (ERT), gene therapy, cell transplantation therapy,
substrate reduction therapy (SRT) are clinically available for several
other LSDs involving visceral symptoms.
Recently we have elucidated the crystal structure of the active form of
human CTSA purified from a transgenic silkworm (Tg-CTSA) overexpressing
the CTSA in the middle silk glands, and that of human GLB had been also
elucidated by Prof. T. Shimizu et al in the Univ. of Tokyo. The
structure of NEU1 has been modeled on the basis of that of NEU2 by Dr.
L.G. Chavas in KEK. Structural information of the mutant enzymes are
available to predict in silico the interaction among CTSA, NEU1 and GLB,
which is based on the missense mutations identified in the patients with
the deficiencies. However, precise structures of the multienzymic
complex should be analyzed to elucidate the molecular interaction among
them and the underlying regulation mechanism.
In this seminar, I would summarize the findings concerning the molecular
interaction among CTSA, NEU1 and GLB, and introduce the clinical
application for LSDs.
産総研では、自由電子レーザー(FEL)専用電子蓄積リングNIJI-IVを用い て、FEL発振技術を開発してきた。2台の光クライストロンを使用して中赤外~ 真空紫外域でFEL発振を実現する一方で、高次高調波を使用したFEL発振やFELを 利用した逆コンプトン散乱X線も開発している。本準備会では、CHGやHGHGに比べ て知名度が低いと思われる高次高調波FELの魅力について当所で開発した実績を 基に説明し、豊富な電子ビーム源を有するKEKでの活用についても触れてみたい。
我々は、タンパク質の翻訳後修飾(主にタンパク質リン酸化)をコントロールする「新しい分子」を設計・合成することをこれまで検討してき た。リン酸化に関わる重要な酵素の活性調節分子として知られている天然物や生体分子を元に、それらの欠点を克服した新しい分子を開発し、生命現象 の解明に貢献することを目的としている。本講演では、天然物RK-682を基盤とした新規両特性プロテインホスファターゼ阻害剤の開発、および生 体分子であるガングリオシドGM3を基盤としたシアリダーゼ耐性型アナログの創製について紹介する。
Our group has focused on the development of new molecules which enable control of the post-translational modification of proteins, in particular, protein phosphorylation. Based on natural products or biomolecules showing inhibitory activity or activating ability towards enzymes related to protein phosphorylation, new molecules have been designed in order to improve or overcome the drawbacks that conventional molecules possessed. This presentation will disclose the new inhibitors for dual-specificity protein phosphatases based on the natural product RK-682 and glycolipid GM3 analogues with resistance for degradation enzymes, both of which were recently developed in our group
分子が有する光機能を詳細に理解するためには、その光機能を発現する 瞬間、すなわち光機能分子として"働く瞬間"を観察することが重要である。特 に結晶構造解析による観察は、分子が"働く瞬間"の様子を実験的且つ直接的に知 ることができるため、光機能解明のための重要な手法として期待され ている。 我々は最近、PF-ARの短パルスX線とパルスレーザーを同期させたポンプ-プロー ブ結晶構造解析を用いて、有機光触媒9- Mesityl-10-methylacridinium cation が吸収した光エネルギーを光触媒反応のためのエネルギーに変換した瞬間の構造 を直接観察することに成功したので、本談話会ではその詳 細について紹介する。
In this talk, a survey of the Echo-Enabled Harmonic Generation (EEHG) Experiments (mainly on the principle-of-proof experiments conducted at SLAC) will be presented. The talk will also address some concerns on the experimental design based on the ERL project at KEK. Possible End-to-ENd (E2E) simulations will also be discussed.
Assembly of quasi-equivalent virus capsids engages molecular switches to create different interface contacts between the same gene products. The particle often assembles as a fragile, spherical shell in which the subunits are properly positioned on the appropriate surface lattice and then quasi-equivalent subunit contacts differentiate during maturation, creating a robust, faceted particle. Folding of the switch regions of the subunit depends on assembly and maturation that are affected by biochemical cues. NwV is a quasi-equivalent virus, with a T=4 surface lattice, where this process is dramatic (a change in particle size of 100A during maturation) and can be investigated in vitro. Here we use biochemistry1, Small Angle X-ray Scattering2 and electron cryo-microscopy and image reconstruction (CryoEM)3 to characterize maturation intermediates and an associated auto-catalytic cleavage, the kinetics of morphological change and to demonstrate that regions of NwV subunit folding are maturation-dependent and occur at rates determined by their quasi-equivalent position in the capsid.
1. Matsui, T., Lander, G., and Johnson, J.E. 2009 Characterization of Large Conformational Changes and Auto-proteolysis in the Maturation of a T=4 Virus Capsid. J Virol 83, 1126-1134.
2. Matsui, T., Lander, G., Khayat, R. and Johnson, J.E. 2010 Subunits fold at position-dependent rates during maturation of a eukaryotic RNA virus. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107:14111-5.
3. Matsui, T., Tsuruta, H., & Johnson, J.E. 2010 Balanced Electrostatic and Structural Forces Guide the Large Conformational Change Associated with Maturation of a T=4 Virus. Biophys J. 98:1337-43.
3d遷移金属化合物や希土類化合物などの強相関電子系物質は,局在性の強い3d電子,
4f電子間のクーロン相互作用や,伝導電子との混成を通じて,金属絶縁体転移など
の多くの興味深い物性を示す.我々は,強相関電子系物質が示す物性を電子状態の
立場から理解するために,放射光を用いた(角度分解)光電子分光や吸収分光を主な
手段として実験研究をすすめている.本セミナーでは,金属絶縁体転移を示す擬一
次元系BaVS3と価数相転移を示す希土類化合物YbInCu4の電子状態に関する研究結果
を紹介する.
1) 擬一次元系BaVS3の金属絶縁体転移
BaVS3はV4+(3d1)イオンが鎖状に配列する擬一次構造をとり,TMI=70 Kで金属絶縁
体転移(MIT)を示す(高温側:金属,低温側: 絶縁体).MITにはa1gバンド,egpバン
ドの両方が関わっていると考えられている.最近我々は,V3p-3d吸収領域(hn=57
eV)での偏光依存角度分解光電子分光を行い,a1gバンドとegpバンドの分離観測に
成功した.フェルミ準位(EF)上のa1gスペクトル強度はTMIより高い120-150Kで急
減し,一方egpスペクトル強度は温度とともに連続的に減少してTMIでゼロとなる
ことが分かった.このことから,BaVS3のMITは最終的にはegp軌道の局在化によっ
て生じると考えている.硬X線光電子分光(hn=6keV),V 2p-3d軟X線吸収線二色性
分光の結果についても紹介する.
2) 価数揺動系YbInCu4の価数相転移
YbInCu4はTv=42 KでYb価数3価(低温側)から2.9価(高温側)へ,構造不変のまま価
数相転移を示す.我々はこれまで,この系について,光電子分光による価数相転
移の直接観測を試みてきた.硬X線(hn=6keV)を励起光に用い,Yb 3d内殻を励起
することにより,急峻な価数相転移の直接観測に成功したので,その結果につい
て紹介する.また,Cu2p内殻スペクトル,Cu 2p吸収スペクトルの温度変化から
価数相転移近傍での伝導電子状態の観測を試み,価数相転移のモデルを提案した.
セミナーでは構造解析の結果もあわせて紹介する.