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高周波リニアックによるミューオンの加速実験に成功 ミューオン研究グループ

KEKの素粒子原子核研究所、加速器実験施設、物質構造科学研究所に加え、日本原子力研究開発機構(JAEA)、茨城大学、名古屋大学、東京大学で構成する研究グループが、東海村のJ-PARCにおける実験で、ミューオニウム負イオンを、RFQ(高周波4重極型リニアック)を用いて加速する実験に成功し、11月に愛知県岡崎市で開かれたビーム物理学会2017などで報告しました。これは、素粒子の一種であるミューオンを加速することと等価であり、品質の高いミューオンビームの生成に役立つ世界でも初めての成果といえ、ミューオンの基本的な物理量である異常磁気能率(g-2)、電気双極子能率(EDM)を世界最高精度で測定できることにつながると期待されています。

ミューオン(μ)は、素粒子標準模型では第2世代の荷電レプトンで、電子(e)と同じマイナスの電荷を持ちますが、重さは約200倍あります。1930年代に宇宙線の中から見つかり、さまざまな実験や測定に利用されてきました。KEKとJAEAが運営するJ-PARCセンターでは、光速近くまで加速した陽子をグラファイトの標的に衝突させて得られるπ中間子の崩壊で、ミューオンとミューオンの反粒子(μ+ : 反ミューオン)を作り出し、物質の構造を調べる実験などに利用しています。しかし、ミューオンも反ミューオンも電荷を持つため静電場を作ることで減速・加速することが可能ですが、進行方向やエネルギーがまちまちで、これらが十分そろった高品質のミューオンビームを作ることは極めて困難でした。

研究グループでは、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)のミューオンビームラインを使い、革新的なミューオンビームラインを作るための基礎実験を開始しました。2014年9月には、π中間子が崩壊して出来た反ミューオン(μ+)をシリカエアロゲルの標的内に止め、真空中でほとんど止まったミューオニウム(Mu :μ+と電子の束縛状態:水素原子のような原子状態)を大量に作り出す実験に成功。グループの描くシナリオでは、この大量のミューオニウムを、高強度レーザーを使って共鳴乖離(マイナスイオン化)してほとんど止まった反ミューオンを生成、RFQなどの高周波加速空洞で加速、サブppmの精度で精密制御された超精密磁場中へ入射し、ミューオンのスピン歳差運動の周期を測定するというもので、ミューオンの加速はクリアすべき二番目の課題となっていました。

研究グループは、2014年8月よりミューオンの加速にむけた準備を開始しました。2016年2月、2016年12月、2017年3月にJ-PARC MLFで実験を繰り返し、加速実験に必要な基礎データを蓄積してきました。そして2017年10月下旬、6日間の実験期間中に、ミューオニウム負イオン(Mu)が、ほぼ停止した状態から90keVまで加速されたことを確認したということです。

ミューオンの高周波加速を目指してこれまでに様々な研究開発が行われてきましたが、実現したのは世界でも初めてとされています。RFQで加速されたミューオンビームは進行方向やエネルギーがこれまでになくそろっていてバンチ構造を保つため、後段の高周波加速器によってさらに高いエネルギーまで到達可能です。加速によって得られる高品質ミューオンビームはミューオンg-2/EDM測定などのほかにも、透過型ミューオン顕微鏡などへの応用も期待されています。

ミューオンg-2/EDM実験を率いるKEK素粒子原子核研究所の三部勉准教授は「今回の成功は非常に大きな一歩です。ミューオンg-2の値は、素粒子標準理論から高精度で予測できますが、アメリカ・ブルックヘブン研究所の測定では、その予測するよりも数ppmだけ大きいことが示唆され、素粒子標準模型を超える新しい物理現象の兆候とも考えられています。これを高品質ミューオンビームによって新しい手法で検証するのが我々の実験です。今回のミューオン加速の実証により、我々が目指す高品質ミューオンビームの実現が大きく近づきました」と期待を語りました。


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